357日目「また1人、カクヨムから英傑が去ったわ……」

「また1人、カクヨムから英傑が去ったわ……」


紗奈は先程までスマホでカクヨムを読んでいたのに、僕らのベッドでグッタリとしながら、唐突にそう言った。


僕は机の上を片付けて、紗奈の隣に座る。


「英傑?」

「そう、英傑。

面白い作品を書いていた作者がまた1人カクヨムから去ったのよ……」


「ああー、なるほど」


紗奈はうつ伏せたまま、震える手でスマホを持ち上げ叶わずばたりと手を下ろす。


「以前、颯太と一緒にTRPGやってた事あるでしょ?」

「随分前だね?

ソード◯ールドだね、グラランは至高だよ」


紗奈は転がりながら僕の腰にしがみ付き、僕のお腹に顔を埋める。


「そうね。

その中で誰かから聞いたのか、自分で調べたか覚えてないけど、冒険者という立場の厳しさについてこんな情報があったの。


曰く、新人冒険者の内、一年後も冒険者を続けている数は10%に満たない、と」


「100人居れば10人だけか……。

厳しいね」


お腹をぐりぐりしながら、さらに紗奈は続ける。


「そうね、でもこれってかなり的を得ていると思うの。

例えば超ブラック企業が大規模採用50名採用して、続けるのは5名とかよくある話よ?」


「そうだね、世知辛い」

紗奈は僕にしがみ付いたままでさらに話し続ける。


「死亡だけじゃなくて転職とかも含めるとそんなものだと思うの。

私の小説でも物語で明かしてはいないけれど、冒険者に対しての世界観はそれを準拠しているわ。


私はね、カクヨムも……いいえ、ネット小説も同じだと思うわ」


「ほうほう」


大きな模試が終わったところで疲れ切っているらしく、溜まりに溜まった鬱憤を発散すべく話続けているのだろう。


男の僕がやるべきことはただ聞くのみである。


「……つまり一年後、書き続けている新人作者は10%ほどしか残らないのよ!

どどーん!」


「なんとぉぉおおおお!!」

「良いノリね、颯太」

嬉しそうに紗奈は顔をあげる。


「そう?

ならご褒美頂戴」

ちょいちょいと僕は唇を指差す。


紗奈はジッと僕を見て、しょうがないなぁとニヤニヤして紗奈は僕の唇に自分の唇を重ねた。

そこから互いに舌を這わせる。


もきゅもきゅ。


口を離すと紗奈は言った。

「なんの話だっけ?」


「カクヨムも一年後に書き続けている数は少ないよねって。

ある人が言ってたよ、ずっと書き続けるには面白いものを書く才能じゃなくて、続ける忍耐とモチベーションの維持だって」


「納得ね」


そう言いながら紗奈は僕に全体重を預けた。

お疲れのようなので、そのまま僕は紗奈の頭を撫でておいた。


「まあ、あれよ。

テンション上がるまでは休むことにするわ」

「うん、そうすると良いよ」

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