第67話 野獣の森入り口その6

もしかして僕ダマされた?

ショウマそう考えてる。


ハチ美が言う。


「“鎌鼬”の気配!」


ビュンッと矢が飛んでく。

細長い魔獣に当たる。

なんだかハチ美はいつもより迫力がある。

いつも弓矢を振るう姿は優美。

でも今は鬼気迫るカンジ。

いまにもおのれぇとか言い出しそう。

ハチ美も騙されたと思って憤慨してるのかも。


『野獣の森』入り口だ。

“双頭熊”を倒した後。

ショウマは『クマの肝』『クマの毛皮』を手に入れてる。

毛皮は5個も手に入った。

図体デカかったし、当然かも。

ドロップコインは銅貨1枚。

なんでやねん。

思わず関西弁になるショウマ。

“動く石像”のドロップコインは銀貨たっくさん。

数えてないけど数十枚はあった。

“動く石像”並に強かったと思うのに。

“動く石像”と戦った時よりケロ子もハチ美もLVアップしてる。

そう考えると“動く石像”より強いんじゃない。


戦い終わった後もコノハたちはおかしかった。

みんなビクビクして逃げたがった。


「恐怖状態だ。30分~1時間は続く」


コザルが教えてくれた。

幸い場所は『野獣の森』入り口近く。

みんなゲートから追い出した。

コノハ、タマモ、エリカ、ミチザネの事だ。

コザルには付き添ってもらった。


やったね。

これでショウマと従魔少女だけ。

ショウマは一気に気分が落ち着く。

まだみみっくちゃん、ハチ子と合流してない。


ショウマ、ケロ子、ハチ美は二人を待つ。

入り口近くで待ってるだけで魔獣が来るのだ。


落ち着いたショウマは考えてる。

そうだ。

『地下迷宮』。

あそこで“迷う霊魂”を倒した。

大した敵じゃなかったのだ。

なのにみんなスゴイと言った。

みみっくちゃんなんかタイヘンな事だと言った。

あのへんでダマされた気がする。

他人の前で練習試合したり。

『野獣の森』に行くのを二つ返事で引き受けたり。

おかしかった。

あげくに従魔少女全員と別行動してしまったのだ。


木の上の方の枝から音がする。

“飛槍蛇”(ヤクルス)って魔獣らしい。

振ってくるところをケロ子がキレイにカウンターパンチ。


あれ。

ショウマはさらに考える。

そういう風に考えると。

みみっくちゃんや従魔少女みんなにダマされた事になる。

それは違う。

間違ってる。

結論が間違ってる。

思考の方向が違う。


ハチ美が矢を構えるけど、手を降ろす。

「ケロ子殿。

 戦わないでいいみたいです」

「うんっ」

前には山羊っぽい魔獣。

頭だけ獅子に似てる。

“獅子山羊(キマイラ)”だ。

ユキトが言ってた。

戦わなければ向こうから逃げてく。

その言葉通り、魔獣は姿を消す。


よし。

落ち着いてから考え直そう。

今だって戦闘中なのだ。

考え事に気を取られてる場合じゃない。


「キキッ」

「キキッ」



『氷の嵐』



“火鼠”から飛んでくる火をショウマはかき消す。

ハチ美の矢が“火鼠”を貫く。

ケロ子が魔獣を蹴り飛ばす。



「ショウマ王ー」

「ケロコさん」


ハチ子とユキトが見える。

みみっくちゃんもいる。




一行はコノハの家に戻ってる。


“双頭熊”戦の後みんな疲れてた。

エリカは悔しかったのか、もう一度戦うと言ってた。

確かに“双頭熊”を“化け狸”と思い込んでたのはカッコ悪かった。

名誉挽回と意気込むのも無理は無い。


「エリカ様、鎧がやられてます。

 一度態勢を整えましょう」


ミチザネが説得した。

確かにエリカの鉄の胸当てはひしゃげてる。


「しかし、“双頭熊”と戦い倒すとは。

 さすがミチザネとしか言いようがありません。

 ベオグレイドでも“双頭熊”と実際に戦った冒険者は数えるほどしかいません。

 自慢になります」

「何言ってんの!

 ミチザネは震えてただけじゃない」

 

「ホントに“双頭熊”を倒したの?

 戦士達だって、よっぽど実力者が揃ってる時以外逃げるしかないんだ」


「“化け狸”をカンチガイしたんじゃないの」


戦いを見てなかったユキトは疑ってる。

「クマの肝」「クマの毛皮」を見せたらひっくり返ってた。


「スゴイ、スゴイ!

