第10話 「やっぱりあの子が悪い」
新年早々、ユウコは風邪をひいて寝込んでいた。
こたつで寝てしまったからだ。
少し虚しい気分でいたのに、それに重なるように風邪で寝込んで、気分は最悪だ。
今は1人暮らしだし、誰にも家を教えていないので誰も家へは来ない。
ユウコは自分の力で風邪を治し、自分の計らいで風邪を治すためのご飯を作らなくてはならない。
でも、そんな元気はもうどこにもない。
ただただひたすらに眠り続けるしかない。
便所に起き上がるのも面倒臭い。
誰かに助けを求めるのにスマートフォンで電話をして助けを求めるのも面倒臭い。
喉が渇いたからと潤しに行くのも面倒臭い。
そんなことなら、近くにお茶でも置いておけばよかったのだ。
熱を測るとまだ40度近い熱があった。
本当は病院に行かなければならないのだろうが、馴染みのない病院に初めて行くのがこんな元気のない時で、それも1人で行くなんてそんなことできない。
こんな時、同じ屋根の下に愛する人がいたならいいのにと思うのである。
でもそれは叶わない。
最低なクズ男は気色悪い女とネトネトと愛し合っているのだから。
ああ、そういえば、あの時のノエミはちょっと可哀そうだったな。
ヤマグチ君は彼女のことを本当の意味では愛していないのかな。
だって本当に心から愛していたら彼女が1人ボッチになるような計らいはしないもの。
彼女のことを1番に考えて、行動するもの。
そう考えたらノエミは結構可哀そうな女なのかもな。
あ、でもあの女は私から恋を奪ったんだ。
それに大馬鹿でクズでカスで汚い男はセックスがしたくてあの子を誘惑して、本当に許せないくらい憎い。
でも、その誘惑に乗ってしまうあの気色悪い女の方が人間のクズだ。
彼女が1人、孤立しているのは納得していいのかな。
自業自得とでも言えるのかな。
私が心の汚い女であると自認したくないけど、彼女のことを自業自得と思わざる負えないわ。
だって、彼女が孤独なる原因は自分自身にあるのだもの。
それにしても彼女は以前の彼女よりも笑顔が減ったような気がする。
笑顔を作ってくれないような男といて何が楽しいのだろう。
変な女。
彼女はただ、私から愛する人を奪って快楽に浸りたかっただけなのかしら。
それとも、心の底では私のことを憎んでいたのかな。
いや、自覚がないから分からないけど。
そもそも直接彼女に聞かなければ本当のところはわかないけれども…。
それでも彼女は私から幸せを奪ったことには変わりないわ。
彼とセックスをすることができなかった私も悪いけれども。
セックスがそんなに重要なのかという疑問もあるけれども、彼が私に対してそれだけを望んでいたのかもしれないけれども、この関係を壊したのはあの女。
よくあんな卑劣なことができるものだ。
友人の恋人の甘い誘惑に乗ってしまうなんて。
布団にくるまって色々と考えているとスマートフォンが鳴った。
ショートメールだ。
少し頭で考えていたら楽になってきたので、お茶を取りに行くついでにそれも手に取って布団へと運んだ。
『明けましておめでとう。最近どう?』
こともあろう、ヤマグチからのメッセージだった。
よく私にそんなこと聞けるなと思ったが、ユウコは優しすぎた。
『明けましておめでとう。変わりないよ。そっちは?』
そんなごく普通の返信を何となく返してしまった自分を、ユウコは罵った。
(そこは無視するところでしょ。何普通に返信しているのよ。)
ややあってまた返信が来た。
『ぼちぼちだよ。ユウコちゃんも幸せになりなよ。そのうち、いい人ができるはずだから。』
(はぁ?なんなのこいつ。何様なのよ。)
そう思いつつ、『そうだね、一応待っておくわ。』と返信した。
この時初めて、ユウコは優しい自分が嫌になった。
他人を罵ることができない、他人を傷つけるようなことを言えない。
他人がイラつくようなことを言えても、他人が傷付くようなことは。
ヤマグチからの思いもよらぬ、意味の分からぬ年始メッセージに腹を立てるとまた少しだけ元気になった。
怒りというのは人間と元気にさせてくれるらしい。
熱はまだ少しだけ高いが、歩く元気は出た。
ユウコはのっそりと起き上がると、支度をして家を出た。
家に帰って早めの夕食を食べている時、ユウコはまた考え始めた。
やっぱりノエミが悪いわよね。
だって、知っていたのだもの。
私と彼が交際している事実を。
知っていて彼女はあんな最低なことをしたのだから。
知らないのならば、百歩譲って許してあげられるわ。
でも、知っていながら、それも「ノエミが」したから私は許せないのよ。
本当に気色悪い。
顔も見たくないわ。
一層、死んでくれたらいいのに。
でも、あのカス子が死んだら私が疑われるのよね。
それは困るわ、あんな汚い女と男のために犯罪者になるなんて耐えられないわ。
でも、やっぱり一番悪いのは私ではなくあの気色の悪い、胃がむかむかする様な女なのよ。
最低最低最低最低最低最低最低。
次顔を見たら思わずボコボコにしてしまいそうだわ。
でも我慢しないと、私がすべきことはそれじゃないわ。
あのクズたちを泣かせてやるのよ。
暴力とは違うやり方で。
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