第21話  四日目その7


ショウマ一行は武器屋街に来ている。

従魔師と名乗った女性コノハに案内してもらったのだ。


「コノハさんは従魔師なんだよね。

 何を買うの?」

「うーん、まだ決めてないの。

 えへへ。

 お金も少ないし様子見ね」


そう答える女性、コノハ。

ショウマとそんなに年齢は変わらないだろう。

厚手の革のマントを着ている。

下は普通の麻の服のようだ。


「革マントを着てるから身体は守ってるでしょ。

 でも頭部が心配なの。

 兜を買うか、それともいっそ全身革鎧にしてしまうか。

 値段を見てから考えるわ」


「そうか、やっぱりそんなカンジなんだ。

 僕もマントかローブだね。

 フード付きローブなら頭も隠せる」


「ケロ子は前列で戦闘だから防御力高くしたいね。

 やっぱり金属鎧かな」

「ケロ子、すばやく動ける方がいいですっ」


「そうか、格闘系だもんね。

 柔道着売ってるかな?

 ジョシカクだからアレ、

 レスラーみたいなレオタード?」


「ご主人様、顔がえっちになってますよ。みみっくちゃんは木の鎧と盾持ってるから

 兜ですね。靴も丈夫そうなの欲しいです…」

「木の兜、木の靴にして木装備で揃える?」


「みみっくちゃんに対してご主人様は雑です。納得いきません。

 それはそれとして、お姉さまには要所を金属で補強してるような革鎧が良いと思います。それなら重くないし、防御力も上がります…」

「なるほど。

 まずは見て回るか。

 みみっくちゃんは鎧と盾有るし、優先はケロ子だね」


「やっぱりみみっくちゃんの扱いが雑です」




 

「これは結構なシロモノだな」

鍛冶屋はケロ子が差し出した手甲を見て言った。


「普通の金属じゃねえ。

 魔道具になってる」

「魔法の手甲?」


「そういう事だ。

 防御力だけじゃねぇ。

 こいつを装備したら何かしらの力も上がってるハズだ。

 魔道具の発展した帝国以外じゃなかなかお目にかかれねーシロモノだ」


「凹みなんかを直してキレイにするだけなら引き受けるが、俺じゃ魔道具の仕組みは良く分からん。

 下手にいじって性能が落ちても責任はとれねーよ」


預けた場合の値段だけは聞いておいた。

1000Gで2日欲しいそうだ。


魔法の武具キター!

ええっ帝国以外じゃあまり見ないのか?

帝国に行けば手に入る?

