第15話 地下迷宮四日目その1

ショウマはベッドの中で目を開く。


あれからケロ子はショウマのそばを一瞬も離れようとはしなかった。

あれからというのは地下迷宮2階でショウマと従魔ケロ子が離ればなれになって再開してからだ。

ケロ子は常にショウマのすぐそばに居て、トイレにまで付いて来ようとした。

それはもちろんショウマが止めさせたけれども。

今もショウマの右手を握りしめたまま眠っている。


「くー くー ん…」


ショウマは半身を起こして、ケロ子が蹴っ飛ばした毛布を掛け直してやる。

実は寝相の悪いケロ子だ。

迷宮の中の事を考える。

二人が別れてしまう事はまた起こりうる。

対策を考えておく必要が有る。


「スマホ無いかな。

 5G対応してない?

 Wifiは?

 電波詐欺?」


「…ん…むにゃ…」


しまった

口に出してた

ショウマは自分の口を押える。


「くー…くー」

ショウマはまた寝息を立てだした少女をみつめる。


あれはなんだったのか。

あの気持ち。

かぶせられた袋から出た時ショウマの周りにケロ子は居なかった。

不安が押し寄せた。

一人ぼっちだ。

圧倒的な寂寥感と孤独感。

彼女は今どこにいるんだろう。

自分は今どこに立っているのか。

彼女は自分を探している。

探しているハズだ。

「ショウマさまっショウマさまっ」

という声が聞こえた時の胸の高まり。

そこに彼女がいる。

そう思うだけで身体が震えた。

少女が胸に飛び込んで来た時。

心臓から身体に何かが送り込まれる。

身体中が温かくなる。

脳味噌から何かが溢れている。

全身が痺れるみたいだった…


ショウマはまたベッドに体を横たえる。


そりゃそうだ。

ショウマはまだ体力の数値が圧倒的に低い。

迷宮に一人で居たら不安に決まってる。

魔術師のソロプレイである。

あり得ないだろう。

そして前衛のケロ子と合流したのだ。

安心するのも当然。

普通の事である。

当たり前の当然である。


迷宮で見かけた別のチーム。

4人から10人くらいで構成されていた。

中央値は6人か。


よし、早めにもう少し仲間を増やそう。


「従魔少女、ゲットだぜ!」



という結論が出たところでショウマは自分の左側を見る。

そこには少女が寝ていた。

右手を見る。

そこには少女が寝ている。

ケロ子だ。

左手を見る。

少女がいる。

みみっくちゃんだ。

うん。

仲間なのかな?

仲間だよね。

まだステータス確認してないや。





時を戻そう。

ショウマと従魔のケロ子は合流して、“屍食鬼”の隠れ家を脱出した。

いつまでも火の中にはいられない。

壁を抜けると通路だった。

何も無い通路だと思っていたが、“屍食鬼”の隠れ家の脇を通っていたのだ。

2階の通路を通る冒険者は“屍食鬼”から観察され放題という事だ。

ショウマたちは戦闘経験も積んだ。

ケロ子もLVが上がった。

帰ろうとしたら、ケロ子が宝箱を見たと言い出した。

アンデッドがたくさん居た広間だ。

ショウマはまだ迷宮で宝箱を見たことが無い。

んじゃ回収していこうという話になった。

アンデッドの広間まで行くショウマとケロ子。

宝箱を開ける。

襲われた。

何に?

宝箱だ。

“宝箱モドキ”である。

地下4階には多数出没する。

宝箱だ、やったねと冒険者が箱を開けると襲われるというヤツだ。

2、3階でも稀に出るらしい。

ケロ子が殴りつけるとキューと言って伸びてしまった。

『“宝箱モドキ”を仲間にしますか?』

「はい?」

了承ではない。

なんですか?のはい?だ。

ショウマは何が起きたかまだ良く分かっていない。

だけど目の前の宝箱っぽいのは黄色の光に包まれた。

後には少女が居た。

「~う~」

言葉とも何とも言えないものを発して少女は倒れてしまった。

どうしよう。

帰るか。

アンデッドがウロウロしてた空間に?

女の子一人放り出して?

