第267話 論破コンボが止まらない!

 マシュマロを頬張ったように丸い顔をした、油ギッシュな叔父さんが、開始早々、机を叩いた。


「そんなものは決まっている! 日の丸党の暴走を止めることだ! そもそも我が富士山党は今から半世紀前、日の丸党の暴走を止めるために結党したのだ! 君らも日の丸党の横暴は知っているだろう! 野党を軽んじ国会を軽んじ国民を軽んじ王様気取りだ! 奴らの独裁政治を許してはいけない!」


「なるほど、鈴木さんの意見はよく分かったわ。それで、富士山党が政権を取ったら何をどうするの?」

「へ?」


 マシュマロ顔が、ぽかんと口を開けた。


「日の丸党を良く思っていないのは分かったわ。今の話に賛同する視聴者は、日の丸党には入れないことをお薦めするわ。それで、貴方がた富士山党に投票するメリットはどんなものがあるのかしら?」

「だ、だから、野党第一党である我が富士山党の議席が増え、日の丸党が過半数を手にすることを阻止すれば、日の丸党による独裁政権にブレーキをかけることがだなぁ……」


「つまり、最初から政権を取る気はないのね? それと、富士山党に限らず、野党は全員、いつも与党に反対してるわよね? なら、野党全体の合計議席数が過半数ならよいのだから、富士山党の議席が増える必要はないじゃない? 日本グローバル党でも、労働者主義党でもいいでしょ?」


 美稲が喋れば喋るほど、マシュマロ顔がどんどんしぼんでいく。そしてついには、


「それは……そう……だけど…………」


 と、言ってしまった。


 ――認めたよこのおっさん。


「ありがとうございます。では続いて日の丸党の、高橋さん」


 ――さっきの議員、落選するな。


 俺は、心の中で黙とうを捧げた。


「日の丸党の公約について、説明をお願いします」

美稲に促されると、高橋さんは、紳士的な顔で、胸を張って答えた。

「はい。日の丸党は女性が輝ける社会を実現すべく、子供を預かる保育園の数を倍に増やし、国防力を上げるために防衛費を増額し、労働力不足解消の為に100万人の移民を受け入れ、子育て世代を支援する為に子供手当を増額して大学の学費をタダにします!」


 迷うことなくスラスラと答えた。

 流石は現与党。政治家としての地力が違う。


「それは素晴らしいですね。是非とも実現してください」


 美稲の感想に、高橋さんはしてやったりの顔だ。

 他の政党の候補者は、


「くっ、日の丸党贔屓め」

「やはり、青桜党は日の丸党と結託しているのか?」

「所詮、龍崎大臣は総理の犬だからな」


 と呟いている。そして声を、マイクが全て拾っている。


 ――こいつら迂闊すぎないか。


 色々な意味で、こいつらの当選は阻止しなくてはいけない気がする。


「それで、財源はどうするんですか?」

「それは、仕方ないが、予定通り消費税を20パーセントに上げることを目標としている」

「消費税を上げると景気が冷え込むのに?」


 高橋さんの顔が、僅かに曇る。


「そんなことはない。確かに、最初は買い控えが起こるだろうが、すぐ元に戻る」


「冷え込みますよ。3パーセントの消費税導入時、5パーセントに引き上げ時、八パーセントに引き上げ時、全部景気が悪くなっています。データもあるし。2019年に10パーセントに上げた影響も、当時の株価を見れば一目瞭然ですよ?」


