376日目「決断の刻ね」

「決断の刻ね」


 朝から紗奈は僕にしがみ付いてイチャイチャした後に、唐突に何かを決意したようだ。


「何を決断したんだい?」

 よくぞ聞いてくれました、とばかりに僕の上に乗っかってくるので、ちょっと落ち着かない。


「書くのを止めるわ!」

「そうなんだ」


 これが紗奈の書く小説なら、ナンダッテー、と言うところだけど、紗奈が書くも書かないも紗奈の自由だ。

 紗奈が楽しんで過ごせるならそれで良い。


 僕の上でもぞもぞ動くのでその方が落ち着かない。

 落ち着けの意味も込めて頭を撫でる。


「正確にはテンションが上がらない状態で書くのを止めるね!」

「それは良いことだね」

 無理をしたところで良い結果にはならないものだ。


「テンション上がらない状態でも書いてたんだ?」

 紗奈は書いている時はノリノリで書いていると思ってた。


「ううん、気分が乗らない時は書いてない」

「書いてないじゃん……」


 紗奈は上から不意打ちのように、んちゅと唇を重ねてきた。

「……味見」

「……それなら僕も味見したいんだけど?」

「それって止まんなくなるやつだよね?」


 そう言いつつも、紗奈はもう一度、んちゅと唇を重ねて来る。

 ちゅっちゅっと続くと、お互いに止めないものだから、まあそうなる。


 唇が僅かに擦れる程度に離れて、紗奈は呟く。

「……大好き」

 その囁きだけで紗奈の唇は僕の唇に触れる。

 応えるように口を奪う。


 もきゅもきゅ。


「……結婚しよ?」

「……する」


 何度も交わした約束。

 今更、お互いにその約束を違えることなどない。


 これは仮定の話。

 ほんとにほんとに極端な話。


 もしも僕らのどちらかがその約束をたがえようとしたその時は、僕らの間には間違いなく子供が出来るだろう。


 たがえられようとしたもう片方が、逃さぬように取り返しのつかなくなるように縛り付けたくて。


 そこに理性は残らない。

 僕らにとって相手を失うということは、自分を失うことと何一つ変わらないのだから。


「んっつ」

 僕が紗奈の口の中を蹂躙したせいで、紗奈が悶える。


 ……変な想像をしたせいで感情が制御できなくなりかけたせいだ。


 上からしがみ付く紗奈を逃さぬように、僕は彼女を優しく抱き締める。

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