第250話 うちの嫁たちが世界のパワーバランスを握り過ぎている

 朝食を済ませると、俺らは異能学園の校門近くにテレポートで移動した。


 11月の気温は東京と言えど流石に肌寒い。


 制服だけでしのげるのも、あと少しだろう。


 玄関で上靴に履き替えてから一年一組の教室に入ると、貴美美方と琴石糸恋が窓際で熱心に議論していた。


 選挙と言えば、今月は我が異能学園の生徒会長選挙だった。

 その結果、貴美美方は生徒会長に、琴石糸恋は副会長になったのだ。


「何を話し合っているんだ?」


 俺が声をかけたのは、美方の弟であり生徒会会計の貴美守方だ。

 今日もちょっと眠そうだけど優し気な眼差しのイケメンである。


「うちの生徒達の方向性について、ね」

「方向性?」

「うん。ほら、超能力者同士が戦うアビリティリーグのおかげで僕ら超能力者って人気者だろ?」

「そうだな?」


 戦闘系能力者はアビリティリーグの選手として、そして非戦闘系能力者の多くは経済政策で活躍した。


 今や、超能力者は一種のステイタスであり、超能力者というだけでSNSを数万人からフォローされる時代だ。


 一部のメディアでは、俺ら超能力者を、最高にクールな最先端の人類と持ち上げている。

 正直、それはやり過ぎだと思うし、やめてほしい。


「でも、そのせいで今後、おかしなトラブルに巻き込まれる生徒や、馬鹿な選民思想に駆られる生徒がでてくると思うんだ」


 守方の言う通り、海外ではそうした事件が起こっている。


 日本には無縁だけど、国によっては超能力者は超人で人類を支配すべき存在、なんて主張する過激な団体もあるらしい。


 だけど、スター扱いされた超能力者の中に、そうした人が現れないとも限らない。


 俺の考えを読んだように、守方は声をひそめてそっと耳打ちをしてきた。


「もしもそうなったら、過激派は確実に君らに接触するだろうね」


 その一言で、俺は心臓に氷が触れるような悪寒を感じた。

 物理戦闘力最強の桐葉。

 生産力最強の美稲。

 暗殺能力最強の詩冴。

 情報操作力最強の真理愛。

 生死を握る茉美。

 誰もが世界のパワーバランスを変えるほどの力を持った巨人たちだ。

 麻弥だって、彼女の探知能力を使えば国内の各種鉱脈や反乱分子などを一瞬でいぶりだせる。

 権力者からすれば、絶対に欲しい逸材だろう。


「それで今、僕ら超能力者をどうプロデュースしようかってなっているんだ。異能学園は今でも日本中から超能力者が転校してきていて、いずれは日本中の超能力者が集まるかもしれないからね」


 守方の視線の先を追うと、彼女たちもこちらに気づいた。


「あら、おはようですわ奥井育雄」

「おはよう、ハニーはん」

「おはよう。守方から聞いたけど、今んとこどうする予定なんだ?」


 美方は口元に指を添えて考えた。


「そうですわね。まず、良い意味で普通の存在にするために、スターではなく動画配信者ぐらいの感じにするつもりですわ」


「それでもおかしなファンは出てきはると思うけど、アイドルよかマシやろ。できれば高学歴の高所得者ぐらいの感じにしたいんやけどなぁ」


「イメージアップのために、ワタクシたちはある程度露出しませんと。アビリティリーグの選手はスポーツ選手みたいなものですし」


「あー、確かにそれでただの高所得者、は無理があるよなぁ。それで露出か」


 俺の感想に、美方は目を吊り上げて赤面した。


「い、言っておきますが露出というのはメディアに出演するという意味であって決して肌を出すというわけではありませんわよ!」

「いい加減にしろ!」


 今日も今日とて妄想力のたくましいお嬢様に、軽く頭痛を覚えてしまう。


「な、なぁ桐葉、それでハニーはんとはどうなんや?」

 糸恋は桐葉の肩を抱き、ためらいがちに耳打ちしていた。


「う~ん、ハニーの理性がてごわくてねぇ。最後の一線以外は全部しているけど18歳まではお預けかなぁ」

「最後の一線以外は全部!? てて、ていうことはあれか? もうハニーはんに全部見られとるんか?」


 桐葉の口元が、淫らに歪んだ。


「ボクの体で、ハニーにさらしていない場所はないよ」

「ッッッッ、さ、さらし、はぁぁぁぁぁぁ……」


 糸恋の顔はゆだち、いまにも蒸気を噴いてしまいそうだ。

 それでもなお、糸恋は立っていた。

 それどころか、視線を泳がせながらもじもじと追加の質問までした。


「あ、あの、な、その、ふたりはキスより進んどるいうことは、な、あれや、ほら、ベッドの中で、うん……」

「ボクのカラダでハニーに揉まれていない場所はないよ」


 セクシーな声音に、糸恋はキュッと体を固めてうつむいた。


「ウチは子供やんなぁ……」

「奥井育雄! 貴方はワタクシのパートナーに何をしてくれてますの!?」

「俺じゃなくて桐葉に言えよ!」

「嫁の罪は夫の罪ですわ!」

「どんな暴論だ! そして桐葉は喜ぶな!」

「だってボクのこと嫁って、美方っていい人だね」


 クールな笑みがいっそ清々しかった。


「シサエも嫁っす!」


 謎のバンザイポーズで、詩冴がドヤっていた。


「お前は黙れ!」

「陰ながら、私も嫁です」

「うん、真理愛は嫁だぞ」


「ぐっ! 嫁になっても扱いに差があるっす! 不公平っす! シサエのことも甘やかして欲しいっす!」

「真理愛はこっちから甘やかさないと甘えてくれないけど詩冴は何もしなくても甘えてくるだろ?」

「ふふふ、いいっすよハニーちゃん。なら今日からはもうシサエから甘えてあげないっす。ふふふふふ」


 ――半日もたないんだろうなぁ……。


 俺が残念な気分になっていると、守方がコロコロと笑った。


「ハニーくんはにぎやかでいいね。まっ、君らの平和は僕ら生徒会が全力で守らせてもらうから、安心してよ」

「何言ってんだ。お前もだろ?」

「ん? 僕?」


 守方は、まるで他人事のきょとん顔だ。


「お前や美方、琴石だってとんでもなく強いんだから、狙われるだろ。怪しい奴に声かけられたちゃんと言えよ」


 そう言って俺が守方のお腹に軽くパンチをした。

 すると、彼はほんの数ミリ口角を上げ、穏やかに息を抜いた。


「うん、そうだね。ありがとう、ハニーくん」


 唯一と言ってもいい男友達からのありがとうに、俺はなんだか満たされた気分になった。


「あ、あんなぁハニーはん、美方と守方のことは名前呼びなのにウチだけ琴石やなんて他人行儀やし、糸恋って呼んでもらえへんかなぁ?」

「お、おう」


 瞳をキュンキュンさせながら頼まれれば、そう答えるしかなかった。


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 10月2日にギフトを頂きました。毎月ギフトを送ってくれて感謝しています!

 読書の秋に本作を選んでいただき感謝しています。

 私は、執筆の秋、でしょうか。


 次回更新予定は10月9日月曜日です。


予定

第251話 龍崎早百合 選挙に出馬する?

第252話 キジムナーちゃんのことも思い出してあげよう

第253話 多数決が持つ3つのデメリット

第254話 選挙には確実に勝てるってどういうこと?

第255話 恋舞舞恋ちゃん大活躍!

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー20544人 833万0593PV ♥127661 ★8315

 達成です。重ねてありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る