1年と160日「……ヤバイ。スイッチ入る」

「……ヤバイ。スイッチ入る」

紗奈が呟いた。


僕は紗奈を優しく、だけど強く抱きしめながら返す。

「我慢して」

「……うん」


僕らは今、抱き合ったままベッドに転がっている。


始まりはなんだったか。

どちらからというものでもなく、お互いが好きなようにスマホでネット小説を読んでいた際に、ふと身体が触れ合った。


いつもならそうなる前に顔が近付いてもきゅもきゅを繰り返すのだけど、今日はその前に身体が触れ合ったことで自然と腕が伸び、お互いを抱き締めてしまった。


更に紗奈の重みを感じたくて、抱きしめたまま紗奈をそのまま上に乗せたのもマズかった。


温もりと重みと、更に紗奈の柔らかさが僕の脳髄から正常な判断を奪ってしまった。

トクトクと互いの心臓が混ざり合っているような感覚もする。


付き合いだした当初はこんなふうに抱き締めてしまえば、心臓がバクバクと激しいビートを刻んだ。


今ではそうであることが自然であるとでも言うように、2人が1つに溶け合うようなほどの穏やかな幸せを感じる。


ふと紗奈の潤んだ目と目が合う。

「ふうたぁ〜。も、もきゅもきゅは……マズイ、よね?」


マズイ。

もきゅもきゅをしようと、僅かでも唇が触れただけでお互いが我慢の限界を超えてしまうだろう。


キスは僕らにとって互いを求めることが止まらなくなるスイッチなのだ。


そうしてトクトクとお互いの音を聞いていると、次第に心が落ち着いて来る。


「……時々、こうして抱き締めてくれると。

嬉しい」

紗奈がそう言うので優しく抱き締めながら、紗奈の髪にキスを落とす。

「……うん」


紗奈が顔を上げてえへへと笑う。

僕も嬉しくなって紗奈をぎゅっと抱きしめ、僕らは唇を重ねる。


「あっ」

「あっ」

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