第101話 地底大迷宮とレオン王子その1


『西方神聖王国迷宮冒険者部隊』の3名。

レオン王子、軽戦士メナンデロス、回復役の神官。

『花鳥風月』侍剣士キョウゲツ、重戦士ガンテツ、弓戦士カトレア。

『名も無き兵団』武闘家イヌマル。

『誇り高き熊』重戦士ビャクラン。

『天駆ける馬』大司教ジョウマ。


「以上9名の方がチームメンバーです。

 私とジョウマ殿の付き人2名がオブザーバーとして参加します」


ブルーヴァイオレットさんが説明する。

カトレアは少し緊張気味。

すぐそこに王子様がいるのだ。

西方神聖王国第一王子。

緊張するなと言う方が無理だろう。

王子はキョウゲツに挨拶してる。


「アナタがキョウゲツ殿ですね。

 サムライブレードでなんでも切り裂く戦士。

 お会いしたかったですよ」


「あ、ウゥ。

 いや、拙者はそんな大層なモノでは…」

「キョウゲツ!

 いいから、頭を下げろ」


「レオン王子。

 ガンテツと言います。

 我らはしがない冒険者です。

 普段、王族の方とお会いする機会はございません。

 失礼が有りましたら、平にご容赦を」


キョウゲツがアタフタしてる。

カトレアは面白く見物する。

アイツ、かしこまった席が苦手だからな。

ガンテツがフォローに入ってる。


「重戦士のガンテツ殿ですか。

 私も、

 いや。

 今日はオレも冒険者だ。

 冒険者同士、気軽に行こう」


王子が気品ある顔を少し崩す。

ニヤっと笑って見せる。

場の雰囲気が軽くなるのだ。

へー、話せるじゃん。


「てコトは、そちらがカトレアだな。

 一流の弓戦士って聞いてるぜ。

 よろしくな」


「は、はひっ。

 レオン王子。

 よろしくお願いします」


レオン王子がいきなりカトレアにまで挨拶する。

しまった。

噛んだ。

やべー。

キョウゲツを笑えない。

アタフタしてるカトレアを見てレオン王子がクスリと笑う。


王子はそのまま、キョウゲツと侍剣士の戦い方がどうとか話してる。


王子が笑った!

カトレアに笑いかけた!

整った顔の目元がクシャッとなってカワユイ。

やべー。

脳裏に焼き付いた。

いやいや。

ウチは二枚目で王子様なんてお偉いヤロウに興味は無いんだ。

いくら笑顔がカワイくてもパス。


「なにニヘニヘしている、カトレア」


カトレアの肩が叩かれる。

軽く痛いくらいのパワー。


「ビャクランか。

 誰もニヘニヘなんかしてないぞ」

「何言ってる。

 自分では気づいてないだけ。

 人が見たら気持ち悪い笑い方してた」


重戦士のビャクランだ。

冒険者チーム『誇り高き熊』のリーダー。

カトレアとは顔見知り。

迷宮で行き逢う事もあれば、酒場で隣の席になる事も有る。

友達という訳じゃないが、憎まれ口くらいは叩き合える。

全身鉄鎧の女戦士。

兜をかぶると誰だか分からないが今は兜を外してる。


「あれ?

