15日目「ねえ?癒してあげようか?」

「ねえ?癒してあげようか?」


僕のベッドの上で、座りながらスマホで小説を読んでいた紗奈さなは唐突にそう言った。


クッ!


僕は完全に手を止め固まってしまった。

万事休す!


僕は即座に振り向きたい欲求が走るのを、奇跡の自制心で我慢しながら、くる〜りと椅子を慎重に回転させた。


「こ、今度は、いったい、どんなし、小説なんだ?」


僕は内心の動揺を悟らせないように、慎重に言葉を選ぶ。


そこで紗奈はいつもなら、スマホで小説を見せてくれるはずが、何故か両手を伸ばす。


颯太ふうたが疲れてそうなので、癒してあげようかと思って。」


ガタンッとあまりの動揺で、僕は椅子から落ちた。


「な、何を言って、いるんだい?僕は、疲れて、いるかもしれないが、癒しが欲しくないこともないこともない、けどない。」


あ、あれ?どっちだっけ?


紗奈はベッドから降りて、転んだままの僕の側に寄り、よしよしと頭を撫でた。


「無理しちゃダメだよー。」


確かにテストが近いので、集中してやり過ぎてた感じはある。


深〜くため息を吐く。

そこでふと紗奈に聞く。


「紗奈は勉強しなくていいの?」


紗奈はギギギと音がしそうな感じに、首を逸らす。


「保険体育は自信あるよ?」


それはどういう意味だ!?

ダメだ、疲れ切って、まともに頭が働かない。


「ほらほら、ベッドで休んだ休んだ。」

紗奈に促され、普段は紗奈が寝転ぶベッドに、ボフッと倒れ込む。


なんだか落ち着く〜。

紗奈がベッドに腰掛け、僕の頭を撫でる。


子供扱いだけど、嫌ではない。


「はいはい、颯太。いつも頑張ってるからね。たまにはお休みしないとダメだよ?」


そうして、僕は本当に珍しく、紗奈を置いて眠ってしまう。


「お休み、颯太。」

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