第35話 イキリブスは学級会で吊し上げろ!


「お前はマジで馬鹿なんじゃねぇの?本当に帝大で修士取ったの?詐称じゃないの?今なら許してやるよ?ん?」


「学歴は私の誇りよ。詐称なんて絶対にしない!」


 私はユリシーズに決闘を申し込んだ後、ロミオにこってりと絞られていた。パークの地下食堂のど真ん中で正座させられて、言葉の暴力をひたすらぶつけられていた。


「オレだって別に喧嘩するなとは言わんよ。でもさ、お作法ってものがあるよね?なんでお前は真正面から罵詈雑言をぶつけに行ってんの?コミュ障なの?闘技場派閥の子たちからお前への苦情が殺到してるんだけど。女の子って傷つきやすいんだよ?知らないの?別に悪口を本人に言わなくても、言われてる人を見るだけでもショックなのよ?わかる?」


「先に因縁を吹っ掛けてきたのはユリシーズだから…。ここで一発やり返さないと舐められると思って…」


「それでもあいつはお前への挑発を周りに人がいないところでやってだろ?あいつも確かにガキだと思うぞ。だけどなぁ。まだちゃんとお前への配慮があった。なのにお前はちっとも配慮せずに突撃しやがった。これはギルティですわ。さてどうしたもんかね…。謹慎処分が妥当かなって思うんだけど」


なにこのめんどくさい女の子社会は…。学級会並みに雑な論理で私を裁こうとしてる。


「ちょっと待って!それは困るわ!私は決闘の為に精気を溜めておかないといけないの!仕事出来なくなったらロクに戦えないわ!他の賠償には応じるから、謹慎だけは勘弁して!」


「お前は自分がしたこと棚に上げてどんだけエゴ晒してんだよ…。呆れるなぁ…。はぁ…。なあローラ。闘技閥のサブリーダーとしてはどうなん?こいつはイキリブスだけど、一応そっちのリーダーが挑発してたのは事実だぜ。見解が聞きたいんだけど」


 ロミオの傍で私への説教を聞いていたローランドが口を開いた。やや険しい目を私に向けている。


「まず第一に派閥のメンバーが揃ってるところでリーダーにイキリ倒す時点で『無い』です」


「ですよねー!それはオレでも庇えんわ!ははは!」


 私がやったことってもしかしてヤクザの組長に直接喧嘩売りに行くようなレベルにやばいことだったのかも知れない。女の子のグループって怖いなぁ。


「だけどうちのリーダーは今かなりやる気になってます。いつもは飄々としていて優雅な王子様みたいなのに、私怨剥き出しで訓練に勤しんでます。その上、あの人久しぶりにパークのレンタル彼女引き受けてましたよ。なんていうかなりふり構わず精気を溜め込むつもりですね」


「あのプライドバカ高いユリシーズがレンカノやってるなんてな、スーパーマジモードなんだな。…おもしろいじゃねぇか…」


「ええ、そうなんです。なのでそれを邪魔する方がわたし的には怖いです。だからこの子への謹慎処分はいったん棚上げにしてください」


「オレたちとしてはありがたいけど、それだと他のメンバーが割り切れないんじゃないか?」


「はい。割り切れません。なので条件を持ってきました。新入りさんよく聞いてくださいね」


「ええ謹慎以外だったら、なんでもどうぞ!」


 ローランドは何処か嫌そうな顔で条件を口にした。


「決闘に敗北したらあなたには半年間、闘技閥の下っ端とユリシーズの付き人をやってもらいます」


「それはつまり私に奴隷になれといってるのかしら?」


「…まさかぁ!そんなことないよー!ちょっと毎日嫌味言われて、ちょっと毎日しごかれて、ちょっと毎日きつい仕事やらされるだけだよ!それくらいだよ!安いものだよ」


 どうやら奴隷扱いらしい。果たしてどれほどの地獄が待っているのか。考えるのにうんざりする。それよりも付き人とかさせられるのがすごく嫌だ。あの女は絶対私のことを洗脳しようとしてくるはずだ。そしてそれに屈してしまえば半年後には私も自分のことを『ボク』とか『オレ』とか言う王子様キャラクターになってるのだろう。それはちょっと勘弁願いたいなって思う。私に王子は似合わないのだから。


「どうせ闘技閥へ移籍してもユリシーズはいじめを許すような奴じゃないし安心かな?それならオレとしてはその提案を飲まざるを得ないね。もともとこいつのやらかしだしな。いいよな?」


 ロミオは闘技閥の提案に納得したらしい。私に確認を求めきた。


「ええ、それで構わないわ」


「おーけー。じゃあローラ。シフトの調節をしよう。こいつの今の精気の溜め具合を考えると二週間後くらいがちょうどいいと思うんだけど」


 ローランドはタブレット端末を取り出して、パークの業務管理アプリを開き、闘技場のスケジュールを確認している。


「そうですね。枠は開いてるんでそれで調節します。新人デビュー戦って感じでチケットを売り出しましょう。ところで新入りさんは今はジャンって名乗ってるけど、これって本決まりの源氏名?仮っぽい感じだけど」


「ああ、こいつの源氏名はまだ仮だな。そうだな。丁度いいから二週間後についでにお披露目って感じにしちゃおうか。新人さんならそういう場で源氏名を発表する方が縁起もいいだろう」


「わかりました。じゃあシークレット的に伏せておきましょう。新入りさん、ちゃんと考えておいてね」


「わかりました。考えておきます」


 ロミオとローランドの間に話はついた。決闘は二週間後。高揚感のようなものを感じて自然と口元がにやけてしまう。


「あなたもしかしたら闘技場向いてるかもね…まあお友達にはなりたくないけど。まあせいぜい頑張ってちょうだい。応援はしてあげないけどね」

 

 ローランドは私の顔を見て何処か苦笑いを浮かべていた。


「わかりました。あなたたちのリーダーを精一杯叩き潰してあげますから楽しみにしててください!」


「はぁ…まじでイキリブスだわ…。ユリシーズがハマっちゃうのもわかるなぁ…。ある意味楽しいかも知れない…。お友達にはなりたくないけどね!」


 こうして決闘の日程は決まった。あとはその日まで鍛錬を積み上げるだけだ。頑張るぞ!



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