 ホントに“双頭熊”を倒したんだ

 ケロコさん、ホントウにスゴイ」


「まだ入り口近辺だってのに魔獣だらけでしたねー。『野獣の森』はこんなに魔獣が多いですか? これがフツーですか? 365日入れ食い状態ですか?」


「オレは昔のコトは良く分かんない。

 でも戦士達は魔獣が増えてるって言ってるな。

 それ以上に『野獣の森』から溢れてくるヤツが増えてる」


「溢れてくるヤツはオレでも分かる。

 前は週に1、2回だったし、大した魔獣は出なかった」


「最近じゃ毎日溢れてくるし。

 数だって昨日みたいに多い。

 溢れてくる魔獣に“蛇雄鶏”(コカトリス)が混じってたりする。

 “埋葬狼”だって出てきて人を攫ってく。

 そんなのが溢れてくるのなんて見たコト無いって、

 村の人も言ってた」


フーン。

じゃ最近急に多くなったという話じゃない。

“蛇雄鶏”にやられたのが2ヶ月前と言ってたっけ。

この数ヶ月、もしかしたら数年かけて増えてる。


「気をつけよう、暗い夜道と『野獣の森』

 みたいな」


ショウマは考える。

考えられる事は幾つかある。

仮説を立ててみる。


迷宮都市でも“吸血蝙蝠”は退治しないと溢れてくると言ってた。

『野獣の森』が特別おかしいとかじゃなくて、冒険者が足りてないだけ?

冒険者の人数と魔獣の増える量が釣り合ってないのではないだろうか。


迷宮都市の冒険者の正確な人数は分からない。でも数千人程度ではない。数万人だろう。その人数の冒険者が魔獣を退治する事で溢れない様にしている。

ベオグレイドに何人の冒険者がいるのか。ベオグレイド側に挑んでいるのは迷宮都市と同程度かもしれない。でも亜人の村側にもある程度冒険者の人数が必要なのでは。亜人の村の戦士達は数十人しかいなかった。


正解かどうかなど分かりようが無い。もしかしたら亜人の戦士も昔はもっと多かったのかもしれない。徐々に魔獣が増える。増える日々が続く。そろそろ迷宮に収まりきらない。そんな状態なのかもしれない。

これで魔獣が溢れているのがベオグレイド側だったら、とっくに手が打たれていただろう。冒険者組合が増強を図る。帝国だって自分達の街が荒されるのだ。軍を導入するなり、手は打っただろう。でも今溢れているのは亜人の村にだ。彼らは気づいていない。数年規模で、もしかしたら数十年規模で魔獣が溢れつつある事に。


