第124話 ショウマの目的その1

タマモは避ける。

巨人が石斧を横凪ぎに振るう。

広い面の攻撃。

スゴイ音を立ててデカイ石のカタマリが目の前を通り過ぎる。

タマモは上半身をエビぞり。

斧の軌跡の下へと逃げた。

通り過ぎたら身体を戻して攻撃。

巨人の腕をハルバードで刺す。

「忍者になってみる?」

ショウマに言われた。

何がどう変わったのか最初は分からなかったけど。

だんだん慣れて来た。

相手の攻撃がどう来るのか。

自分がどう動けば攻撃が当たらないのか。

なんとなく分かる。

後はその通りに体を動かすだけ。



ハチ美はスキルを使う。


『毒の矢』


ショウマ王との打ち合わせ通り。

WWOOOO!WOWOWOWWOOOO!

巨人が吼える。

巨大な身体に小さな矢が刺さっただけ。

しかし大げさに巨人はのけぞった。

おそらく毒が効いた。


「ハコ、どうするんです。

 本来の手筈ではショウマ王が仕留める処」


ショウマ王はいないのだ。


「ハチ美はそのまま支援攻撃続けてください。

 魔力切れ起こさない様に適度に魔力は残してくださいですよ」


適度にって!

どの程度の事を言ってるの?

叫びそうになるのを抑える。

そんな場合では無い。


「いいでしょう。

 半分くらいは残しておきます」


えいっ。

ケロ子はジャンプ。

巨人の獅子の顔に蹴りを喰らわす。

一度肩に飛び乗って。

右足を軸に左足を振り切る。

回転蹴り。

『身体強化』も使い遠心力を乗せたキック。

ガンッ!

と巨人の顔は吹っ飛ぶ。

でも相手はデカイ魔獣。

倒れず、手で肩にいるケロ子を払う。

どの位のダメージになったんだろっ。

ダメージは与えた。

昔“動く石像”と戦ったような固くてダメージが与えられない。

そんなカンジじゃ無い。

間違いなく魔獣にダメージは入ってる。

けれども。

相手は巨人。

ケロ子が100のダメージを与えたとしてもっ。

相手の体力が大きければっ。

例えば体力が100万くらいある。

100のダメージでも、巨人にとっては一万分の一。

極端に言うとそんな印象なのだ。


ケロ子は一端巨人から離れる。

みみっくちゃんのどいてどいてポーズ。


『眠りの胞子』


クラクラッ。

そんな感じで巨人は崩れ落ちる。


ケロ子はタマモ、ハチ子と目線を交わす。

この巨人、状態異常は喰らう。

倒れる。

けどすぐ復帰するのだ。

倒れてる時間は短い。

この隙に出来るだけの攻撃をありったけ叩き込む。


『体当たり』


ケロ子は全身全霊の力を込める。

巨人は浮いた。

ホンの少しだけど浮いて飛ぶ。

先に待っているのはタマモちゃん。


『猛り打ち』


力を込めた全力での斧攻撃。

ザグッ。

スゴイ音がする。

ハチ子ちゃんも近づいて槍で刺しまくる。

スキルを使う魔力は残ってない。

けど槍で攻撃は出来るのだ。

ハチ美ちゃんも矢を放つ。

ケロ子もタコ殴り。

加えてジャンプしてカカト落とし。

巨人の腹に追撃で踏み込む。

みみっくちゃんも杖で殴ってる。

巨人の足。

その小指を地面と杖で潰すように打ってる。

うわー。

あれやだな、痛そうっ。


巨人が目を覚ます。

WWOOOO!WOWOWOWWOOOW!

オマエラいい加減にしろっ。

そんなフンイキ。

闇雲に斧を振り回す。


あっ!

まずい。

タマモちゃんが喰らった。

狙い定めた斧の一撃じゃないけど。

デカイ斧。

軽く当たるだけでも衝撃は半端じゃないハズ。


「タマモちゃんっ、大丈夫!」

「うん、大丈夫だよ。

 ケロ子ねえ」


あれ?

