五、体系 (2)
30階から50階までが人々が暮らす空間になっていて、最初に見えた公園や、居住区、職場、食堂など、生活に必要な施設がすべてここに収まっているとのことだった。
ここから出たことはないのか?と聞いてみたが、オーフォはその質問の意味がわからない様子だった。30階から下に何があるのかオーフォは知らないし、考えたこともないと言った。
50階より上は、チーフや幹部など上層部の施設が入っていて、何階まであるのかは誰も知らないそうだ。
ここでは、人間は初期設定のまま100階にある「STARTUP ROOM」から出てきて、事前に指名されたチームのメンバーが出現に立ち合い、ナンバーの確認とアクティベートというのをするのだそうだ。
本来は、アクティベートをすると、すぐにこの環境に順応し、特に多くの説明はいらないはずなのだが、なぜだかリサコはそうできなくて、何かしらのバグがあるのかもという結論に至ったとのことだ。
ここに出現する人間に割り振られるナンバーは、アルファベットと数字で構成され、製造番号のようにその個体固有のもので彼らの名前の代わりにもなっている。それを聞いて、彼らの名前、オーフォはO-4、チーフのアイスリーは I-3なのだと気が付いた。
新入りのナンバーは出現するまでのお楽しみで、アルファベットによって多少能力が決まってくるらしい。
ここでは全体で約10万人が暮らしており、アルファベットや数字が若いほど古株で、オーフォやアイスリーなどはまあまあベテランな方に入る。
ここの人たちには病気もしないし、そもそも寿命もないらしいが、事故などで死んだり、精神に異常をきたして死んでしまう人が一定数いて、定期的に人が出現することで、人数をキープしているとのことだった。
そして問題のリサコは、R-2。R番台の2例目だそうだ。今までQ番台までは普通に出現していたそうで、R以降は存在しない、というのが常識だった。
そんなある日、突然「R」がやって来た。「R」もまた、リサコとはタイプが違うが、特異体質の個体だそうだ。「R」もアイスリーチームに所属しているそうで、後で紹介してもらえることになっている。
R……、RってあのRだったりするのだろうか??リサコのブログに謎のコメントを残した、あのR??
会ってみればわかるだろう。リサコは「R」に早く会いたくて仕方がなかったが、オーフォはまずはここでの生活をリサコに教えたいみたいだった。
本来ならアクティベートすれば自然に知るはずだった基礎知識の伝授を先に済ませたいんだとオーフォは言った。
ここでは生活に必要な衣食住はすべての人に平等に割り振られている。住民たちは、居住区画に一人一部屋持っていて、そこで寝泊まりしている。それから、いつでも好きな時に食堂とシャワーが使える。
食料は自給自足しており、施設内に畑や牧場がある。娯楽施設も充実していて、飲み屋やゲームセンターのようなものがあるとのことだった。不思議なことに、映画や音楽と言った娯楽は、その概念すらここの人たちにはない様子だった。
「お金」も存在していないようで、それぞれの役割をみんながやることによって全体が機能し、社会活動が成立しているようだった。
オーフォに説明を受け、リサコはほぼほぼ確信していた。
リサコはもんのすごい未来にやってきてしまったに違いない。この人たちは変わっているけど、見た目は人間とまるで同じだ。環境破壊かなんかして、地上に人類が住めなくなり、巨大な地下都市か、宇宙コロニーなんかを作って生き延びた人たちなんじゃないか?
あまりに未来過ぎて、リサコたちの時代の記憶は失われているのか?
何らかの理由で生殖能力を失った人類は、人工授精だかクローンだかわからないけど、本来の方法とは異なる方法で人を産み、絶滅を逃れた…。
そんな突拍子もない考えが正解と思えるほど、ここはリサコの知る世界とは何もかもが異なっていた。
70億人に迫る勢いだった人類も、たった10万人か??
それとも、他にも人類が生きているところがあるのだろうか??
リサコは機会を見て、ここの真相を暴いてやろうと心に誓ったのだった。
やっとオーフォの説明が終わり、いよいよリサコは他のメンバーと対面する時がきた。
アイスリーチームは総勢200人規模の大所帯で、その中にさらに数人から数十人で構成される班がいくつもあり、分担して作業をしているとのことだ。
チームの規模や構成はまちまちで、自動的に割り振られているらしい。それでリサコはオーフォ班になったのだ。
ラボ(とオーフォが呼んだ)は、49階の一角にあった。
そこは、同様の作業をしている班のラボがひしめき合っている区画だそうだ。
錆びた鉄のドアを開けると、まるでデストピア映画の反政府分子のアジトみたいな部屋が現れた。
部屋には7~8人ほどの男女がいて、リサコ達が入っていくと一斉にこちらを見た。
「みんな見てただろう。紹介するまでもないけど、ヤマモトリサコだ。」
オーフォがみんなにリサコを紹介した。名前を言ってもらえて嬉しかった。「R-2」なんて、かの有名なロボットと同じ名前が定着したら、光栄ではあるが、ちょっと嫌だなと思っていたのだ。
リサコは深々と頭を下げた。
どの人が「R」だろう?リサコは部屋にいるメンバーを見渡した。それを察知してか「あれ、Rは?」とオーフォが言った。
「あいつなら、さっき出ていったよ。タバコじゃないの?」
「え?このタイミングで?」
「あいつらしいだろう。」
まだ名前の知らない面々が次々にしゃべり出した。
リサコは一番奥の空いている席に案内された。
隣の席の女の子(十二歳くらいに見える)がにっこり微笑んで迎えてくれた。
「あたし、L-83。この班には他にL番台がいないからエルって呼ばれてる。」
ここで、ラボのドアが開いて、誰かが入って来た。Rが戻って来たのだ。リサコは振り返ってRの姿を確認した。金髪でもっさりした髪。分厚で前髪で顔の上半分が隠れている。
それはどこからどう見ても、良介だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます