14. 里親探し

「そういうわけで、誰か猫飼ってくれそうな人知らないか」


 寮長が同室者がいいと言うならと、あっさり許可をおろしてくれたので、僕はそのまま子猫を部屋に連れこんだ。

 できればキールの家に引き取ってもらいたかったが、既に大型犬が六匹もいるところにこんな小さな子猫は危険だと断られた。


「明日みんなに聞いてみるよ」

「ありがとうキール」


 キールのその一言で僕は全てが解決した気分になった。


── 数日後


「あら話には聞いていましたが、本当に小さいのね」


 少し冷たささえ感じる凛とした声音で、ユアンの腕の中に抱かれた子猫を見るなり、彼女はそう言い放った。


(なぜよりにもよって彼女なんだ)


 ローズマリー・フローレス公爵令嬢。真っ赤な瞳に睨み付けられ、ユアンは子猫と同じように小さく縮こまってしまった気がした。

 いままで関わり合いを避けてきたと言うのに。思わずキールを睨み付ける、しかしキールはなぜにらまれたかわからずキョトンとした顔をする。

 確かに今回はキールにローズマリーの愚痴はこぼしていない。クラスも違うのだから、キールが分かるわけがない。逆になんでクラスが違うのにキールの呼びかけに彼女がここにいるのかが不思議である。


「学食で里親になってくれそうな人に片っ端から声をかけてたら、彼女がなのりをあげてくれたんだよ」

「なるほどね」

「安心してくださって結構ですわ。これでも私、今まで何匹もの猫ちゃんを里子に出したことがあるんですわよ」


 不安げなユアンの表情をどう捉えたのか、ローズマリーは自信ありげに胸に手を置いて、声高らかにそう言った。


「フローレス邸で飼ってくださるわけでは無いのですか?」

「フローレス邸ではございませんわ。市街地の一角に私どもが経営する猫カフェなるものがありますの、そこでしっかり面倒を見ながら里親を探してみせますわ、ちなみに猫カフェというのはー」


 猫カフェの説明をしようとするローズマリーを手で制す。


「知ってます猫カフェ、フローレス家の店だったとは知りませんでしたけど」


 どうやらフローレス家は猫だけではなく、犬にも同じようなボランティア活動しているらしい。一族皆動物好きのお節介一族のようだ。


「なら話は早いですわね。子猫ほどすぐに里親は見つかりますわ」


 大船に乗った気でいて下さいと言わんばかりキラリと目を光らす。

 ユアンはローズマリーのことを傲慢で冷たい女だと思っていたので、いつもより熱を帯びた声音と子猫をいたわるその仕草に、今まで勝手に抱いてきたローズマリーの氷のようなイメージが溶けていくような気がした。

 前の生でも大体ユアン言うことなら何でも肯定してくれるキールが、ローズマリーのことに関しては、否定的だったことを思い出す。


(キールはローズマリーにこんな一面があることを知っていたのかもしれない)


 ユアンから子猫を受け取ると、見るからにふかふかのタオルが入れられている猫用のゲージに優しく入れる。

 猫に向けられるその赤い瞳に、厳しさなどないただただ優しい暖かな光があった。それを子猫も感じたのだろう、ローズマリーに抱かれてる間もされるがまま体を預けていた。


「お利口さんね」


 それに応えるようにニャーと鳴いた。

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