魔法武具、心惹かれるよね

ついでに聞いてみる。


「ちなみに、もしもこの手甲売るとしたら幾らくらい?」

「おれは鍛冶屋で買い取り屋じゃねーからな。

 正確には分からん。

 ただ10000G以下って事は無いな」


ショウマはお礼だけ言って鍛冶屋を後にする。

先ほどの店と値段が全然違う。

この鍛冶屋はまっとうそうだが、3日預けるとなると明日使えない。



「あのルメイ商会、

 やっぱり最悪だ。

 10000Gの品物奪い取って、5000Gの防具売りつける気だったんだ。

 あのヒゲ親父。

 コノウラミハラサデオクベキカ

 あんなんが店長とか許せないね」

「落ち着いてくださいっ。

 ヒゲオヤジに騙されなかったショウマさまはさすがですっ」


ショウマは怒りが再燃している。




ショウマは革ローブを着てみる。

革の装備を多数そろえてる店に入ってみたのだ。

これならアリかも

他の店のローブは毛布をひっかぶってるみたいなのだった。

学芸会で幽霊の扮装してるみたいなヤツ。

これは黒の革に銀のベルトでイケてる。

ベルトに杖を挟み込むことも可能だ。

ショウマは革ローブを買い、同じ店で靴も買った。

ローブが1000G、靴が600G。

靴は3人分でも1800Gだ、合わせて2800G。

買っちゃえ

クラス:ドッグ割引もされるしね

全員丈夫な革靴に揃えよう


ショウマが分かったのは革製品は圧倒的に安いという事だ。

鉄の胸当ては8000Gする。

革製なら2000Gだ。

ショウマは革製品を中心に見て回る。

身に着けた時どうなるのか。

ケロ子が格好良く見えるのか。

最重要ポイントである。

本当は露出度だって上げたいのだ。

だからと言って防御力はどーでもいーやとは言えない。

せめぎ合いである。


ケロ子に関してはショウマは悩んだ末に全身に革鎧を着てもらった。

薄手のソフトなものだ。

さすがに露出はさせられない。

どんな攻撃を受けるか分からないのだ。

その分身体のラインが出てスタイリッシュな物を選んだ。

その上に心臓部など要所は金属製防具を着ける。

頭も同様だ。

革バンドの上に細い金属プレートで額を守っている。


いいじゃん。

いいじゃん。

一気に女戦士っぽくなった。

自分で着せたモノに満足するショウマだ。


「防具はこれでひとまずいいとして武器はどうしよう」

ショウマには『賢者の杖』がある。


「ケロ子はパンチとキックですっ」

靴は丈夫なものに変えている。

手は革手袋を付け、ナックル部分は鉄の補強付きの物を選らんだ。




「みみっくちゃんは?」

「?」


「?」

「みみっくちゃん、戦うですか?」


「戦わないの?」

「今初めて気づきました。みみっくちゃん、どうやって戦うでしょう? 不安でいっぱいになりました。

 んーと、噛みつき出来そうです。体当たりも。小っちゃい敵なら丸呑みできます。

 あ、意外と戦えるですね。みみっくちゃん安心です…」

「いや僕は 不安になった」


とりあえず武器は不要そうだ。

鎧と盾をみみっくちゃんは持っている。

ヘルメット風の頭部ガードを買って装備させる事にした。


革製品は安い。

しかし今まで何も持っていなかったショウマ一行は種類を買い込んだので結局20000G越えの金額を使ってしまった。

300万円手に入れて200万散財、計画性ゼロの行動である。


「小銭が重くて大変だったのが大分整理されたね」


「スゴイですね。

 そんなに買い物して大丈夫なんですか?」

「うん。平気、平気」


コノハは目を丸くしている。

ショウマは来週また金貨一枚手に入るよと勝手に思っているのだ。


「コノハさんは買わなくていーの?」

「だいたい値段は分かりました。

 まだ買うには手持ちが厳しいです」


「ショウマさまっ、ケロ子お腹がすきましたっ」

「もう昼時大分過ぎてるね。

 何処に行こうか」


「アレですっ、ショウマさま」


ケロ子が指さすのは屋台だ。

串肉が気に入ったらしい。


ショウマ達は武具屋街の一角で立ち食いをしている。

串肉だけではない。

ホットドッグ風の物や焼き菓子など幾つか買い込んで食べている。

コノハとタマモも一緒だ。


「すいません。

 ごちそうになって、

 わたしばかりかタマモまで」


“妖狐”タマモは器用に串から肉を取り外し食べている。

みみっくちゃんはタマモを撫でて悦に入っている。


「ううーモフモフです。いーですねぇ、モフモフ。旅のお供に一モフモフです。

 一家に一モフモフ必需品ですね。ご主人様、これ持って帰っていいですか」

「タマモはダメです」


みみっくちゃんは顔が本気だ。

冗談に聞こえないコノハが慌ててる。


「モフモフですかっ、アタシも触りたいですっ」


ケロ子も加わってタマモを撫で始める。

コノハもタマモを取られまじと入って行く。

タマモにみんな集まって撫でている。


「モフモフを愛でる会結成?」

興味はあるものの触りにいかないショウマだ。

自分より大きい図体の“妖狐”なのだ。

怖いじゃん。



「コノハさん。

 従魔ってどんなカンジ?

