88. 守るべきものは
「ルナ、今凄いこと閃いたのです」
アレクに魔力制御の成長を見てもらっていたルナが突然そう声を上げた。
「聖水の力も魔法石に詰めて、街灯のように使用すれば、魔除け石みたいになったりしませんか」
「えぇ!?」
同じくアレクに魔法制御の講義を受けていたクリスが突然のルナの発案に、そんなこと「僕にできるんですか」というような情けない顔でオロオロしている。
「そのアイデアなかなか面白そうですわね」
「そうでしょ、マリー姉さま」
その先を考えるのはローズマリーでやるのはクリスなのに、なぜかルナが得意げに鼻を鳴らす。
でも確かにアイデアはおもしろい。
聖水には邪気や呪いを払う効果がある、聖水を振りかけることでそれはしばらく有効だが魔法石に閉じ込めて使えば聖水より長い時間持続させることができるかもしれない、それに聖水は硝子瓶に入れて持ち歩くため、割ってしまったりするが、魔法石ならそう簡単には砕けない。
「アスタ先輩はどう思われます?」
「なかなか面白い発想だが、二つの魔法を魔法石に詰めるのがまず大丈夫なのか実験してみないとな」
アスタもあの教授訪問以来、部室に顔をだすのが減っているので久々の談義に花を咲かせている。
「夢が膨らみますわね」
「クリス、ちょっとやってみてくれるか?」
「あ、はい」
おどおどしながらクリスが空の魔法石に魔力を込める。
しかしうまく二つの魔力が魔法石に入らないようで悪戦苦闘している。
「なにボーとしてるんですか?」
若草色の瞳を細めながらメアリーがユアンの顔をのぞき込んだ。
「クリス君とルナちゃんをどうやってくっつけようかまだ考えてるんですか?」
クスクスとメアリーが笑う。
「まぁそれもそうなんだけど、なんだか、不思議な感じがして」
「不思議?」
「こんなすごい人たちの中に自分がいることが」
ポリポリと頬を掻く。
「そんなら一番不思議なのはユアンです」
「僕が?」
「だってここにいるみんなは、みんなユアンに繋げてもらった人達ですよ」
メアリーがニコリと微笑みかける。
「僕が繋げた?」
それは言いすぎだと思うが、でもローズマリーとメアリーを繋げたのもキールとアンリ兄弟との出会いのきっかけを作ったのも、魔法道具研究倶楽部にユアンがはいったからルナがルナを追ってクリスが。
胸がキュッとする。嬉しいような怖いような。
「ほら、ユアン様もメアリーと話してばかりいないで、何か案をだしてくださいませ」
ローズマリーが眉間に皺を寄せながユアンを手招きする。メアリーがユアンの手をひいてみんなの輪の中に連れていく。
「ユアン、行きましょう」
メアリーのキラキラとした笑顔を見詰めながら。ユアンは小さく微笑んだ。
で、結局今回の合宿ではほとんどルナが発案した『聖水の力を魔法石に込める』という議題で終わってしまった。
アスタとローズマリーとクリスはずっと三人であーでもないこーでもないとやっていて、ルナはアレクの指導を一人で受け続け、クリスといい感じになればと思っていたユアンの目論見は初日からとん挫した。まあアスタとも接近しなかったので、ユアンとしては少しばかり安心したが。
アンリとキールはほぼ毎日二人で狩りにでていて、レイモンドは最初の日、顔をだしたでけで王宮の仕事が残っているとすぐに帰っていった。
実験もまず魔法石に魔力が入れられないことには始まらないので、結局今回の合宿はユアンはメアリーと二人でゆっくり過ごしただけになったのだった。
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