タマモちゃんはケロ子の横。

すました顔してる。

斧の攻撃を喰らったような跡は無い。


「今、攻撃当たらなかった?」

「うーん、オレ喰らいそうになったけど。

 喰らったのはオレの分身。

 オレはダメージ無い。

 大丈夫」


良く分からないけどタマモちゃんのスキルみたいっ。


巨人は立ち上がったけどその体には傷が有る。

みんなして渾身の攻撃をしたっ。

さすがにダメージは大きいハズっ。

石斧を持ってるのは左手。

右手が上がっていない。

右肩をさっきタマモちゃんが斧で撃った。

それが効いてるっ。

右肩が切れて血が流れているっ。


WOOOO!WOOOONWOOOOON!

巨人が吼える。

さっきまでと少し違う吠え方っ。

威嚇するような吠え声を巨人はケロ子達にぶつけてた。

今、巨人は天を仰いで祈るように声を上げている。


ええっ。

血が。

血が止まってる。

肩の傷が塞がっていく。

さっきまで持ち上がらなかった巨人の右腕が動く。

ケガが治ってるっ。


「回復、回復能力ですよ。どんな能力か分かりません。けどこの巨人回復するですよ」



「みみっくちゃんのカンだと木属性の魔法です。木属性魔法そんな気がするですよ」


みみっくちゃんが言っている。


「へー。

 分かるものなのね」


そう言う女性。

“森の精霊”フンババ。

ショウマの目の前で女性が言う。


「木属性の魔法なの?」


「そう、木属性のランク3『森の息吹』よ。

 全員が少し体力が回復する。それも数分間回復し続けるの」

「そっか、ランク3なんだ」


ならみみっくちゃんもそのうち覚えそう。

だから何となく分かったんだな。


ショウマは二人で戦いを見てる。

ショウマは女性と二人だけの空間にいつの間にかいた。

従魔少女達は!

ケロ子達は何処へ行ったの?


「あの娘たちが気になるの?」


“森の精霊”が言うとショウマにはいきなり見えた。

巨人と従魔少女達の戦いの光景が空間に浮かび上がる。

どうやら獅子の仮面をかぶった女性フンババさんが何かしてくれたらしい。


「ああ、ありがとう」

「私の体もウチも調子悪くて全然自由にならないけど。

 この位ならお安い御用よ」


「具合でも悪いの?

