62日目「んぐっ。」

「んぐっ。」


帰宅後玄関の扉を閉めてすぐに、紗奈を抱き締め、唇を奪った。

一本に括られた紗奈の黒髪が揺れる。


「むぐ!?」

更に追撃。

紗奈は驚いた顔をしていたが、もごもごしていると、とろ〜んとした。

すっごく可愛い。


いい加減離さないといけないかなぁと思い、渋々、解放してあげる。


紗奈は僕の胸に両手を置き、下を向いて息を整える。


「嫌だった?」

嫌だったなら、大いに反省しなければいけない。

紗奈は首を横に振る。

それから紗奈は僕を見上げる。

少し涙目だ。


「颯太ぁ〜、、、駄目だよぉ〜。」

「うん、、、駄目だね。」

当然、今まで玄関でこんなことをしたことはない。

じゃあ、なんでこんなことをしたかと言うと、、、。


深い理由はない。


「紗奈が可愛い過ぎたから仕方ない。」

「、、、颯太がぁ〜颯太がぁ〜、狼颯太になったぁ〜。」

狼颯太ってなんだろう?

狼少年?


「嘘じゃないよ?」

「嘘じゃないのはわかるよぉ〜、、、。」


とりあえず、いつまでもここにいて、両親が帰って来たら、大惨事だ。

とにかく部屋に移動だ。


「颯太がぁ〜危険だぁ〜。」


ああ、そうか。

僕は今、危険な状態なんだ。


「紗奈、部屋に戻って着替えておいで?僕も少し落ち着くよ。」

紗奈はへにょへにょしながら、頷いて大人しく自分の部屋に帰って行った。


僕は部屋に入り、、、いつもの勉強机へ。

椅子に座り、頭を抱えた。

「、、、やってしまった。」


危ないところだった。

紗奈に危険と言われなければ、そのままこの状態で紗奈を部屋に連れ込んでしまって、それはもうヒドイことになるころだった。


よく我慢した僕!

偉いぞ僕!

逆の意味で、何してくれとんじゃー!と僕が僕に叫ぶけど、大事なのは紗奈だ。

僕が我慢出来る分には、我慢しよう。


、、、正直、自信無いけど。

なんでこうなったか、理由は実はある。


昨日のイチャイチャレベルだ。

あれは危ない。

つまり、強制イチャイチャレベリングが発動したというか、実は僕らのイチャイチャレベルが気付かない内に高くなり過ぎていたというか。

うん、よく分からない!


こんこん、と小さく部屋がノックされる。

いつの間にか考え込んでいたらしい。


紗奈が少しだけ扉を開けて、覗いて一言。

「、、、颯太ぁ〜。危ない?」


僕は頷く。

「危ない。」

断言出来る。


紗奈は扉を開け、部屋に入りしっかりと扉を閉め、下を向きながら、いつもの定位置に座る。

つまりベッドの上。


僕は頭を抱えた。

『狼颯太さん。料理が出来ましたよ?』

そう言われてる気がする。


心なしか紗奈の顔も赤い。


「、、、イチャイチャって言葉、危険だったんだね、、、。

付き合う前のラブコメとかだと、ここまでのイチャイチャとかしないから、、、。

大人の恋愛か結婚後の話とかでないと、、、。」


紗奈は小さな声でそう言う。

声が僕の耳をくすぐるような感じだ。


「確かに付き合う前にしていいイチャイチャじゃないね。

付き合った後でも、人によってはしないね。」


何か話していないと意識を持っていかれそうだ。

イチャイチャに。


「ラブコメには、こんなイチャイチャが危険だなんて、書いてなかった。」

「書いてあるのも、あると思うよ?紗奈が気付かなかっただけで。」

「、、、そうなんだね。」


紗奈はちらっと覗くように僕を見る。

僕は紗奈をまっすぐに見る。

紗奈は両手を差し出すように僕に伸ばす。

僕はそれに微笑む。


ベッドの紗奈の隣に移動して、紗奈の頬を優しく触れる。

「嫌じゃない?」

「嫌じゃない。嬉しい。颯太好き。」

その言葉が僕の身体の奥を突く感覚。

「僕もだよ。愛しい紗奈。」


自分の言葉を考えると、恥ずかしくなるので、それを誤魔化すように、紗奈の綺麗な目を覗き、、、。


思ったのは、恥ずかしいけど、好きだからいいか、とそんな気持ち。


そうして僕らは、互いの好きの気持ちが心に乗った口付けをした。

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