 タマモはキミの言う事ならなんでもきくの」

「なんでもっていうか、

 タマモは子供の時から一緒に育ったんです。

 だから従魔というより姉妹みたいな雰囲気です」


「ふーん。

 家族みたいな?」

「そうです、家族です」


「そうか、僕もそうかも」

「?」


「何でもないよ」


連れの少女たちが実は従魔だと語る事は出来ない。

 


 


女冒険者カトレアは魔術師を治療院に連れて行った帰りだ。

魔術師のケガは出血こそしたものの大したことは無かった。

キッチリ革鎧を着こんでいたのが幸いした。

革鎧は損傷してるが魔術師の方は骨もやられてない。

やはり防具は大事だ。

それより治療院に払った金が痛い。

600Gも取られた。

フクロウから2000G入ったのは良かったが、600G取られたので合わせて1400Gだ。

さて1400Gをチームで均等割りするか、革鎧をやられた魔術師に多めに出すか。

それを考えると治療費だって特別扱いするのはどうなのか?

2000Gを均等割するべきなのか。

副リーダーのガンテツにはドロップした金は均等割してやれと言われてる。


「活躍したヤツに褒賞で多めに渡してもいいぜ。

 ただし、古参メンバーが多く取るとかは止めろ。

 新人に不公平感を与えるな。

 トラブルの元だ」


どうしたもんか。

リーダーは考える事が多い。


「ウチ、考えるの向いてないんだよ」





「じゃあ、また迷宮で会う事もあるかもしれませんね。

 えへへ」

そう言ってコノハは帰っていった。

分かれたショウマは服屋に向かっている。

買ったローブを身に着けている。

黒のローブ、フードで顔も隠す。

周りに顔を見られないって落ち着くよね

そんなショウマだ。


「いらっしゃいまーせ。

 あら、またきてくれたーの」


フードを深くかぶってたのに一瞬で見破られた。

口調が個性的な店員が迎えてくれる。

外見はもっと個性的だ。


「うわ キラキラです。爬虫類の見分け方って確か土の色をしたのがヤモリでテカテカした光沢があるヤツがトカゲなんです。そう考えるとこの人トカゲです…」

「みみっくちゃんっ、初対面の人に失礼ですっ」


「あーら、アタシは気にしないわーよ。

 というか、またカワイイ子連れてきてるじゃなーい」


爬虫類人間の店員が目を輝かせる。

トカゲと言われたことは気にならないらしい。

基本的に女の子を着飾らせるのが好きなんだなと理解したショウマだ。

似た者同士である。


「この子の服ねー、まかせて」


何も言わないうちに店員が持ってきたのは白シャツに水玉のスカートだ

背の低いみみっくちゃんに着せると背中に付けた木の箱も合わせて小学生の女の子に見える。


「うわランドセル少女。

 かわいいけど、

 JSは犯罪だよ~」


「なんですか、なんですか、JSってなんですか。意味は分かりませんが失礼な雰囲気が漂ってきますよ」


「カワイイ服もだけど、

 今日は革鎧の下に着るインナーも欲しいんだよね」

「フーン。まあ防具にしてはセンス良いの選んでるじゃなーい」


ショウマは幾つも革鎧を着せて見て、ケロ子がスタイル良く見える鎧を選んだのだ。

店員に認められてニヤけるショウマである。


「これウチで預かって色を染める事も出来るわーよ。

 革のブラウン一色ってジミじゃない。

 染めれば大分雰囲気かわるわーよ」


「キター!

 それだ。

 染めればいいんだ。

 カワイイより防御を選んでしまった、

 僕のバカバカと後悔してた日々さようなら」

 

「ダメですよ、ショウマさまっ。

 明日は迷宮の下層に行くんでしょうっ。

 鎧は預けられません」


「さすがケロ子お姉さま、正しいですね。ご主人様の欲望を解き放つのは予備を買ってからにしましょう。みみっくちゃんにはご主人様の欲望が見えてます。ケロ子お姉さまの革鎧を肌色にするつもりですね。上から金属部分を着せれば一見ビキニアーマーの出来上がりです。さすがご主人様妄想力がハンパありません…」

