⑤ 動物カフェで作戦会議
ルーシュンさんのところからあわててベンチに戻って星崎さんとお昼を食べたあと、わたしたちはカフェに全員集合していた。
動物をかたどったケーキやお茶を選んでトレイに乗せていく形式で、わたしはそそっとももちゃんとせいらちゃんに駆け寄る。
「二人とも、報告があるの」
ラズベリーうさちゃんケーキをとっていたももちゃんが振り向く。
「なに? 王子にまたキスでもされた?」
なっ。
「そそそんなこと、そうそうあるわけ⊷―」
「でも夢、すでに経験済みじゃん。一度ったら二度もあるって言うよ?」
わわっ。
思わずジュースをこぼしそうになっていると、カエルさん抹茶シューをとりながらせいらちゃんが冷静に、
「ももぽん、それを言うなら『二度あることは三度ある』、よ」
なんだ。
もう一回ないとだめなのか。
って、そうじゃなくて!
「ももちゃん、せいらちゃん、わたし、漆黒のナイトさんに会った!」
さっと、二人の表情が変わる。
「ナイトさんは漆黒じゃなくて、ほんとは銀色で、髪は長かったの。それから、わたしをテストしたいらしくて、課題は動物の本をとりかえすことで、もし合格しても、また戦わなきゃならないらしくて、ええっとそれから……?」
「夢落ち着いて!」
「わかるように話すのよ」
二人になだめられて、わたしはようやく、ルーシュンさんとした話の一部始終を伝え終えた。
「ブラックブックスのトップが、ついに現れたんだね……」
ももちゃんがいつになく深刻な声でつぶやく。
「じつは、あたしも、二人に報告があるの」
せいらちゃんが語ったのは、さっきであった効率化クラブの存在だった。
「ひどいでしょ。仕事のできない動物は必要ないとかいうのよ」
「なんてやつらだ」
ももちゃんもぷんぷん。
そこへ、さっきまでガラスの壁にもたれて外の様子をうかがっていたマーティンが走ってやってきた。
「たいへんだ。黒いスーツを着た大人たちが大勢、武器をもって押し寄せてる」
「効率化クラブだわ」
せいらちゃんが青い顔で言った。
役に立つものだけが優先される。
そうじゃない人々や動物はは、殺される。
『生きていくのがじょうずじゃないところかな』
さっきの星崎さんの言葉が、蘇る。
『夢ちゃんのここはたくさんのものを背負ってる。捨ててしまえば楽になるのに、きみはそれができない。ずっと、大事に守り続けてる』
小さな赤ちゃんを背負って歩くお母さんパンダさん。
それがいらない動物なんて。
「違う、違うよ」
たまらなくなって、わたしはカフェから飛び出した。
黒い団体は、ふだん動物ショーが行われる舞台を壊そうと迫っている。
舞台にたって両手を広げ、叫ぶ。
「効率化クラブさんたちは、失敗ばっかりのパディントンやプーさんを見て楽しい気持ちにならないんですか?」
追いかけてきてくれたももちゃんが加勢してくれる。
「なにもかもきっちりルーティンどおりなんてつまんないと思います!」
そのあとからせいらちゃんも。
「失敗したり、スピードが遅い人もいたり、つっぱしりぐせのある人もいる。だから助け合うってことだって成り立つのよ!」
それでも効率化クラブの人たちは、武器をもった手を下げない。
情報をささやいてくれたのは、誰より早くここについていたマーティンだった。
「こういう団体が生まれるのは、動物の本がなくなったことと関係があるんじゃないかと思うんだ。消えた本といっしょに、動物や人の愛嬌を愛しく思う気持ちが人々から取り去られているんだ」
そっか……!
「じゃ、動物をかわいいって思う人々の気持ちを呼び戻せばいいってことね」
まとめるせいらちゃんにマーティンはうなずくけど、その表情はすぐれない。
「あぁ。ただ、問題はその方法だな」
そのとおりだ。
動物をかわいがる気持ちを、人々の中にどうやって呼びもどすか……。
はいっと手を挙げたのはももちゃんだった。
「あたしに、考えがある」
ほんと!?
にっこりももちゃんは笑った。
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