第xxx話 あるはずの無い未来の話その後編

『最も暗く深き迷宮』に入ったケロ子達。

“闇梟”。

“毒蛙”。

同時に十数体の魔獣が現れる。

女神教団の戦士達が戦う。

相手は一匹では無い。

十体以上の“毒蛙”がいるのだ。

後方から飛んでくる『毒の唾』を戦士達は受けてしまう。


「チィッ」

カトレアの矢が唸りを上げる。

“闇梟”を撃ち抜く。

巨大なフクロウの体を矢が貫く。

地面に落ちたフクロウへ戦士達が向かう。


「一撃で“闇梟”の飛行能力を奪うなんて」

「さすが弓聖カトレア様」


ケロ子は地面を打つ。

ゆっくりした動作から手の平を大地に。

打つと言うより当てるような動き。



『螺旋掌』


だが、地面は揺れる。

女性が軽く地面に触れただけの動作に見えたにも関わらず。

地震のような振動、大地を伝わるナニカ。

“毒蛙”。

無数の魔獣が飛び跳ねていた。

魔獣の意思で跳んだのではない。

大地に振り飛ばされた。

飛び跳ね、地面に落ちた魔獣は全て気を失っている。


「一体今何が起きたんだ?」

「魔獣が全て気絶してるだと!」


トドメを刺す戦士達。

片付けは任せてカトレアはケロ子に近づく。


「さすがだな、ケロちゃん」

「カトレアさんこそっ」


笑い合う二人だ。



『回復の湖』


毒を受けた戦士達を聖女エンジュが一気に回復させる。

エンジュ以外ほとんど使える者はいない魔法。


「おおっ、俺の身体が」

「毒も、傷も回復していく」


「さすが、聖女様」

「うむ、先代の大教皇様でもマトモに使えなかった大魔法を易々と」


「あのランクの魔法を使えると言ったらエンジュ様とあと一人だけだろう」


教団戦士が騒ぐ。

エンジュへの賞賛。

そのついでに上がってしまうあの方の名前。

奇跡の救世主。

この大迷宮時代、あらゆるところに新たな迷宮が現れ魔獣が出現する時代。

その時代に対応するように現れた伝説の人。

聖者サマとチーム『天翔ける馬』。

『地下迷宮』を数日で制覇し、更には『野獣の森』をも制覇。

帝国冒険者による『鋼鉄の魔窟』制覇にも協力したと言う。

既に伝説だ。

どこまで真実か彼等には分からない。

が、絵物語にはその様に書かれている。

更には、カトレアの『不思議の島』制覇。

エンジュ様の『海底に眠る都』制覇。

西方神聖王国迷宮冒険者部隊による『竜の塔』制覇。

その全てがあの方の協力無しでは成し遂げられなかった。

そう言われているのだ。

しかし。

現在『最も深く暗き迷宮』攻略に当り、あの方は居ない。


「あの方を救出するために我らは行くんじゃないか」

「そうだ、『最も深く暗き迷宮』からあの方を救い出すのだ」


「しかしあの方を見た人間はいないんだぜ」

「本当にこの『最も深く暗き迷宮』に囚われているのか」


居たとしても。

現在でも生きているのか。

その疑問までは戦士達は口に出さない。

生きている。

そう信じるしか無いのだ。


「生きてるよっ」


そんな戦士達に声が掛けられる。

確信を持った響き。

絶対に間違いない。

分かり切った事を言ってる。

そんな思いが言葉に込められる。


「ショウマさまは生きてる」


ケロ子が言う。




『最も暗く深き迷宮』

その最奥に潜む“パンドーラの函”。

そこにショウマさまは居る。

ハチ子ちゃん、ハチ美ちゃんでさえも。