ショウマには無理だ。

連れ帰る以外無い。

ケロ子が担いで連れ帰った。

そのままベッドに寝かしている。

呼び名は暫定的にショウマが付けた。

みみっくちゃんだ。

まんまである。


そして今ベッドで寝ているのだ。


「明日ステータス確認しなきゃ」


ショウマも寝る事にした。









「アヤメ、付き合ってちょうだい」

「はい。キキョウ主任」


冒険者組合の受付アヤメは来たっと思った。

お説教だ。

昨日ケロコさんとショウマに対する説明が途中で中断しましたと報告した。

上司のキキョウはその場は何も言わなかった。

朝からお説教か~

アヤメは運が悪いなと思っている。



「ルメイ商会へ行くわ」


アヤメは拍子抜けしていた。

上司の用事は商店に行くのに同行する事だった。

外出準備をして出かける。


「ルメイ商会ってかなり大きな商店ですよね」

「そうよ。他の街にも支店を出してる。

 なんでも売ってる総合商店ね。

 武具に日用品、薬、食料まで」


「大通りのお店入った事有ります。

 けどあそこ高いですよ。

 冒険者さんもあそこじゃ買えないって」

「冒険者にもあまり評判良くないのね。

 強引な商売方法で有名なの」


歩きながらキキョウ主任が話題を変える。


「ショウマって人の加入を受け付けたのはアヤメね?」

 

うわ~やっぱり来た


「『真実の水晶』は反応しなかった。

 それは間違いない?」

「はい それくらいは分かります」


「うーん」

「キキョウさん

 ゴメンなさい。

 ワタシ、説明失敗しちゃって」


「それはいいのよ」


うん? じゃぁなに?


「今週のランキングよ。

 999位に入っているの、

 ショウマって人が」

「あっ、 それ私も見ました。

 でも、別人だと思います」


「何故そう思うのかしら?」

「だって初心者ですよ」


それにアヤメはショウマに2回会っている。

初めて会った時のうつむいた顔。

街に慣れないおどおどした少年の様だった。

次に来たときは不機嫌そうで怖かった。

でも話してるうちに楽しそうになってきた。

瞳がキラキラしてきて饒舌になった。

やっぱり少年の様だった。

荒くれの多い冒険者とは全然違う。


「でも同一人物なのよ。

 それは『冒険者の鏡』で分かっている」

「『冒険者の鏡』でそんな事分かるんですか?」


「あれは『失われた技術』と帝国の魔道具技術、王国の研究者の知識が全てつぎ込まれた人類の叡智の結晶なの」

「中核は『失われた技術』だから私にも仕組みは分からない。

 だけどあの鏡に映し出される情報は正しいわ。

 『冒険者の鏡』によるとショウマと名乗る人物のLVは13。

 チーム構成員は2人だけ、

 もう一人の構成員・ケロコのLVは7」


「ケロコさんっ。

ショウマと一緒に来た人ですっ」


彼女も冒険者になったばかりのハズ

もうLV7なんだ


「うん。そうでしょう。

二人とも迷宮に入り始めて2,3日のLVではないわ。

 彼はどこかの国の諜報員じゃないかしら?」

「諜報員?

 スパイ…」


「密偵と言った方がいいかしら。

 地下迷宮は危険と宝が詰まった場所よ。

 いろんな国や組織が注目してるわ」 

「そういえば…

 初心者説明の時変にいろんな事に詳しくて、私にも分からないような事を言ってた」


「地下迷宮の何を狙ってるのかしら。

 それとも冒険者の引き抜き?

 好きなようにはさせないわよ」


あれ?

アヤメはちょっと引く。

キキョウ主任真面目だしいい人なんだけど、思い込みの激しいタイプなのだ。

あの新人はどう見ても密偵とかそんなカンジじゃなかった。


「いや。でもやっぱり違いますよっ。

 ショウマさん、カトレアさんの弟なんです」

「カトレア 『花鳥風月』の?」


「はい。カトレアさん本人が言ってました」

「じゃあ『花鳥風月』と協力してるのかしら?」


「『花鳥風月』内に子チーム作るんで、

 カトレアさんそのリーダーになったそうなんです。

 だからその一員候補なのかも?」


『花鳥風月』なら冒険者チームでも中堅からそろそろベテランと呼ばれる域だ。

その助けを借りて地下迷宮の下層に行ってたならあり得ない事でも無い。

でもカトレアさん弟さんと仲悪そうだったけど


「うふふふふ、

 やるわね」

「?」


「事前にその土地で信頼されてる人間を取り込んでおく。

 潜入調査の技ってヤツだわ。

 アヤメも注意しなさい」

「は…はい?」


これはダメだ

これなに言ってもダメなヤツ

普段はいい上司なんだけどな

アヤメを巻き込まないで欲しい


 

  


「ショウマさまっ

 朝ですよ?」


ショウマはまだベッドに入ってゴロゴロしている。


「うう、待って。

 昨日考え事してたらよく眠れなかったんだ。

 眠い~」

「みみっくちゃん、もうご飯食べてますよ」


「え!」


見るとショウマの左にいた少女の姿が無い。



【次回予告】

昨日まで隣にいた少女。

その娘の事なら何でも知っていると思っていたオンナノコ。

でも…

僕の知らない彼女がそこにはいたんだ。

「キタ! キタキタ! ケロ子の覚醒キィタァー」

次回、ショウマは初めて少女が覚醒するのを見てしまう

(ボイスイメージ:神谷浩史(ハチクロの頃)でお読みください)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る