 ビャクラン、アンタ。

 もしかして化粧してないか?」

「な、ななな、なんの事。

 ビャクランはいつも通り」


普段のビャクランは髪もザンバラ、化粧ッ気の無い鉄面尾。

元の顔立ちは整っているのに愛想が無いので可愛くないのだ。

それが今日はなんだかキレイだ。


「いや、普段バラバラの髪だってセットしてあるじゃん。

 ハッハーン、王子様に会うからってアンタ…」

「それはカトレアの気のせい。

 私はいつもちゃんとしてる」


さっとビャクランは兜をかぶる。

あっという間に顔が見えなくなる。

嘘つけ。

まぁいいや。

カワイイところもあるじゃん。



「何故、私が一緒に行けないのだ」

「クレイトス様。

 重戦士はすでに二人います。

 バランスの問題です」


王子の重臣クレイトスはメンバーに入っていなのだ。

すでに昨日告げてある事なのだが、本人はまったく納得していない。


「いいじゃないっすか。

 休憩できるんだから」


「メナンデロス、装備を取り換えろ。

 私が軽戦士としてついて行こう」

「ムチャ言わないでくださいっす」


「ブルーヴァイオレット。

 お前がオブザーバーとして行くと言うなら、

 私もだな…」

「クレイトス様。

 今回は諦めてください。

 2階から6階へ行くには秘密の通路を使います。

 これは大分狭いとの情報です。

 クレイトス様の巨体では通れません」


「うがー、

 納得いかーん」


叫んでるデッカイ男を無視してブルーヴァイオレットは出発の合図をする。

まだ迷宮の入り口なのだ。

湖の小島までは魔獣も出ない。

早く進むべきだろう。


魔獣の出ない一階だが一応隊列らしき状態にはする。

今回は混成部隊。

ある程度決めて置かないと本番で混乱する。


前列に重戦士、ガンテツとビャクラン、大司教ジョウマ。

次にレオン王子、侍剣士キョウゲツ、武闘家イヌマル。

後ろに弓戦士カトレア、軽戦士メナンデロス、神官。


神官は母なる海の女神教団の女神官。

教団から『西方神聖王国迷宮冒険者部隊』へ出向してるらしい。

出向?