ショウマさまは“パンドーラの函”に攫われた、囚われている。

そう思っている。


ケロ子は知っている。

攫われたのでも、囚われているのでもない。


ショウマさまは自分で逃げたのだ。

彼女が匿っている。


あの男。

帝国の皇子と名乗った男。

あいつのせいだ。

あの男が言った言葉がショウマさまに呪いをかけた。


「はっははははっははっは

 何者かと思ったら、何も持たない男だったとはな」


バルトロマイ。

あの男はショウマさまに近づいた。

「もしかして僕と同じ?転生者だったりして」

ショウマさまはそんな事を言っていた。

だけれども。


「シュレイメン皇帝の一族にはたまに産まれるのさ。

 皇帝家代々の知識、全てを脳裏に受け継いだ男が。

 何十代と続いた皇帝家、その記憶と知識。

 すべてが産まれた瞬間から俺には有る」


「勿論『失われた文明』の知識もな」


「聖者、オマエも似たような者じゃないのか。

 どこかから、何かから記憶を。

 本来普通の人間なら持てない知識を記憶を引き継いでるんじゃないのか」


「異世界、異世界の人間だと。

 くだらない。

 なんの戯言だ。

 本気か、本気でそう思っているのか。

 しかし、この男の知識は本物。

 ならば、本当に?

 見せてみろ。

 お前の記憶を。

 お前の正体を」


ケロ子は思い出すのを止める。

今は『最も暗く深き迷宮』攻略中。

考え事してる余裕は無い。



地下18階まで辿り着いた教団戦士達。

すでに疲労している。

聖女エンジュに神聖魔法をかけて貰っている。

だから傷は無い。

しかし魔獣と連戦。

暗い迷宮を警戒しながら歩き続けているのだ。

何時までも保つものでは無い。


「いらっしゃいませー」

「ここまで着いたとはなかなか出来ますな」


そんな声がかかる。


「何だ、誰かと思ったらケロコさん達じゃない」

「エンジュさまにカトレア殿、それは辿り着けるに決まってますな」


「エリカさんっ、ミチザネさんっ」


エリカとミチザネだ。

一時期はフワワシティの町長にならないか。

そんな話も有ったのだけれど。

「いやよ、アタシ冒険者の修業が有るの」

「ミチザネが幾ら有能でも、一介の商人ですからな。

 町の代表には相応しくないでしょう」

彼等は冒険者をしながら『最も暗く深き迷宮』の18階に辿り着いた。

その場所に町を作ってしまったのだ。

現在は18階を維持させるのに必死。


アンデッドや“迷う霊魂”が出る場所だったのだけど。

女神教団による浄化。

魔獣が嫌う薬草を栽培。

強引に安全圏の広場を作り出した。


宿屋に商店、食堂まで。

冒険者の憩いの場。


薬品店の裏。

薬造りの場にはコノハが居るはずだし。

護衛のタマモも居るはずだ。


宿屋の部屋で一休みするケロ子。


「ケロコさん、食堂やらない。

 ケロコさんのご飯なら繁盛間違いなし。

 冒険者達もユウキ百倍よ」


エリカさんはそんなコト言ってくれたけど。

ケロ子にはやらなくてはイケナイ事が有るのだ。



カトレアが部屋に遊びに来る。


「ケロちゃん、一杯だけ付き合えよ」

「葡萄酒ですか。

 明日も早いんですから、一杯だけですよっ」


ケロ子とカトレアはグラスで乾杯。


「この葡萄酒、新酒ですねっ。

 ショウマさまも好きでしたっ」

「アイツが?