「そんな事考えてないよ

 それどんな魔改造?」


結局JS風の服装は無しにした。

危険な趣味が目覚めそうで怖い。

薄めのインナーを見繕う。

さらにエプロンだ。


「いくつか作ってみたの。どーう」


店員がエプロンを持ってくる。

花柄のスタンダードなもの、体にピッタリした身体のラインが浮き上がる物、フリルの付いたもの色々出てきた。


「すでに花柄のは売ってるのーよ。

 好調だーわ」

「これはスタンダードで誰でも着れるタイプだね。

 身体のラインが出るのは着る人を選ぶかも。

 エプロンドレスも欲しーな」


「エプロンドレス?

 どんなーの?」


「ええと、服の上から着れてそのまま表に出れるような。

 ドレスの上に着るドレス?」

「それじゃもうエプロンじゃないじゃなあーい」


「どう説明するといいのかな。

 そうだ。

 下に黒のシックなシャツを着たとする。

 それで上にフリルの付いたエプロンを付けるんだ」

「なるほど、下と上の服のセットで引き立てるって事ね」


要するにショウマのイメージしてるのはメイド服だ。

どこまで伝わってるか分からないが、店員は頷いている。


エプロンを幾つか買い、日常的な服を買う。

ルームウェアだ。

他の店だと染めていない服しか売っていないが、この店ならカラフルなのが購入できる。

みみっくちゃんの服を買う段で問題が発生した。

みみっくちゃんは背中に木箱が生えてるので普通のシャツが着られなかったのだ。


「Oh Noなんてこった!です。みみっくちゃんぴーんち。こんな危機がまちかまえていようとは予想もしなかったですよ。みみっくちゃんご主人様の前で普段すっぽんぽんで過ごさないといけないですか。ご主人様はえっちです。

 というかこれもご主人様のえっちな願望のせいに違いありません…」

「店員さんがいるんだから止めて」


仕方なく店員さんに相談する。

亜人や亜人の混血に理解ある人だ。

みみっくちゃんの身体を見せても多分大丈夫。


「へー、この箱に見える部分取り外せないのーね。

 仕方ないーわ。

 今日のところは少し大きめなシャツで箱の部分に穴を開けたので我慢して。

 次回までにピッタリ着られるの用意しておくーわ。

 箱を通してボタンを留めるようにすれば色々工夫できるーわ」


シャツを大きめのに取り換えて箱の当たる場所に穴を開けてくれる。

さすがに本職、素早い作業だ。


「エプロンに関してはサービスしとくわ。

 おかげで売れてるーの。

 全部で200Gね」


「安いっ。

 デフレスパイラル?

 いやそんな事ないか。

 200Gっておよそ2万円だ。

 防具を買った後だと価格が違ってビックリするね」


通常の衣服と防具では価値が違う。

冒険者に取って防具は生命線だ。

掛かる金額は自分の命の値段である。

まだショウマは感覚的に理解できていない。

 

ショウマは店員に近づいてヒソヒソ言う。

「あっちの高級下着も、

 ブラと下着セットで。

 この娘たちのサイズに合わせて3着ずつ」


「聞きましたよ、ご主人様。やっぱりご主人様はえっちです」


「違う、違う違う、ちぃがぁうー!

 ええと、これはプレゼントだよ。

 みんな頑張ってくれてるから、僕からのプレゼント」


「ショウマさまっ、優しいですっ。

 ケロ子、嬉しいですっ」


「ご主人様、嬉しいですっ…

 て、そんないい話にしようとしても無駄です。みみっくちゃん騙されませんよ。このプレゼントに詰まってるのはご主人様の感謝の気持ちでも優しさでも無くて、ご主人様のエロの気持ちとやらしさです…」

「店員さんいるんだから止めてってば」



【次回予告】

従魔の少女は戦う。

相手が誰であろうとも。

それが主のためならば。 

「んんんんっんげらぱらごらぱげらごらごこげこぱらげーっ」

「宇宙語? バグってる?」

「みみっくちゃんっ 大丈夫ですかっ」

次回、それが従魔少女という事だ。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る