 大丈夫、回復魔法使おうか」


クスッ。

女性が笑う。


「大丈夫よ。

 アナタにお願いは有るけどそれはもう少し先」

「あなた、“森の精霊”フンババさんなんだよね」


「そうよ“森の精霊”『野獣の森』の管理者」

「じゃあフンババさん。

 うーん、フンババさんか」


ショウマは腕組み。


「女性にフンババさんって言いにくいよ。

 なんか別の名前無いのかな」


響きが可愛くない。

それ以上に。

フンと言えば糞だ。

う〇こなのだ。

排泄物である。

ババと言うのも日本の方言では糞の意味なのだ。

だからフンババと言ったら、糞糞である。

排泄物排泄物である。

ショウマ的に言いにくいのである。


「えーと」


獅子の仮面をかぶった女性は困惑してる。

名前の事を言われると思ってなかった。


「じゃあ、フワワでどうかしら。

 発音を変えるとそうなるの」

「フワワさん。

 じゃあそれで行こう」


いかにも天然ゆるふわ女子っぽいけど。

排泄物排泄物よりはいーや。


「フワワさん。

 アナタに話が合って来たんだ」


そう、ショウマには実は目的が有った。

ちゃんともう94話でも言っている。

“森の精霊”(フンババ)様に逢ってみよう。

そこから延々持ち続けたその目的とは…。




帝国兵達は目を見張る。

女が出てきたのだ。

亜人の男達と戦っていた。

蛮族だけにコイツラは力が強い。

しかし人数はこちらが圧倒的に多いのだ。

盾を前面に押し出し、隊列を組む。

更に後方から弓で攻撃する。

弓による遠距離攻撃で敵は崩れた。

相手を潰せる。

そう思ったら亜人の戦士達の前面に出てきたのだ。

革鎧の上にコートを着た女。


「なんだ、女どいていろ」

「亜人の女か、それにしては色っぽいではないか」


「キサマ何者だ」

「帝国軍の邪魔をする気では無いだろうな」


「何者って聞いたわね。

 マリーゴールドさんよ」


「名前など聞いておらん」

「帝国軍の邪魔をする気かと聞いているのだ」


指揮を執っていた者達は顔を見合わせる。

女を差し出して降伏の交渉かと思った。

そういう訳では無さそうだ。

これは苦戦している我々へのご褒美ではないか。

女は太腿を露わにしている。

コートを着ているためそこまで目立たないが。

上着を外せば娼婦のような恰好では無いのか。


「ククク、せっかくのご褒美だ。

 いただこうではないか」

「年齢はいってるようだが

 まあまあの見た目だ」


「アホウ、あの位の年齢の方が熟れてるってもんだ」

「いい足をしている。

 襲われたくて出てきたのであろう」


兵士達が女性を囲む。

左右から挟み撃ち。


「勢いあまって殺すんじゃないぞ」

「腕くらいなら切り落しても構わん」


「アホウ、それじゃ出血ですぐ死んじまう」

「足にしとけ、逃げられなくなって丁度良い」



討って出るべきか。

タケゾウは刀を握る。

あの女。

ちょっと下がってて。

そんな事を言って前に出て行った。

あまりにも自然に歩いていく。

街中を歩くように戦場へ歩み出した。

ついそのまま行かせちまった。

兵士達に囲まれているのに女は緊張もしていない。

明らかに修羅場慣れしてる。

とはいえ女は一人。

数人の兵士に囲まれている。

大丈夫かよ。

前後左右から攻撃されればどんな手練れだって対処しきれない。

兵士達が同時に女に近付く。

槍を突き出す。

女の足元を狙う。


ジャラン。

そんな音がした。

小さな金属が擦れ合う音。

左右から女を襲おうとしていた兵士。

左右の兵士の盾の上部がいきなり破壊される。

盾だけでは無く兵士まで蹲る。


「ガッ」

「グワァァ」 


何が起きたのかすら兵士には分からない。


タケゾウには見えていた。

鎖。

女が鎖を振ったのだ。

女は予備動作も無く鎖を両手から上へ放り上げた。

鎖は上から円を描き兵士達の頭上へ。

遠心力の乗った鎖が兵士達を上から襲った。

兵士達からは女がちょいと手を振ったくらいにしか見えなかっただろう。


「なんだと」

「今何をした?」


「フフフ、私から攻撃したんじゃないわよ。

 覚えておいてね。

 帝国軍が私を槍で刺そうとした。

 だから身を護ったのよ」


マリーは頭上で鎖を回転させる。

広く派手に。

ビュッ、ビュッ。

威嚇的な音が鳴る。


「私、こう見えても冒険者組合の役員なのよ。

 帝国軍がいきなり冒険者組合の役員を襲った。

 ちゃんと覚えておきなさいよ」


マリーは帝国兵士に言う。

ついでにタケゾウにも視線を投げてウインク。


「冒険者組合の役員だと」

「その役員が何故、我々の邪魔をする」


「こちらは犯罪者を捕まえるための出動中だ」

「犯罪者を庇うのか」


「言ったでしょう。

 襲われたから身を護ったのよ」


「それにこの先に有るのは村だけよ」


「この村は『野獣の森』と迷宮から出現する魔獣に対抗するための冒険者の為の土地。

 帝国領の中であっても帝国の土地じゃないわ」



【CM】

くろの作品、もう一回宣伝です。

『ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221149439173

『クズ…ってみた』は1話、だいたい四千~五千文字読み応え有る量で送ってます。

『ゾンまほ』は1話千文字前後毎日更新というスタイルに挑戦。

よろしければ少し覗いていただけると、くろが喜び庭駆けまわります。


【次回予告】

“火鼠”、“鎌鼬”、“飛槍蛇”、“暴れ猪”、“土蜘蛛”、“獅子山羊”、“妖狐”、“化け狸”、“一角兎”、“森林熊”、“埋葬狼”、“猩猩”、“鴆”、“蛇雄鶏”、“双頭熊”。

『野獣の森』の魔獣。魔獣が森から続々と姿を現そうとしていた。

「そう、銅貨。さっき“双頭熊”を倒したらドロップしたんだ」

次回、巨人が吼える。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る