そんなもんあったのか。

神官の女性とカトレアは話す。

彼女はカトレアと同年代くらい。

「普通、教団の冒険者チーム以外に参加したりしませんよ。

 ただ相手はレオン王子ですし。

 西方神聖王国は女神教団を支持していますし」

フーン。


彼女は青いラインの入った白い衣装。

なかなかキレイな服装だが、防御としては役立ちそうに無い。

それで迷宮に入るのか。

「見た目よりは丈夫なんですよ。

 更に女神様の加護も有ります。

 体力も上がりますし、神聖魔法の効果も上がるんです」

へー。


「いいじゃない。

 やっぱり女神教の神官と言ったらその衣装だよね。

 キレイな衣装はキレイな人に似あう。

 キミに似合ってるよ」

「そんな…」

軽戦士のセリフで女神官は赤くなってる。

何、口説いてやがる。

このチャラ男。


「メナンデロスだったね。

 迷宮に入ってるってのに緊張感足りないんじゃない」

「思ってる事をスナオに言っただけっすよ」


快活そうに笑う軽戦士のメナンデロス。

白い歯が覗く。

人によっては魅力的だと思うだろう。


「アンタは軽戦士だってのに最後列なのかい」

「何でも屋なんすよ。

 どこでだって戦える」


腕に装着するタイプのボウガンをカトレアに見せる。


「ケガなんかは神官ちゃんにお任せっす。

 状態異常となったら言ってくださいっすよ。

 大体の薬は用意してあるんで」


背中に背負った袋を叩いて見せる。

嵩張らない背嚢、バックパックとか呼ばれるモノだ。

この男は後方からの遠距離攻撃、薬による回復役、両方を演じているらしい。


軽戦士。

確かに役回りはあまり固定されていない。

軽い装備と剣で正面に出て、相手の攻撃を避けまくり、攻撃するアタッカータイプ。

斥候としてワナや、魔獣との遭遇に警戒し、戦闘時は後ろに引っ込むタイプ。

良く居るのは上記のタイプ。

大雑把に言うと斥候と戦士の中間だ。


どうやらこのメナンデロスという男は状況に併せて色んな役回りが出来るらしい。

器用だとは思うがカトレアは虫が好かない。

軽薄な笑い方も好みじゃないのだ。


一行は通路を使って2階から6階へ移動する。

正式の道じゃないと思わせる荒れた通路。

狭い場所も有れば、縦に飛び降りるような場所も有る。

「あー、こりゃクレイトスさんじゃムリっすね。

 あの人が来たらつかえちゃうっすよ」

メナンデロスが言う。

本人は平気そうに通路を進む。

カトレアでも移動すると少しキツイ道だ。

手も使って慎重に進む。

息が切れてくる。

見るとメナンデロスは平気な顔をしている、息も切らしてない。

ウチも負けるか。

カトレアは平気なフリをする。

女神官は疲れ気味。

メナンデロスが手を貸してる。


6階にはあっという間に着いた。


「フーン、

 ここが6階、6階地下迷宮の6階か。

 始めてくるよ」


王子様が変に興奮してるね。

カトレアは一度来ている。

7階以降が解放されてから、『花鳥風月』で7階以降に挑んでいるのだ。

と言っても一回だけ。

『不思議の島』への移動が決まり、バタバタしていた。

本格的に未知の階層に挑む余裕はあまり無かった。


「7階に大した敵はいません。

 以前の1階と一緒です。

 “狂暴鼠”、“吸血蝙蝠”、“毒蛙”

 注意すべきは前より数が増えてる事くらいでしょうか」


ガンテツが王子に説明する。

なんとなく一行の案内役のようなポジションに収まってるガンテツだ。


「よーし、じゃあ装備を整える。

 少し離れてて」

レオン王子が言う。

うん?

王子が着替えるのか?

今さら。



『聖剣召喚』



『聖鎧召喚』



レオン王子が言った途端、王子様の体が光に包まれた。

うひゃー。

あれか。

あれが噂に聞く聖剣。

銀色の直刀。

なにか赤いモノが剣に巻き付いている。

模様?

炎?

王子が剣を振ると赤いモノも揺らぐ。

酒場で他の冒険者に言ったら、何のフカシだよと言われるだろう。

でもカトレアの目には間違いなく炎を巻き上げる剣が映っている。


「クリカラのツルギっすね。

 アレが王子のお気に入りなんすよ」


「他にもいくつか聖剣呼び出せるらしいんすけど。

 ここのところずーっとアレっす」


クリカラのツルギ?

刃身に文字らしきモノが見える。

倶利伽羅剣。

多分そう書いてある。


「今日は聖鎧もか。

 気合入ってるっすね。

 アレ魔力を使うから、剣だけで鎧は呼ばない事が多いんすけど」


さらに王子の布の服の上には金属製の鎧。

全身を覆う甲冑姿だが、相当に薄手。

体形に合わせたピッタリした作り。

胸と肩部分こそ厚みを帯びるが、後は薄く細い金属が合わさって作られている。

メタリックな銀色の鎧。

光の加減か、たまに金色に煌めく。

カトレアには材質なんか良く分からない。

分からないけど、業物だ。

間違いなく上等な鎧。

武具屋、防具屋で予算に収まって性能の高いモノを毎日のように探し回ってるのだ。

見た目がハデなだけのニセモノじゃないことくらいは判別がつく。


「ヒヒイロカネの鎧とか言うらしいすよ。

 似たようなモンが売ってるのすら見た事無いっすね」


カトレアは何か憎まれ口でも叩いてやろうかと思うけど。

口を突いて出たのは感嘆の言葉。


「ありゃ凄いね。

 確かに英雄だよ」

あれが西方神聖王国第一王子。

世界一強いかもしれない冒険者。



【次回予告】

戦鎚。

棒状の柄に鎚頭が有る、打撃用の武器だ。いろんなタイプが有るが、『花鳥風月』No2ガンテツが持っているのは長い柄の先に角ばった鉄の鎚を付けてある。片手で扱えるように重量はそれほどではない。しかし遠心力を乗せて振るうのだ。打撃力は半端ではない。“狂暴犬”など一撃で頭蓋骨が砕かれる。

「あーっはっはっはっはっ!」

次回、一行は死んだサバのような目になっている。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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