第135話 アヤメ、フワワシティへ行くその3


「本当にお仕事でも忙しかったのよ」


まだ言うマリー支店長。


「だって『野獣の森』が移動したでしょ。

 『鋼鉄の魔窟』が解放されたでしょ。

 そこに冒険者さんが雪崩れ込んでくる。

 組合の準備しなきゃだもの」


ベオグレイドの組合に居た事務員を強引にフワワシティと『鋼鉄の魔窟』町へ分けて連れ出した。

マリーの冒険者組合役員としての強権発動。

ベオグレイドから『鋼鉄の魔窟』の有る鉱山へは1~2日。

新しい町が必要。

鉱山で働く人の為の収容所が有った。

そこを元に大改造。

それに関しても言えない話は多い。


強制収容所だったのだ。

犯罪者を捕まえ強制的に鉱山で働かせている。

本当に犯罪者なら帝国の法だ。

マリーが口出しできる話じゃない。

しかしあまりにも亜人が多かった。

女子供の亜人まで混じってる。

話を聞いてみれば、多額の税が払えなかっただけ。

他の人間より明らかに高額の税金。

役人、帝国兵に少しだけ逆らう言葉を言っただけ。

そんな亜人が大量に混じってる。

マリーはかなり強引にほとんどの亜人を罪人から免除にさせた。

冒険者が必要な場面。

彼等を冒険者として働かせる。

そのまま鉱山で『鋼鉄の魔窟』で働かせる訳にいかない。

どうしたってしこりが残る。

フワワシティへ連れ出した。

その分、一般の冒険者を『鋼鉄の魔窟』へ先導する。

帝国側は意外とすんなりマリーの要求を受け入れた。

やはり後ろ暗い事が有るからだろう。

やっと何とか形になって来た。

そんな所だ。

そんな苦労は話し出したらキリが無い。


「本当よ~。

 アタシだって大変だったの」


「はいはい。

 大変でした。

 でも毎日、現地のお酒を呑んで憂さ晴らししてたんでしょ」

「あら~、分かっちゃうかしら」


そんなマリーさんとキキョウさん。

アヤメはマリーさんに案内されてる。

マリー支店長は一度迷宮都市に戻ると言う。

その前に行かなきゃいけない場所が有るらしい。

アヤメはフワワシティを観光気分で観察しながら付いて来てる。


「ここよここ」


支店長が案内してくれたのは立派な建物。

何かしらこれ。

御殿みたい。


人がスゴク並んでる。

入り口からズラズラと人の行列。

何人くらい居るのかアヤメには見当もつかない。


「何ですか、この人出?」

「聖者サマに逢いたい人の列ね」


これ全部?

こんなの一人の人が逢うなんてどう考えてもムリ。


「ほとんどの人は事情だけ聴いて返すの。

 それなりの事情が有る人だけ。

 副町長のミチザネ君が対応。

 さらに賢者のミミックチャン。

 聖女様でもいいって人はエンジュが手伝ったりもしてるわね。

 聖者サマは知らない人には滅多に逢わないわ」


それにしてもこんな人の群れ。


「何か集会でもやって。

 ヒトコト聖者サマの言葉を聞かせるとか。

 そんな事でもした方がいいんじゃ」

「アタシもそう思うけど。

 聖者サマはやんないだろーなー」


やっぱり聖者サマ。

気難しい人なのかな。


「これに並んでいたら一日じゃ終わらないですよ」


キキョウさんが言う。


「大丈夫、裏口から行くわ」


ええっ、良いの?

