第19話 繊細さん4

「では今日図書館見学で案内してくれる、図書館司書の東雲梛さんです」

「四年二組の皆さんこんにちは。東雲梛です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

 一階のホールで声が響く。元気があって良い……よかった、始まりを図書館でやらなくて。


 でんさんも驚いて覗きにきた。

「みなさん、元気があっていいけど、図書館は静かにしてくださいね。ここから3グループに分かれて案内していきます」

 多くの子供たちを相手に話をするのは久しぶりだからドキドキ。仙台さんも見守ってくれててドキドキ。

 そして補佐として常田くんもいるからさらに増してドキドキ……。


「はい、では1グループの人は僕、常田が案内する視聴覚室にて点字やオーディオリーディングサービスのお話をしたいと思います」


 そう、常田くんは点字司書でもある。彼は目の病気で子供の頃に何度か入退院をしていたという。それをきっかけに、また今後のことを考えてその資格を持っている。これは彼がこの図書館に来た時から面接の時に聞いていたし、若手の点字司書は欲しかったとは館長は言っていた。

 今は薬で良くなってると聞いていた。メガネは少し色がついているけど、そんなことを忘れるくらい彼は普通に過ごしている。だからわたしもそこまで気にしてはいなかったけど彼がその作業をしているとそういえば、と思い出すのだ。


「はい、2グループの人は、わたくし夏目についてきてください。閉架図書に案内しますのでエレベーター前にさらに二つに分かれて乗ってください」

 夏姐さんもハキハキと案内してくれる。すごい声が通る。


「梛、仙台先生もイケメンねぇ。あんたのことをずーっと見てるわ」

「気、気のせいです。わたしは……」

「そうよねー、あなたは常田くんとラブラブなんだから……浮気はだめだーめ」

「わかってますって」


 と夏姐さんはわたしを茶化してからエレベーターへ行った。


 そして残った10人の子たちと……仙台さんで階段を登り二階の図書館スペースに移動した。子供たちは挨拶はシャキシャキと大きな声だったけど見学中は穏やかでしっかり話を聞いてくれた。

 不定期で子供たちへの図書館見学の依頼はあるけどこんなにも緊張するのは久しぶりだ。たしかに仙台さんはわたしをずっと見ている。



 ◆◆◆



「乾杯!」

「乾杯」

 夜、図書館近くのバルでわたしと夏姐さんと常田くんで飲み会。地域活性化のために割引クーポンが配られたわけで。滅多にいかないお洒落なところ。こういうところは常田くんと二人で行きたいけどね。


 このコースだとまた夏姐さんの息子くんたちを見れる。少しそれが楽しみ。


「今日はさくっと飲んでさくっと帰るからねー」

 うそ、出だしそんな宣言する? 夏姐さん。

「えっ、最初からそんなこと言わないでくださいよ」

「だって今日はお迎えがないから」

 うそっ……うそーっ。嫌な飲み会も乗り越えられたのは長男くんと会えたからなのに……て、常田くんいる前にまたっ。


「梛は飲むの?」

 多分一杯しか飲んでないのに夏姐さんは絡んできた。

「うん、車置いて行くから」

「帰りどうするの」

「歩いて帰る」

「常田くんのおうちでお泊まりじゃないのー?」

「そんな毎日泊まるようなことは……」

 事実ここ数日は何日に一回は泊まってるんだけどね。


「いい関係なのね、よかったよかった!」

「あざっす」

「常田くんも甘えてばかりはダメよ」

「あ、甘えてないっすよ」

 常田くん顔真っ赤。たしかに二人の時はすごく甘えてる。全くチャラくないの。


「けっこう梛はドMだからもっと攻め込まなきゃー」

「な、夏姐さん!」

 もっと常田くん真っ赤。お酒飲んでるからよね……。ただわたしは控えめで、人に文句言えなくてハイ、ってしたがってばかりで。いつも受け身だもん。


 お店の中も賑わっている。でもそれぞれ衝立があって個室ぽくて。やっぱりここは常田くんと二人、お酒を楽しむところよね。


 あそこのカウンターはとても雰囲気あっていいな。ああいうところは仙台さん……って。もう。ん?


 カウンターの隅にいるのは仙台さん? だよね? あの服は今日と同じ。スタイル良くて足も長くてカウンターでカクテル飲んでいるの、最高じゃない……。

 他の二人は気づいてない。わたしは仙台さんを見ていた。

 わたしに気づいてくれないかしら。なんてね。


 カランカラン


 ドアのベルがなる。


「おまたせ」

「ああ、待ったよー」

「ごめんなさい。それよりも元気?」

「うん、元気元気ー」

「ならよかった」

 仙台さんの横に座るお嬢様系の女性……誰なの?わたしは手元のグラスを倒してしまった。


 その後で仙台さんはわたしを見た。やば、きづかれちゃった。驚いている。

 夏姐さんも常田くんも立ち上がったから3人とも見られてしまう。


「あら、仙台先生」

 夏姐さん……声かけちゃダメだよ。たぶん仙台さんはデート中。

「あっ、図書館の」

 ニコッと微笑まれた。誰なの、その横の女性は……。わたしの心を勝手に弄んで……。


 すると常田くんがわたしの手を繋いだ。ギュッと。そして仙台さんたちの前に立ち、

「今日はどうも……では僕たちはここで失礼します。行くで、梛」 

「えっ、夏姐さんは?」

 夏姐さんはボー然としてる。そのまま店の外へ。

「まぁ一人で飲むやろ」

「女性を一人にしたらダメよ」


 ……! 常田くんがキスしてきた。まだ店の前なのにっ。


「あー緊張したわ。仙台さんの前で僕の女やって証明してやったわ」

「ちょっと、常田くん……」

 またキス。もうっ。私も舌を入れて……お酒の味がする。お尻を掴まれた。……誰か人に見られちゃうよ。


 パシッ! パシッ!


 痛っ!


「あんたら、私置いて外で盛るな!」

「なんすかっ、ええとこやったのにぃ」

 夏姐さんだった。……常田くんと目を合わせて笑った。


 パシッ! パシッ!

「まだ飲むぞ、飲むぞ!」

 痛いー! 夏姐さんーっ。

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