④ 夢未の願い

 昨日の深夜2時。

 マンションのリビングで、わたしはカレの帰りを待っていたんだ。

 さっきももちゃんが言ったように、デートに誘うため。

 星崎さん、遅くなるってきいてたから、今日は一人でご飯もお風呂も済ませて、あと片付けも終わってたけど。

 そのあいだじゅう心臓ばくばく。

 だから、マンションの部屋の扉が開いたときも、胸が大きく音を立てたんだ。

 待ちきれなくて、玄関に向かう。

 お守り代わりのくまのパディントンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、わたしは口を開いた。

「ほ、星崎さん、お帰りなさい。あの、えっと、今度のお休みわたしと」

 そのとき、だんっと、玄関の壁に手をつく音がして。

 びっくりして前を見ると、星崎さんがそこにもたれていたの。

「星崎さん!?」

 なんか、ふらふらしてない?

 顔色も悪い。

 かけよって手を握ったら、目を閉じてた彼が、こっちを見て笑ってくれる。

「夢ちゃん……ただいま……」

 だけど、今にも倒れそう。

「オレを、待っててくれたの?」

疲れた顏で、でも精一杯に笑ってくれる。

「え。は、はい……」

「だめだよ、夢ちゃん。明日は日曜とはいえ、はやく寝なくちゃ身体に悪いから」

その言葉、そっくりそのまま返したいよ。

「話なら、明日聞くから。……いや、明日も遅くなるし、しばらく休みはとれそうにないから、明後日の夜になるかな。ごめんね」

 明日も明後日も? その身体で?

 いつお休みするのかな。

 こんなカレ、初めてだ。

 「というわけで、とても言い出せなかったんだ……。わたし、いつも星崎さんに助けてもらうばっかで。だから、彼の力になりたいの。って言っても、どうしていいか」

 わたしにとってはすごく難しい問題だったんだけど。

 せいらちゃんにかかるとてきぱきと、話が進む。

「まずは、彼が困ってることの原因をつきとめないとね。星崎さんがお仕事のどんなことで忙しいかよ」

 ももちゃんも、思わぬヒントをくれたんだ。

「こないだ星降る書店のショーウインドーの前とおったら、星崎王子、一人で棚に向かって延々なにかをやってたよ。本を、一つ一つ調べてるみたいだった」

わたしはピンときた。

「きっと棚卸っていうのだ!」

 本屋さんではある期間に一度、お店に売る本が何冊残ってて、ぜんぶでどれだけの金額になるか計算するの。それが棚卸。

 ぴしっとせいらちゃんが指をさす。

「きっとそれよ。夏休みにもなったことだし、あたしたちもなにか手伝えるんじゃない?」

ももちゃんも顔いっぱいに笑顔。

「楽しそう! マーティンと神谷先生も誘ってさ」

「決まりね」

 わたしもなんだかとっても嬉しくなっちゃった。

「ありがとう、二人とも。星崎さんに話してみる」

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