37. お披露目会

「そういえば、アンリ先輩たちは待ってなくて大丈夫だったんですか?」


 一番この研究を成功させて世の中の役に立ちたいと思っている人に成功の瞬間をみせないなんて


「いいんだ。もし失敗したらがっかりするだろ」


 アスタがそういうとガッとユアンの首に腕を回す。


「だから今日のことは内緒だ、次が本番のお披露目会だ」


 そう言ってニカリと笑う。


 がっかりさせるのも嫌だったのだろうが、自分の研究が失敗するのを見られるのも嫌だったんだろうな。



 ──数日後


「光魔法”輝き”!」


 ユアンの言葉とともに手のひらに置かれた白い魔法石がポワリと光を発する。


「凄い!成功だよ!アスタ!」

「おぉ、すごいな、本当にやっちまいやがった」


 アンリが思わず横に立っていたアスタに飛びつく。

 アレクもやったなといってアスタの頭をワシャワシャと撫ぜ繰り回す。


「当たり前だろ、なんてったって僕は天才だからね」


 妹と兄に褒められて珍しく、くしゃくしゃの顔になってアスタがフフンと鼻を鳴らす。


「マリーとメアリー、そしてユアン君もありがとう」


 アンリが少し潤んだ目で笑顔でお礼の言葉を口にする。


「ボクたちだけじゃ、できなかったよ」

「僕はただ言われたように石を持って呪文を唱えてるだけですがね」


 ユアンが頭を掻きながら小さく笑う。


「なにを言っているのです、ユアン様が魔法陣のヒントをくれたからこそ成功したのですわ」

「そうですよ!ユアン様」

「まぁ、いずれ僕かマリー嬢が気づいただろうけど」


 いつも意地悪そうな笑みを浮かべて人をからかってばかりのアスタが、そう言ってユアンの肩をポンと叩く。

 その笑みは、無邪気に喜ぶ子供の用な笑顔だった。


「これからもよろしくな」

「はい」


 つられてユアンも破顔する。


 悪夢を変えられるかもしれない、メアリーともっと一緒にいたい。初めはただそれだけだった。でも今はなんだかとても満ち足りた気分がする。

 ユアンは前の人生ではこうやって誰かと一緒に何かを成し遂げたことがなかった。


 大切なものはメアリーそして家族とキールぐらいだった。彼らが助かれば後は本当にどうだってよいとさえ思っていた時期もある。ただ未来を知ってる者として取り除けるなら悪夢を取り去りたいと思っただけだった。それも自分のためだ。


(いよいよ、この発明を早く成功させて世の中に広めなければ)


 手を取って喜び合うメアリー、ローズマリー、アンリ。

 それを優しい顔で見守るアレクにアスタ。


 今は大切なものが増えてしまった。それは喜びであり、重いプレッシャーでもある。


「一日でも早くこの発明を完成させましょう!」


 みんなが笑顔で賛同するなか、そういったユアンだけが口元を強く引き締めたのだった。

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