 一丁前に酒なんか吞むようになってたのかよ」


キレイなラベルの貼ってあるワインボトル。

ボトルを手で弄びながらカトレアは問いかける。


「なあ、ケロちゃん。

 ホントウにアイツ生きてんのかよ。

 確証があるみたいだけどさ」

「はいっ、モチロンです。

 だって死なせるハズが有りません」


「“パンドーラの函”は絶対ショウマさまを殺しませんっ」


最初からおかしかった。

ケロ子は知っている。

彼女に対してはショウマ様はあの言葉を言っていない。

「我に従え・・・よ」

では彼女は何だったのか。

亜人モドキの従魔モドキ。

何かを誰かを欺いていた擬態。

何を誰を。

怒り心頭のハチ子、ハチ美は絶対殺すと息巻いている。

でもケロ子は。



バルトロマイ。

あの男は言った。


「くっくっく。

 本当に異世界、異文明より来たものとはな」


「だが、貴様の記憶ニセモノだ。

 よく自分で自分を欺いたモノだな。

 そうしなければ生きていけなかったか。

 哀れだな」


「何が『学校は二ヶ月に一度通う事に決めたよ』だ。

 二ヶ月に一度しか行くことが許されなかったのだろう。

 週に一度の外出、それも真夜中しか出かけられない。

 なんせ車椅子を使ってやっとの外出。

 好奇と同情の視線が集中するのはまっぴらだものな。

 確かに偉業だよ。

 わざわざ深夜、人の少ない時間を選びに選んでのお出かけか。

 哀れなコトだ」


「どんな人間かと思ったが。

 何も持たないモノ。

 他人の同情から得た金銭、手当だけで生きていた男とはな。

 クックック」


そして。

ショウマさまは逃げた。

逃げ出したのだ。


多分ショウマさまは苦しんでいる。

彼女はそんなショウマさまを閉じ込め、他人との関りから断つことで救っているのだ。

ケロ子をお姉さまと呼んでくれた彼女。


ショウマさま、苦しまないでください。

アナタが以前は何者であったとしても関係ありません。

ケロ子はショウマに伝えなくてはいけない事が有るのだ。

それはケロ子だけが伝えられるコト。



「もう寝ましょうっ。

 明日は何階まで行けますかねっ」

「うーん、初めて行くフロアだもんな。

 迷いながらだと時間がかかるぜ。

 ブルーヴァイオレットさんだけこっちに引き抜けないかな」


寝る支度をしだしたケロコの顔を眺めるカトレア。

ウソみたいだが、この娘ホントウにアイツが好きなのだ。


ショウマ。

カトレアの弟。

村の神官はオタクのショウマ君は天才かもしれない。

そう言っていた。

けど違う。

カトレアはホントウは知っていたと思う。

村の人間、誰ともまともに関わらなかったアイツ。

天才なんかじゃない。

そんなモノと次元の違うナニカだ。

だから上手くいきっこない。

アタシともそうだ。


ショウマ。

何やってんだ。

オマエは頭良いかもしれない。

でもやっぱバカだな。

オマエを必死で探してるケロ子ちゃんが此処にいるぞ。

早く帰って来い。

ウチだって一応は姉なんだ。

この娘を一目見て分かった。

この娘はショウマにピッタリだ。

ショウマの為に居るような娘だ。

ウチには分かるよ。

アンタが出てきて、ケロ子ちゃんと又逢えばどうなるか。

だから。


カトレアは声を掛ける。


「んじゃオヤスミ。

 明日はがんばろうぜ」

「はいっ」


元気に返事するケロ子。

ケロ子の瞳は明日を見つめてる。


カトレアはドアを閉める。

彼女には分かってる。

ショウマとケロ子が再び会えばどうなるか。

決まってる。


幸せになるのだ。



























どーも。

くろです。

目を通していただいた方、ありがとうございます。

この話は前書きでも言ってる通り、

ショウマ達が今後、こうなると言う訳ではありません。

こういう展開をする可能性もあるだけです。

設定に関しても有る意味、裏設定。

物語の展開によっては使おうと思ってた設定。

公式設定とはあまり思わない方が良いのかも。

パロディー番外編くらいに思っていただいて・・・。

次回番外編は未定です。

書いときたい話も無いでは無いのですが、いろいろ忙しくなってしまったのです。

感想、お叱り、リクエストなどお待ちしています。

ではでは。

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クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。 くろねこ教授 @watari9999

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