マリー支店長は並んでる人を横目に建物の裏口へ。

扉の鍵を開けて勝手に入って行く。


「良いんですか、勝手に?」

「カギは貰ってるモノ。

 裏口使っていいって事でしょ」


階段を使い2階へ上がってく。


「あれ、どうしたですか。マリー」


言ったのは小柄な女の子。

あれ、この娘見た事あるような気がする。


「あ、丁度良かった。

 ミミックチャン。

 ミミックチャンが居るって事は今日はハチ子ハチ美ちゃんが『野獣の森』?」

「そうですよー、ハチ子がリーダー、ハチ美が監督役。

 今日はベテラン冒険者と5層までは行くとか言ってたです。

 新人の面倒も見ろって言ってるのに、どうしても奥の方まで行きたがる。困ったもんですねー、ハチ子は」


「まあでも“双頭熊”のドロップ品も欲しいんでしょ。

 “双頭熊”を返り討ちの危険無く倒せるなんて、アナタ達くらいだもの」


「マリー、組合の警備員の事ですが引退してる老人達。元冒険者の人達が多数やってくれそうです。

 これでフワワシティは大丈夫でしょう。

 『鋼鉄の魔窟』までは。亜人の老人にあそこに行けとはみみっくちゃん言いたくないですね」

「そりゃそうね。

 でも帝国兵だけに任すと、帝国領民以外にどんな態度に出るか」


「サルビアにたまに様子を見に行って貰いましょう。コワモテの曹長です。

 聖者サマの頼みなら何でも聞くと言ってくれてます。

 後は女神教団の戦士達ですね。それも半分は『鋼鉄の魔窟』側に行ってもらいましょう」

「大丈夫?聖女様の護衛について来たんでしょ」


「エンジュから頼めば嫌とは言えないですよー」


アヤメは横で聞いてるだけ。

聞いてるだけでも分かる。

この子、小さい見た目なのにスゴイ。

普通の女の子じゃない。

この人が賢者ミミックチャン。


でもこの娘やっぱりあの子じゃないの。

あいつのチームメンバー。


キキョウさんもミミックチャンを見てる。

アレこの娘?とアヤメと同じコト考えてる。

ねっ、やっぱりそうですよね。


「ミミックチャン、今日は別れの挨拶をしに来たの。

 ほらわたし実は迷宮都市の組合責任者じゃない。

 さすがにこれ以上迷宮都市の冒険者組合を留守に出来ないの」


「そうですか。マリーには世話になりました。ここまで力になってくれただけでもありがたい事ですよ。

 ご主人様に替わって礼を言いますですよ。

 ありがとうです、マリー。今ご主人様呼んできますね」

「うん、聖者サマにも用があったの」


「マリーさんっ。

 行っちゃうんですかっ?」


そこに女性が上の階から降りて来る。

見た事ある気がする女性。

あっ、これチャイナスタイルの服装。

ミッシェルガンヒポポタマスがまた流行らせてる新しい服。

奇麗で派手な色合いのワンピース。

体にピッタリした造りで生地はサラサラの上等。

特徴はスカートに入ったスリット。

歩くと足が見えそうで少しイロっぽい。

酒場なんかではわざと生足見せたりしてるけど。

アヤメ達普通の女子はムリ。

そんな女子用にはスリット入ってるんだけど合わせ目の布地が大きいタイプ。

生足が見えない様になってるヤツ。

これが街を歩く女性には流行ってる。


上から降りて来た女性はスリットの合わせ目が大きくなってない。

生足が見えちゃう。

健康そうな奇麗な足。

あっ筋肉も付いてる。

鍛えてる足だ。

いけないいけない。

つい目を奪われちゃった。

足をジッと見るなんて失礼ね。


あれこの人。

足元に目を奪われちゃってたけど。

顔を見たら、見た事ある顔。


向こうもアタシの顔を見てる。

見た事有る人だと思ってる。


「アヤメさんっ!?」

「ケロコちゃんっ!?」


「うわー、お久しぶりですっ」

「うわー、元気だったの」


「元気ですっ、ケロ子はいつも元気ですっ」

「あはは、ホント久しぶり。何でここにいるの」


「ここがあたしの家ですっ。

 アヤメさんこそなんでウチに?」


ケロコちゃんの家?

ここは聖者サマのお宅なんじゃ。


そこへ降りて来る。

ぼーっとした雰囲気。

細身の男性。

家の中だってのにフードで顔を隠してる。


「マリーさんが迷宮都市へ行っちゃうの?

 ふーん。

 まあやっと冒険者組合も落ち着いて来たし。

 元々迷宮都市の人ならしょうがないんじゃない」


ミミックチャンに説明受けながら階段降りて来たみたい。

ケロコちゃんがいるってコトは。

このミミックチャンもやっぱりあのミミックチャン。


「マリーさん。

 いろいろお世話になったよね。

 ありがとう。

 わざわざ挨拶に来てくれたの」

「うん、挨拶もだけど。

 聖者サマに用事も有ったのよ」


この人。

この人が聖者サマ。

この口調知ってる。


聖者サマと呼ばれた人がフードを外す。

顔が見える。


やっぱり知ってる顔。

ショウマ!


「ええっ」

「ええええええ」

「ええええええええええええええっ」

「ええええええええええええええええええええええええええええっ」


アヤメとキキョウさんは思いっきり叫んでしまった。


「なに、キキョウちゃんと聖者サマ。

 知り合いなの?」


「へー、迷宮都市で顔を合わせてるの。

 アヤメちゃんが聖者サマの担当。

 ふーん、そうなんだ」


マリー支店長は何か考えてる。

アヤメはマリー支店長とはそんなに親しくない。

アヤメの直属の上司はキキョウ主任。

支店長はキキョウさんの更に上司。

雲の上の人。

もちろん、顔は合わせてるし挨拶もしてるけど。

マリー支店長はしょっちゅう組合を出て外で仕事してる。

あまり話す機会は無かった。


それでも分かる。

支店長はなにか企み顔。

しかもアヤメの顔を見ながら考えてるのだ。

いやな予感。

アヤメはだいたい運が悪いのだ。



「じゃあその件はそれでいいとして。

 聖者サマ、本題よ」


「前からしなきゃと思ってたんだけど、

 忙しくて後回しになってた」


「貴方の冒険者クラスをアップ。

 クラスネームを授けるわ」


「支店長、クラスですか。

 ショウマさんは…」


「ショウマさんはもうLV20越え。

 『野獣の森』の冒険者組合にはほとんどドロップ品を出してない。

 魔獣討伐の報告もしてない。

 けど、私が分かってるだけでもクラスアップの用件は充分」


LV20越え?!