「景気というものは、株価だけでは判断できない。景気は冷え込まない。いや、冷え込まないように努力するのが、我々政治家の役目だ」


「分かりました。では、景気は悪くなっていないと思う人、消費税が20パーセントになってもいい人は日の丸党に清き一票を」


「じゃあ最後に、青桜党、龍崎さん。公約をお願いします」


 桐葉に促されて、早百合さんは自身の、そして青桜党が掲げる公約を説明した。



 政治家の過剰な優遇制度の是正。


 災害対策のために原発停止と、それに代わるエネルギーとして地熱発電の開発工事。


 労働力不足解消のために、定年退職者と200万人のニートの就職を支援。

 労働環境改善のため、企業へ労働基準法の順守を徹底させる。

 経済活性化のために、企業への金銭的、技術的支援。国の研究機関と企業の連携を密に。

 子供のいじめ問題解決のために、学校内での刑事事件は警察の管轄とする。



 個人的には、どれも素晴らしいの一言に尽きる公約だ。


 現職の政治家たちは早百合さんを見習うべきだし、むしろ、どうして今まで早百合さんのような政治家が現れなかったのか不思議だ。


 もちろん、美稲と桐葉も賛同する。


「それはいい政策だね」

「私としては問題ないのですが、他の方々はどうでしょうか? 議員目線で何かあれば」


 待ってましたと言わんばかりに、四人は目を見開き、肩を怒らせた。

 労働者主義党の、山本さんは熱弁する。


「地熱発電開発なんてトンデモない! 地層深くへの掘削作業は湯脈を乱し、温泉を止めてしまった海外の事例を知らないんですか! 温泉地を亡ぼすつもりか!?」

「それは技術が低かったのと湯脈への配慮が足りなかったからだろう?」


 早百合さんは、さらりと答えた。


「我が青桜党は違う。サイコメトリー能力者と念写能力者を使い、湯脈への影響を考慮した上で工事を進めるつもりだ。能力者の精度は、これまでの実績が証明している」


 撃沈した山本さんに代わり、今度は日本グローバル党の中田さんが訴える。


「ニートがそう簡単に働く訳がないでしょう。なら、仕事を求めている発展途上国の労働者を移民として受け入れる方が遥かに現実的です!」


「他国民に永住権をバラまくよりも、まずは自国民に目を向けるべきだろう。ニートの多くは心が傷付き対人恐怖症を患った者だ。だが、時代は変わった。在宅ワークの斡旋、カウンセリング、打てる手はいくらでもある。『どうせニートは働かない』と国が民を見捨てるなど言語道断」


 撃墜された中田さんの次は、日の丸党の高橋さんが声を荒らげる。


「それらの政策を行う財源はどうする気ですか!? 増税で国民から搾り取るとでも?」


 さっき、自分が美稲に言われたことのモロパクリだ。

 それに、増税はお前らがしようとしていることだろう。

 なんというダブルスタンダードだろう……心がげんなりしてくる。


「む? 経済活性化の為に企業への金銭的技術的支援をすると言った筈だが? それに今はどこも人手不足だ。200万人の労働力を送り込めば景気回復にもつながる。税率を上げなくとも税収は上がる。人の話を聞いていないのか経済に疎いのかどっちだ?」


 撃破された高橋さんが押し黙ると、最後に富士山党の鈴木さんが鼻息を荒くした。


「政治家は過剰な優遇なんて受けていない! これだから素人は困るんだ! 政治家の受け取る給与手当は全て必要経費だ! 選挙にどれだけのお金がかかると思っている? 供託金の他に選挙コンサルへのコンサル料やウグイス嬢、ボランティアへの食事代と交通費、選挙事務員への人件費。そしてポスター、ビラ、選挙カーなど、全て合わせれば2000万はかかるぞ!」


「それは選挙時の費用で当選後の経費ではないだろう? それに私も今、出馬しているのだからそれは知っている」


「ぬぐっ……」


 撃滅された鈴木さんを援護するように、他の三人も口々に言う。


「政治家の給料は2000万以上だが私腹を肥やしているわけではない。事務所の秘書や事務員アルバイトへ支払うお金で給料の半分は消えるんだ!」


「秘書は三人までなら国のお金で雇えるし半分の1000万は残るのだろう? 年収1000万以上は高すぎる。庶民の平均年収は400万だぞ?」


「ぐぐっ……」


「JRと飛行機がタダなのに郵便代交通費として毎月100万円貰うのはおかしいという動画を見ましたけど、タクシー代と郵便代はタダではないのですよ!」


「毎月100万円分もタクシーでどこに行くんだ? 何を郵送するんだ? そもそも政治活動資金として、給料とは別に政党交付金を貰っているだろう?」


「うぐぅ……」


「国会議員に経費の領収書提出義務がないのは仕事を円滑に進めるためだ!」


「それが秘書の仕事だろう。お前の秘書は経費と領収書の管理もせずに何をしているんだ」

「むぐっ……」


 まさに全滅、死屍累々だった。

 そして、追い詰められた人間のさがというか、とうとう禁忌に手を出した。


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今後の予定は

1月25日 第268話 完全KO!

1月31日 第269話 久しぶりの全裸系エロハプ 王道だよね

 です。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー21721人 946万2619PV ♥143085 ★8802

 達成です。重ねてありがとうございます。

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