第43話 ケンケンパーでさえエロくするのがサキュバス

 サキュバスバトルについての蘊蓄を垂れ流して、ドヤ顔してるロミオに腹パンしたくなったけど、そこはぐっと堪える。


「ロミオ。私に外連味を指導してください!」


 私は深々とロミオに頭を下げる。それを見てロミオはさらにドヤ顔を深めた。


「ふふーん。しゃーねぇーなー!イキリビッチちゃんにサキュバスの振る舞いかったって奴を教えてやるよ!この牢名主様は頼られちゃったら断れないいい子だからねぇ。ひゃははは!」


 果てしなくイラっとしたが耐えきった。私は勝つためなら多少の屈辱は笑って流せるビッチになると決めたのだ。


「ありがとうロミオ。ではどうすればいいのかしら?」


「昼になったらお前の修行の為にある興行イベントを行ってやるよ」


「興行?」


「そう。ここは遊園地だ。だから修行も見世物にしなくちゃならない。楽しい楽しい修行の時間だ!いーひひひ」


 何か魔女の様に楽し気に笑うロミオに若干やな予感がする。何をやるのかはちゃんと確認しておいた方がいいだろう。


「何する気なの?」


「ん?鬼ごっことケンケンパー」


「ケンケンパーって何?」


「え?ケンケンパー知らねぇの?!道路にチョークで丸とか書かなかった?」


「道路に落書きするのは駄目でしょ…」


「マジかよ…これはジェネレーションギャップか?オレもいつの間にか年を食っちまったんだなぁ…」


 何かしみじみとババ臭いこと言うロリっ子。もしかするとロミオってかなりの年なのかな?サキュバスは不老不死だし…。やめておこう。いくらビッチとは言え女の子だ。年のことは聞くまい。


「まあ楽しみにしてろ。お前を一日でそれなりのサキュバス流エロエロバトルを仕込んでやっからさ!いひひ!」


 ロミオは楽し気に笑った。内容に不安を感じるが、それでも効果には期待できそうだ。





 そして午前の業務を終えた私は、ロミオにメリーゴーランドの前に呼び出された。私も今日はチアリーダーのコスチュームだが、スカートの下は古き良き時代のブルマである。ちなみにブルマを今日初めて着たけど、ゴムひもが太ももを変に締め付けて気持ち悪い。若干痛みさえ感じる。動きにくいし、これが体操服として廃れた理由がよくわかってしまった。だけど男性からの需要がすごく高いのは吸精の効率の高さでよくわかった。チアダンスを披露して、ポンポン振りながら足を上げたら、すごい勢いで精気が私の体にぶっかかってきたのだ。…正直気持ち悪かったです。男はパンツよりブルマが好きなのか…。男女の溝とはかくも不可解なものなのか…。


「はーい!御通行中の皆さん!ちゅうもーく!」


 メリーゴーランドの屋根の上にロミオがいた。拡声器を持って叫んでいる。お客さんたちとキャストのサキュバスたちが足を止めて興味深げにロミオを見上げている。


「今日これからちょっとしたゲームをしまーす!ゲストの皆さんには是非とも奮ってご参加ください!ジャン!こっちに昇って来い!」


 私の源氏名が呼ばれた。ロミオに指示されたので、私はメリーゴーランドの上に飛び乗ってロミオの傍によった。


「えーこれからこのジャンを捕まえる鬼ごっこをしようと思っています!ルールは簡単!こちらのジャンが指定されたパーク内の指定されたコースを走ります!スタート地点はこのメリーゴーランド。パークの各所の前を通過し、ゴールはあのサキュバス城の正門となります!」


 ロミオがそう言うと、お客さんたちの前にパークの地図が空間投影される。その地図には赤い線で私が走るコースが書かれていた。


「さてここからがお楽しみだぁ!ゲストの皆さんにはこのジャンが走るのを妨害していただきたいのです!ルールは簡単!お客様にはそれぞれ担当エリアが割り当てられます。コースの各地に半径1メートル程度のARサークルが空間投影されます。ジャンはコースを走るときに必ずこのサークル内を通過する義務があります!お客様はこのサークルの中で待ち構えて、ジャンにタッチをしてください!もちろんジャンはそれを全力で避けます!お客様はそのサークルからは出られないので、タッチできるチャンスは一度きりとなります!」


 ルール説明にお客さんが騒めき出す。すごく興奮気な熱い視線が私に集まっているのを感じる。それどころか微かに精気が私の方へと漏れでている。このイベントすごく期待されてるようだ。だけどタッチって、軽い感じだよね…?