ショウマが。


「そうですね。週間順位を見ても『天翔ける馬』はしょっちゅうランクインしてます」


キキョウさんが言う。

それはアヤメも気付いてた。

けどホントにショウマなのかな。

そんな風に思ってた。


ショウマは思い出す。

そう言えばクラス:ドッグのまま変わってなかった。

特殊な名前、二つ名もらえるんだっけ。

どんなのがいいと思ってたんだったかな。

マジックホース。

違うな。

これはカッコ良くないと思ったヤツ。

そうだ。

ソーサラーペガサス。

これならイケてないかな。


「ショウマ、特殊なクラス名前じゃないわよ。

 その前にドッグ以上のクラス名が有るの。

 ウイングファルコンとかアローエイプとか。

 そういうアナタの特徴を活かした名前で。

 他にも同じクラス名の人がたくさんいる。

 そういう段階。

 それからその先が他に被るコトの無いクラス名」


そうなの。

なんだ。


「うん。本来そういう順なんだけど。

 今回は特別。

 私が決めた。

 そこはすっ飛ばして聖者サマにしかない名前にするわ」


「聖者サマ、冒険者ショウマ。

 貴方のクラスネームはエンチャンターエクウス」


「エンチャンター・エクウス よ」


キキョウは目を見張る。

エンチャンターと言ったら。

古い伝説の人物。

彼の元に名だたる英雄が集まった。

彼のために働きたいと思った英雄達。

そんな英雄達を活かして活躍させた人物。

それが王国の始まり。

初代王。

その人のクラス名がエンチャンター。


ショウマは目を見張る。

ソーサラーペガサスと言おうとしたけど。

それよりカッコイイかも

やられた。

僕の名前か。


「エンチャンターエクウスですか。エクウスは馬ですね。神に人間の為授けられた動物なんて言い方もしますね。エンチャント、いろんな意味が有ります。何かを強化する。力を与えるとか。人々を魅了する、うっとりさせるそんな意味も持ちます。

 人々を惹きつけ、魅了し力を与える。いいじゃないですか。素敵な名前だとみみっくちゃん思いますよ」



アヤメはなんとなくボーッとしてる。

そうか。

ショウマが聖者サマだった。

だったらそのチーム『天翔ける馬』がランクインするのも不思議ではない。

それだけの功績を積み上げるリーダー。

クラスアップするのだって自然。


そんなアヤメを見ながらマリー支店長は笑う。

その笑顔、なにか企んでる気がするんですけど。


「よし、分かった。

 聖者サマ。

 わたしが迷宮都市に帰っちゃう替わりにこの娘置いてくわ」


へ?

マリー支店長がアヤメの肩に手を置いて言う。

この娘って?

アタシ!。


「へー、アヤメをですか。いいですよ。冒険者組合は大忙し。警備員や見張りはご老人の助けで何とかなりそうですが、事務担当者は、経験者が必要です。大歓迎ですよー」


「ちょ、いきなり何言ってるんですか」

「アヤメ、貴方もそろそろ、迷宮都市だけじゃない。

 他の場所で働く経験もしておいていい頃よ」


あれーキキョウさんまで。

なんでなんでなんでそうなるの。


「アヤメちゃんかー。

 まあいいかな」


ショウマもアッサリ。

なによ、もっとリアクションしなさいよ。

驚くとか。

喜ぶとか。


「じゃあ決まりね」


マリー支店長が言う。

ええっ、決まっちゃったの。

アタシまだいいって言ってないんですけど。



【CM】

くろの小説、宣伝です。

次回予告とCMはセットみたいな。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『ゾンまほ』は一話千文字程度、毎日更新に挑戦中

『クズ…ってみた』は第一部完結が見えてきました。後1話です。



【次回予告】

ムラードが居るのは塔のような建物の上階。部屋自体は豪華なモノだ。上等のベッド。棚に置かれてる酒瓶も高価なものばかり。見張りの兵は言いつければ美味をすぐ持ってくる。最初は良かったが、既に一ヶ月だ。その間誰にも会っていない。軍関係者、親族誰一人面会すら無しだ。

自分の親族はどうしたのだ。自分が軟禁されてると知れば文句の一つも出るはず。最近は力が落ちてるとはいえ、長くに渡りこの近辺の領主だったのだ。帝国軍とていつまでも領主一族からの文句を無視できない。

「ふふふ。やっぱりご主人様。フワワちゃんの事が大好きなんですねー」

次回、キルリグル笑う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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