④ 効率化クラブ ~せいらの語り~

 空中にはカラフルな鳥と、真っ赤な南国の花たち。

 それでもあたしの心はブルー。

 みなさん、ごきげんよう。

 夢っちの親友二人目、せいらよ。

 みんなで調査のために動物園にきてから、親友たちがなにか言う前に、どうしても行きたいところがあるからって言って一人、ここにやってきてしまったの。

 そりゃ、花鳥園は好きよ。

 でも、どうしても行きたいなんて、もちろん嘘。

 青いコマドリさんがとんできて、あたしの周りをぶんぶん飛ぶ。

「かわいい。あなた、幸せのブルーバードなの?」

 あたしにも幸せ、運んでくれないかしら。

 ちゅんちゅんと鳥さんは肩にかけたバッグをつつきはじめる。

「だめよ、そのバッグお気に入りなの」

 でも鳥さんはやめてくれない。

 バッグの隅のポケット、スマホが入ってるあたりだ。

 なにげなく取り出してみると、なんと電話がかかってきていた。

 いけない。

 昨日のテストでサイレントモードにしてたのそのままだったんだわ。

 それも、今頭に浮かべてた相手。

 あわてて通話ボタンをタップする。

『よぉ』

 聞こえてきたのんきな挨拶に、ちょっぴりむっとくる。

「『よぉ』じゃないわよ。トリプルデートって言ったでしょ! 来れないってどういうことよ」

『悪い悪い。学校の仕事が有り余っててさ』

 カレはかみやん。

 中学の担任の先生で、あたしの、大切な人。

 このあいだブラックブックスといっしょに戦ったばかりなの。

「休日の学校で一人なんでしょ。気を付けてよ。いつどこで狙われるかわかんないんだから」

『お前に心配されるほどやわじゃねーよ。そっちこそ動物園で友達に気なんか遣って一人で行動してんじゃねーだろうな』

「う」

『図星かよ。いいか。相手はかなりやばいんだから、くれぐれも単独でつっぱしんなよ』

すっかり見抜かれてる。

『……オレ強い女はきらいじゃないけど、お前だけはだめだ。心配で心臓つぶれそうだよ。むしろそっちが重症ってカンジだ』

 顔があつくなる。

「……ばか」

『あんだって?』

「わかったわよ。ほどほどにするわ」

 たぶん、と心でつけくわえる。

 そのとき、スーツ姿の女の人が近寄ってくるのが見えた。

「露木せいらさん、ですか。お電話中申し訳ありません」

 背の高い彼女を見上げながら不審に思う。

 あたしの名前を知ってる?

「かみやんごめん、またかけるわ」

 電話を切るや嫌な、その人はいきなりきりこんできた。

「せいらさん、あなたのような優秀な方をさがしにきたのです。チーム文学乙女などというふざけた組織はあなたの頭脳にはもったいないですわ」

 さらに、チーム文学乙女を知っているということは――。

 一礼する彼女をあたしは鋭い目で見つめた。

「申し遅れました。わたくし、『効率化クラブ』のものです。最近発足したクラブでして。資本主義が台頭してから五百年余り。大事なのは社会が発展していくことです」

 そうね。つねに向上していくことは、たしかにいいことだわ。

「発展に寄与しない生物は処分すべき。そう思われませんか? 原則会員は大人なのですが、あなたは特別です。我々効率化クラブに入りませんか」

 幸せの青いコマドリさんが肩の上で不安げにちゅん、と一声鳴いた。

 あたしはほほ笑んだ。

「お断りしますわ。そのようなふざけたクラブ、興味ありませんの。発展は大事ですが、それよりも大事なことがあります」

 では失礼。

 ちゅっとコマドリさんにキスすると、あたしはその場をあとにした。

 効率化クラブ。十中八九、ブラックブックスとかかわりがある。緊急事態だわ。

 夢っちとももぽんに知らせなくっちゃ。

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