「ご主人様、ご主人様。お耳に入れたい事が」


みみっくちゃんだ。

『野獣の森』の外側からも魔獣の気配が感じられる場所があるらしい。

みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美が亜人の村に来る途中のコト。

ハチ美が感じ取ったのだ。

明確な気配じゃないけれど。

漏れ出てくるような魔獣の気配。


「あれ。

 でも入口以外から魔獣が溢れて来たコトは無いんじゃなかった」

「分からないですよ。いつの間にかそれ以外の場所からも魔獣が溢れてるかもです。

 脇からでて村を襲えば、見張りに気付かれずにいつの間にか入り口から出たってコトになるんじゃないですか」


うーん。

あり得るかも。

別の場所から魔獣が出てくる場面を目撃されない限りそういう解釈されそう。

しかし今突き詰めて考える事だろうか。

『野獣の森』の見えないカベと一緒だ。

そういうの考えるのはショウマのするべき事じゃない。

ショウマが今回すべきは

【クエスト:埋葬狼に攫われたコノハの母親を救い出せ】

なのだ。



ショウマは落ち着いてからいろいろ考えたのだ。

仮説はもう立っている。


あまり考えたくない結論。

だけどそれを考えないといけない。


これはもしかして。

調子に乗んじゃねーよって言われるヤツなのでは。

よく聞くセリフだ。

けど、どういう状態かは良く分かっていなかった。

もしかしてショウマ自身が調子に乗っていたのではないだろうか。

そっか。

これが調子に乗るって状態なんだ。


余裕こいてたのだ。

魔力と魔法はみんなに言われた通り、スゴイレベル。

それに加えて『賢者の杖』。

取得した魔法属性を全て使えてしまうシロモノ。

チートだ、チート。

でも実は体力、防御力は最低レベルなのだ。

どの従魔少女にも劣るのだ。

一発喰らったら死ぬんじゃね。

分かってたハズなのに。


みんなだってそうだ。

ケロ子はLV15、“双頭熊”となんとか戦ってた。

でも本来は平均LV30で戦うような相手らしい。

みみっくちゃんでもまだLV13。

まだ魔術師に目覚めたばかり。

地下迷宮の4階にいて商人さんに驚かれるレベルなのだ。

ハチ子やハチ美に至ってはLV5。

今日の戦闘でLV上がってたけど。


装備だって整えてない。

帝国行って、魔法武具買えばいーや。

そう思って買ってないのだ。

手持ちは40万G越えてる。

日本円換算4000万円以上。

とりあえず強い武器、防具揃えとくべきだったんじゃない。

新しい迷宮行くのだ。

装備を買える範囲で強くしておく。

アタリマエの基本じゃん。

なにやってんのってヤツだ。


なんとショウマは自分のミスを反省してた。

驚くべきことだ。

驚天動地の大事件である。

日本で16年間、この世界で16年間生きてきたショウマ。

今までわが身を反省した事無かったのだ。


カトレアが聞いたら

「ショウマが反省~?

 ウソだね。

 してるフリだよ、反省してるフリ」

というだろう。


人間はだいたい問題があると他人のせいにしたがる。

ショウマは特にそうだ。

問題が起きた時、自分にも原因が有ると認める。

簡単なようでなかなか難しい事なのだ。


「そうか、これが反省ってヤツだね。

 人間は反省しないと成長しないって言うモノね。

 よし、反省するターン完了」


ショウマは目覚めたのである。

新しいショウマになったのだ。

新ショウマである。

真ショウマかもしれない。

あるいは神ショウマかも。

ゲッ〇ーロボか。


それはそれとして

新しいショウマ、ショウマネクストは考えてる。


『野獣の森』全体のコトとかショウマがどうにかするコトじゃない。

魔獣が増えてるコトも。

入り口以外から魔獣が出てくるかもしれないコトも。

それは帝国の偉い人とか、組合とか、研究者とかそういう人の仕事だろう。

亜人の村もそう。

海属性魔法の練習も兼ねて、少しケガ人を治す。

ショウマがするのはそのくらいだ。


【クエスト:埋葬狼に攫われたコノハの母親を救い出せ】

これが引き受けたクエストなのだ。

引き受けたからにはやろう。

コノハさんとはもう知り合い。

まだ知り合って数日では有るが、一緒に過ごした。

ショウマにとって、従魔少女を除くと最も仲の良い人なのかもしれない。

海属性魔法で石化が治せるのかも試したいのだ。

でもショウマの安全、従魔少女の安全。

この二つはクエストより優先。

これは最重要項目。

この二つを抑えた上でクエストに挑む。


さてどうしようか。

まずは従魔少女の強化だ。

いやホントはショウマの体力、防御力なのだが。

これはそうそう上がってくれそうにない。

そうしたら従魔少女に守ってもらうしかない。

ハチ子、ハチ美は今日LVアップしてた。

LV10までいけば、職業もう一個付けられる。

装備品も強化しよう。

ドロップ品けっこう手に入れたな。

これで魔法武具作れる?

ハチ子、ハチ美をエロカッコ良く出来るの。

どんなんがいい?。

弓矢を新しいのにする。

ハチ美は後衛だし、防御力そこまで高くなくていい。

メイド服に鉄のパーツ付けてもいいのでは?

戦闘メイド?。

戦闘メイドと弓矢。

いいかも。

ハチ子は?。

槍の強化。

ホントはスーツ姿とか似合いそうなんだよね。

ピッチリしたミニスカ。

前を開けたシャツ。

美人OL風で戦うとかカッコ良くない?

でもハチ子は前衛。

布の服ってワケにいかない。

そうだ。

鎖かたびらなんてどう?。

適度に下の肌が透けて見えるようなの。


ショウマネクストになってもあまり考える事変わってなかった。



【次回予告】

次回は温泉回。 ♯温泉回とタグをつけるべきなのか?

「へー。温泉。良いじゃない。体にも美容にもいいわ」

「アナタ達。こういうトコロにはマナーってものが有るのよ。手拭いでちゃんとカラダは隠しなさい」

「汚れたカラダを洗ってキレイにしてから、お湯に浸かるのよ」

次回、エリカは黙ってしまう。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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