「えータッチですが。まじでタッチです。首から下ならどこでもオーケー。掴むのはなしです。痛いのも駄目。あくまで軽く触るだけ。もう一度いいます。どこでもオーケーです。二の腕でも、肩でも、太ももでも、お尻でも、たとえおっぱいでもかまいません!ジャンだけにジャンジャンタッチしてあげてください!」


『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』』』


「ふぁ?!ちょっとロミオ!なにそれ!?パークってお触り禁止でしょ?!何言ってるのよ!」


 こんなルールなら男たちは間違いなく胸か尻を狙ってくるだろう。それは勘弁してほしい。いくらなんでも女としてそんなことしたくない。触れられてしまった日にはトラウマになりかねない。


「ふっ…これくらいのリスクも踏めないの?おまえそれで強くなれると思ってるの?ユリシーズ倒すってイキリ散らしてんじゃん?お前のイキリってその程度の覚悟なの?ん?やめる?別にオレはいいんだよ?お前がやりたくないって言うならやらなくてもね。でもお前はどうなん?勝ちたくないの?んー?勝ちたくないのー?んー?」


 本当にぶん殴りたくなる煽り方だった。腹パン+逆さ釣りしてやりたいくらいだ。だけどここで逃げるわけにはいかない…!逃げたら私はきっと二度と立ち上がれなくなる!


「…わかったわ…やってやるわよ!触られなきゃいいんでしょ!触られなきゃね!」


「よーし!いいぞイキリビッチ!煽り耐性ゼロのお前が大好きだ!さてこれからお前はタッチしようとしてくる男共をよけながら走ってもらう。いいか?タッチされそうになったら、バク宙や前宙あるいは側宙みたいな軽技で避けるんだ。最近流行ってるだろ?パルクールでフィールドをダッシュする奴。あの感覚でやれ。実際ドローンに並走させて、お前の映像をパークの各所のモニターに配信する。意味わかるよな?」


「避け方がかっこよければ動画を見てくれたお客さんから吸精ができる。外連味が身についているかどうかテストできるってことね」


「そういうこと。さて。さらに無茶ぶりっすぞ!オレは新人をいびるのが大好きだからな!ほらよっと!」


「きゃあ!何するの?!」


 ロミオは私のスカートの中に両手を突っ込んで、ブルマに手をかけて思い切り引きずり下ろした。


「ほら足上げろ。ブルマはなしだ。お前には生パンで走ってもらう」


「うそ?!マジで言ってるの?!」


「おうよ。まじまじ。生パンで走るからこそお前の心に羞恥心が生まれる。それが外連味を加速させるのさ。それに多少の恥ずかしさに慣れてもらわないと、闘技場のバトルで緊張しまくって実力が出せないなんてことにもなりかねん。くぅオレってマジでいい師匠やってる…」


 私はロミオの説明に理屈では納得してしまった。だから足を上げて、ブルマをロミオに取ってもらった。


「さてみなさーん!見事タッチできた方にはこちらの脱ぎたてブルマをプレゼントしまーす!奮ってご参加ください!」


『『『『『『『うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』』』』』』』


 私の脱ぎたてブルマのプレゼントを聞いてお客さんたちが怒号を上げる。もうさっきまでと違って目が血走ってる。殺気のようなものさえ感じる。


「ふぁ?!絶対勝たなきゃ不味い?!」


 触られたら色んな意味で終わる…!


「本日限定イベント!『サキュバス・スーパーケンケンパーダッシュ!ポロリもあるかも?!』お楽しみください!ひゃっはーーー!」


『『『『『ひゃっはーーーーーーーーーーーーーーーーーー!いいやほうぅううううううううううううううううううううう!!』』』』』


 心底楽しそうなロミオの絶叫と圧倒的興奮に包まれたお客さんたちの怒声が響き渡る。こうして私の負けられない戦いの幕が落とされたのだ。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る