⑤ 大人対応と一抹の寂しさ ~もも叶の語り~

 ドライブのあとは、山の上のカフェで休憩だ。

 木造づくりらしいおしゃれな造りだ。

 広いガラスの向こうに、海が見える!

 なかなかやるな、この変な人。

「さぁもも叶、なんにする?」

 メニュー表を開いて、差し出してくれるルーティン。

『和のスイーツ』のページに目がとまる。

「このきなこケーキおいしそー♡」

「僕は、抹茶かな……」

 メニューを注文し、栗色のきなこがまぶされたクリームケーキがやってきた。

「お待たせっ、いたしました」

 持ってきてくれた店員さんは若い新人さんのようで、お盆を持つ手が震えている。

「だいじょうぶですか」

 あ。

 彼はすかさずわきからお盆を支えて。

「すみません、恐れ入ります」

「お気になさらず」

 顔色一つ変えずにちゅーっとストローで抹茶をすする。

 抹茶にストローはどうかというつっこみはおいといて……。

 この困っている人を当然のようにサポートする感じ。

 なんか、どこかで見た感じなんだよな。

 じっと見ていると、からんからんと音がして、新たなお客さんたちがやってきた。

 両親と男の子一人の家族連れ。

「なー、かーちゃん山なんか退屈だよー」

 ぶらぶらと両手を動かしている、あたしと同じくらいの男の子を、何気なくみやる。

 げっ。

「お」

 男の子がこっちを見た。

 あちゃーっ。

 顔を覆ったけどもうおそい。

クラスの男子だ。

 やたらとつっかかってくるんだよね。

 あたしは男子にもわりと友達がいるほうだけど、こいつはなんかめんどうだ。

 夢に意地悪するところがとくに、許せん。

 そんなことを考えているとそいつはにっと笑った。

「園枝じゃん」

 ふん、とそっぽを向くけど、両親の視線を盗んではこっちへやってきて、

「なんだよーシカトかー? シカッティングですか~?」

 こういうとこが、ガキだよなぁ。

 さらに始末の悪いことにそいつはルーティンに顔を寄せては、

「その人誰? お兄さん? 外国人? 日本語ワカリマスカー?」

「あぁ、わかるよ」

 彼は笑顔で対応している。

「あっ、わかったカレシだ! 不純異性交流だー」

 はしゃいで言うと思ったら、

「でも園枝なんかこんな大人のターゲットんなるわけないかー」

 もう勝手にしてくれ。

 怒るのを通りこして呆れている。

 こういうセリフはこの手の男子にとってあいさつ言葉みたいなものだ。スルーに限る。

「ははは。違うよ、僕」

 スルーしていると、ルーティンが口を開く。

「僕はもも叶の親戚でハーフのルーティンだ。いつも彼女がお世話になってるね」

「お、は、はい……」

 にっこり微笑まれて出鼻をくじかれたように、男子は去って行った。

 すごい。あのめんどくさ男子を、一発で追い払った!

 お礼を言おうと思って彼を見たら、あれ? 

 ルーティン、かすかにふるえてる?

 もしかして。

「あの、男子にあんなこと言われてショックだった? 気にすることないよ。ああいうのはね、ああいう言い方しかできな――」

 必死に励ましていると、ルーティンは低い声でなにかつぶやく。

「……ああいう男が近くにいること、どうして僕に黙ってるんだ」

 ん?

「何か言った?」

 そう言うと、はっとしたようにこっちを見て、

「なんでもない。大人なルーティンは大人な対応しかしないんだ。はは。さ、スイーツを食べよう」

「うん……」

 フォークでゴールドダイヤのようなきなこのまぶされたクリームをすくって口に運ぶけど、ろくに味がしない。

 頭の中で誰かの声がする。

『もも叶にそんなこと言うなんて許さない! 僕と勝負しろ!』

 とか……カレなら言ってくれるんだろうな。

 めちゃくちゃ怒って、顔を真っ赤にして。

 想像したら、ふふっと、笑いが漏れる。

 たまにけんかっぱやくてちょっと困るけど。

 そういうところ、やっぱり好きだよ。

 ……マーティン。

 心でそうつぶやいたとたん、

『星崎王子とか神谷先生なら、大人な対応してくれるのに――!』

 その大好きなカレに自分が言った言葉がいまさらながら蘇って来て、ずきんと胸が痛んだ。


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