第9話 「本当は私が悪かったの?」

いよいよ新年を迎える。

「ああ、今年は1人か。」

そうつぶやくとスマートフォンの暗い画面が光った。

『今年も頑張たわね。少し早いけど、明けましておめでとう。』

母からのメールが来た。

珍しい。

滅多に連絡をくれなかったから、少しうれしく感じる。

でも、今年の新年は1人であることには変わりない。

新年だからと、普段は太るから我慢しているお酒を買ってきた。

そのお酒を奮発して買ってきた、新鮮な魚の刺身と共に胃へ流す。

母からのメールの後、地元の友人達からも続々と『明けましておめでとうメール』が来た。

1つ1つ丁寧に返信をしてから、テレビをつける。

地元のテレビ番組では年越しに『年越しカラオケ 民衆の叫び』と言うものがある。

それには地元の老若男女が集って、カラオケバトルをする。

点数の高い人が残っていって、優勝者の住んでいる地域にはこの栄光を称える市内放送が元日の10時から18時まで流れる。

褒美なのかいまいち分からないそれが毎年のお楽しみだったが、上京してからはそれがない。

東京のテレビはまだよく分からない。

地元ではローカル番組ばかり見ていたし、全国系の番組は皆時代遅れ。

それもまた地元の醍醐味と言えば醍醐味だった。

テレビをつけるといきなり大きな笑い声が聞こえてきた。

お笑い芸人の発掘オーディション番組らしい。

普段のユウコなら、笑いこけてみていただろうが、そんな気分ではない。

他の番組の似たり寄ったりだ。

新年新年とどこもお祭り騒ぎ。

その空気には耐えることができず、ユウコは点けたばかりのテレビを消す。

でもまた、点け直す。

1人の静かな部屋の中を何の音もなしに新年を迎えるなんてその方が耐えられない。

新年番組が耐えられないならば、録画でも観よう。

いや、DVDでもいい。

上京する時、1人でも寂しくないようにと地元の友人たちがDVDを沢山くれた。

まだ観ていないものもあったので、この際新年3日くらいでいっき観してしまおう。

最初の映画が問題だった。

浮気された中心人物は段々と憔悴していくのだ。

最終的には愛する人が天から現れて、その相手と暖かな家庭を築くという物語だった。

でも、今のユウコにはとても心に刺さるものがあった。

別に感涙するような、泣いてしまうような話ではなかったのだが、今までにない位涙した。

気持ちを切り換えようと見始めたDVDだったのに、いつの間にか昨年の反省会が始まっていた。


そもそも、あんな男を見抜けなかった私が悪かったのだ。

私が彼とセックスできていればこんなことにはならなかった。

でも、あんなクズみたいな男に処女をあげるなんて勿体ないことしたくない。

いやでも、あそこで断ってしまった私も悪い。

そもそも彼と仲良くなったのが悪かったのかな?

でもでも、彼のふしだらな誘いに甘くものってしまったあのヤリマンの方が悪い。

それでも、私がこんな見る目のない女だったのが一番よくなかったのかも。

誰が見ても、セックスの覚悟ができていなかった私の方が悪いと言えなくもないし。


気付いたらお酒も、刺身もなくなっていた。

時間も明け方になっていた。

そしてまた、ユウコの頬に一筋の涙が流れた。

「もう疲れた…」

そう小さくつぶやくと、こたつで眠ってしまった。

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