⑧ 小公女子の優雅なるつまづき
Side:せいら
クルーズ生活三日目の今日。本来であれば、まばゆい朝日がさんさん降り注ぐはずの時間帯。
船内の地下室には、動力のための機械がせわしなく動く。
人気のない広い一帯で、カツン、カツンと足音が響く。
今だわ。
物陰から、回廊に躍り出る。
「ジャック・ロイド。小型爆弾なんかで親友を危険にさらした罪で、この小公女探偵せいらが逮捕するわ!」
そう。
あたしは、豪華朝食を食べ終わったあと、ここでずっと敵を待ち伏せていたの。
同室のかみやんには、デザートを食べすぎたから、ラウンジで休憩してくると言ってある。
我ながら完璧な計画だわ。
金髪の敵はふっとゆがんだ笑みをこちらに向ける。
「やはり、来ましたか」
「調べはついてるのよ。あのマイクロボムを製造しているのはメルヒェンガルテンの悪役たち。そして数マイル先の海域で起きた海賊同士の衝突で行方不明になった者の中に、あなたがいる。その金髪、アメジストの指輪。莫大な賞金がかけられてるロイドの特徴だわ。さぁ、観念なさい!」
ぱちぱちと、奴は手をたたく。
「すばらしい。船内の図書室でそこまで調べましたか。よくがんばりましたね」
なっ?
なんなの、この余裕な態度!
「あなた、ばかにしてるの!?」
「まさか。ですが、優秀な探偵さんにも、一つ、ぬかりがあったようですね」
「え?」
くいっと、緑の宝石のついた指が、動く。
なんなの……!?
それにつられて、身体が引き寄せられるように動いていく。
どうも、着ている服が、あたしをひっぱるみたい。
「小公女セーラのドレスが……!どうして」
彼の口元が優雅な弧を描く。
「さすがのご明察だ。それは小公女のもの。僕からの贈り物はお気に召しましたかな、プリンセス探偵殿」
きっとあたしは顔を上げた。
「モンゴメリさんの名前を騙ってだましたのね!」
なんて卑劣なヤツ!
「そのとおり。そこまでご賢察ならば、愛をこめて贈らせていただいたこのドレスの効用も、もうおわかりですね」
あたしははっとした。
身に着けた女性に、物語のヒロインと同じことが起きるドレス――小公女をおそった悲劇。
思いいたったときにはもう、遅かった。
抗えない眠気がおそってきて――だめ、もう立っていられない――。
「次からはご記憶ください、お嬢様」
頽れる途中で、脇腹のあたりを、抱きとめられる。
「野蛮な海賊は、欲しいものは手に入れる主義なのです。邪魔立てするものはためらいなく消すことができる。――たとえどんなに愛らしい小公女であっても」
ぞっとするほどやさしい響きに誘われて、あたしは深い闇の中に堕ちていった。
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