1年と41日目「浮かんだわー!」
「浮かんだわー!」
紗奈が部屋に入ってくるなり、両手を広げて唐突にそう言った。
僕は椅子を回転させて紗奈の方を向く。
「何が浮かんだ?」
「作品のアイデアよ!」
そうかそうか、作品のアイデアか。
「公爵の話は?」
「書いてるわよ?
ストックは貯まらないけど」
うん、まあ、それは仕方ない。
「どんな話?」
「テンプレ……から世界を救う話!」
「最初はテンプレから入るってこと?」
「ううん、テンプレ転生チートハーレム主人公が敵」
おうふ、紗奈が普通のテンプレを書けるわけないもんな。
「考えながら授業中に涙したわ。
他の人に見られなくて良かったわ」
「何やってんの!?
……そんなに泣ける話になる?」
「ううん、絶対、半分はギャグになる」
だよねー、紗奈だし。
「考えても見てよ。
1番最初に浮かぶテンプレ転生チートハーレム物ってギャグなしに書くの、キツくない?」
「そこはある意味才能なんじゃないかなぁ?」
「すぐ浮かぶテンプレ転生チートハーレム物と言えば、なぜかいきなり最強で、ギルド行ってスゲーってなって、何故か学園でもスゲーってなって、何故か金髪貴族に喧嘩売られて何故か俺なにかしました?とか言いつつ、相手と的をぶっ壊して、何故か突っ込んで来るタイプか大人しめのタイプのヒロインゲットして、次に獣人のヒロインゲットして、学園か荒野か森で王女様もしくは貴族令嬢か女冒険者ゲットして……」
「よく考えれば、王女との遭遇場所が学園はともかく森か荒野かって酷いね」
「そんでもって勇者ぶちのめして、何故かたまたま潜入した魔族ぶちのめして。
賢者だろうとスキルだろうと属性だろうと回避回復だろうと聖剣だろうと、大体流れは同じ」
「テンプレだからね。
だから話はともかく、読みやすいかどうかで差が出るね」
「でもそんな世界で蹴飛ばされる金髪貴族とか勇者とか魔族とか散々じゃない?
後、女の子も奴隷が多い上に、なんというか、主人公に惚れる理由が酷……」
「まあ、そこまでにしておこうか」
紗奈の口を塞ぐ。
もきゅもきゅ。
口を離すと紗奈は少し落ち着いたらしい。
「それでまあ、その辺りが辻褄を合わせているテンプレ作品は酷くないけど、逆に辻褄が合わないというか、一般常識とかけ離れている主人公に対して対抗していく物語を考えたけど……」
「考えたけど?」
「エンディングまで考えて世界を救ったら、なんだか満足したわ。
書くのも大変だしね」
「そ、そう……。
まあ、でもテンプレツッコミ作品というのはなにかと危険っぽいね」
「そうね、ハッキリとは言えないけど、闇に葬られた作品も……」
「あれはちょっと配慮がない作品だっただけで……、ってそろそろまた口塞いでおこうか?」
あまり熱くなり過ぎるのも良くない。
「そうね、お願いするわ」
そう言って紗奈は舌を出すので、僕も舌を出してそれに重ねる。
これも僕らのテンプレではあるけれど。
もきゅもきゅもきゅもきゅ……。
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