1年と148日目「何事も迷いはダメね」
「何事も迷いはダメね」
2人でベッドに入ってさあ寝ようかという時に、紗奈は布団に潜りながら唐突にそう言った。
僕は紗奈の被った布団を口元までめくり口を重ねる。
もきゅもきゅ。
そうしてから尋ねる。
「どういうこと?」
僕の口から逃れた紗奈は僕の肩に顔を擦り寄せ……つまり僕の服で自分の口元を拭く。
ヨシヨシと頭を撫でておいた。
「迷ったから良いものを書ける訳でもないし、迷いながらも書き続けるなら良いんだけど、書くのをやめたら全く『書けなく』なるわ。
この辺り小説を書くのは自転車に乗るのとは違うのね。
修練を怠れば、すぐに書き方や憑依の仕方を忘れてしまうわ」
「そうなんだ」
ひょこっと布団から顔を覗かせる紗奈が可愛くて、唇をそっと重ねる。
重ねたついでに柔らかな唇の感触があまりにも心地良く、味わいように唇で紗奈の唇を啄む。
美味なり。
「ちょっと颯太聞いてる〜?」
何度も唇を奪われながらも紗奈は僕を睨むようにしながらそう言った。
「聞いてる聞いてる」
聞いている訳がない。
いいや、聞いているんだけど、それどころじゃないだけだ。
何度も繰り返し唇を重ねては啄むを繰り返す。
「……聞いてない」
「聞いてる聞いてる。
紗奈には迷いがあるんだろ?」
そう言いながら口を重ねる。
もきゅもきゅ。
口を離すといつものごとく紗奈は訴える。
「そうよ!
私はこれからも書くべきか否か!
まあ、つくづく思うのは今も書いているのは読んでくれている人が居るからね。
居なかったら確実に書くのをやめてるわ。
何年かしたらまた書く気になるかもしれないけれど、書くのを休止してたらほんと実感するわ。
人は応援無しに書き続けられるものじゃないって。
応援無しに書き続けられる期間は1年が限度ね。
その間、自分の魂エネルギーを消費しながら人は書いているのね。
だから1年〜2年で書き手は入れ替わってしまうのよね」
再度紗奈の口に口を重ねる。
「そういうもんなんだね」
口を離して、紗奈の口元を優しく服の袖で拭い、頭を撫でる。
書き手の気持ちは僕に分かるものでは無いけれど、様々な葛藤があるのだろう。
ふぃ〜と紗奈は話すのに満足したように息を吐く。
それから紗奈の方から、唇を啄むようなキスをしてくる。
この時、自然と紗奈の熱に浮かされたようなトロンとした目が合う。
なお、寝る前の紗奈は体温が高く改めて引っ付かれるとその温かさでドキドキしてしまう。
「紗奈、そのキスはスイッチが入るけど?」
紗奈がその気が無ければ我慢する所存だ。
若者らしからぬ神がかった自制心を、僕は自分を心の底から拍手喝采で誉めた。
紗奈がその気なら……。
対する紗奈は僕から見て妖艶に微笑み。
「……スイッチ入れてるの」
もう止まりようはなく、僕らは唇を重ねた。
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