第144話 生まれる時代を間違えた? むしろベスト
早百合次官が胸を張って太鼓判を押すと、舞恋と麻弥が「すごいなぁ」と感心していた。
「舞恋たちだって凄いだろ。日本の治安が守られているのは、舞恋たちのおかげなんだから」
おべっかではなく、正直な気持ちを口にした。
「舞恋たちが警察で働き始めてから、日本の犯罪件数と失踪者はずっと右肩下がり。経済破綻が原因で悪化した治安はすっかり回復して、今じゃ犯罪率世界最下位だ」
俺に追従するように、茉美も舌を回した。
「そりゃあどんな完全犯罪も舞恋にサイコメトリーされて麻弥に【犯人の居場所は?】なんて探知されたら一発だもの。犯罪なんてする気も起きないわよ」
俺と茉美の言葉に、舞恋はちょっと照れ笑うも、すぐに顔を上げて、俺の目を真っ直ぐに見つめ返してくれた。
「ありがと、ハニーくん」
笑顔の舞恋が可愛くて、うっかり惚れそうになったのは内緒だ。
そして何も言わず、俺のお腹に頭をこすりつけてくる麻弥が可愛すぎて貢ぎたい。
左右のツーサイドアップが揺れてますます可愛い。
沖縄で赤毛の子供から貰ったと言う古銭がチャリチャリと揺れているのが印象的だった。
「それにしても、こんなに凄い人たちに仕事がないなんて信じられないよね」
舞恋の疑問はもっともだ。
どう見たって、全員ラノベ主人公だ。
「それが現実とフィクションの違いなんだろうな」
俺を肯定するように、早百合次官は首肯した。
「うむ。多くの少年漫画やライトノベルはわかりやすい悪役を作り、物理的にそいつを倒せば万事解決するように調整されている。だが今は戦国時代ではない。警察に必要なのは地道な捜査能力。自衛隊に必要なのは統率された動きと連携力。個性的な能力者のスタンドプレーはお呼びではない」
「生まれる時代を間違えたって奴ですかね」
世が世なら、彼ら彼女らは神や天の使いとして一国を支配していたかもしれないと妄想した。
しかし、早百合次官は首を横に振った。
「いや、逆だろう。世が世なら悪魔として討伐されていただろう。漫画やアニメで超能力に抵抗感の薄い現代だからこそ、彼らはああしていられる。それは私も同じだ」
「え?」
俺が視線を向けると、早百合次官は微笑を洩らした。
「貴君らがいなければ、私は一生総務省の小役人で終わっていた。こんなにやりがいのある仕事とは無縁だったろう。だから感謝しているぞ。貴君らみんなにな」
ストレートに感謝されると、なんだか照れる。
誤魔化すように、俺は試合について口にした。
「おー、派手にぶっ飛んだな。治療班がいて良かったですよ」
「ほえ? そういえば茉美ちゃんて治療班じゃないんすか?」
詩冴が間抜けな声を漏らすと、茉美はひらひらと手を振った。
「あー、重症者が出るまでは普通に観戦してていいって。どうせ呼び出しあったら育雄のテレポートですぐ行けるし」
「茉美は医療班のエースだからな」
「え!? 茉美ちゃんてエースなんすか?」
「えぇ、治せるケガの範囲と再生速度は一番らしいわ」
誇る風でもなく、単調な声を返した。
もっと自慢してもよさそうなものなのに。
勝気な性格なのに、意外と謙虚だ。
「伊集院に襲撃されたとき、桐葉のケガを数秒で全快させたろ?」
「た、確かに……茉美ちゃんておっぱい以外も凄かったんすね」
「あんたはあたしをなんだと思っているのよ!?」
「うぎゅうううう、締めるなら首じゃなくってヘッドロックで胸の感触をぉ!」
詩冴のエロスぶりに呆れながら、俺はスケジュールを確認した。
「これで前半戦は終了。休憩を挟んで射撃系能力者たちの試合ですね」
場内にもアナウンスが入り、観客たちは帰り支度を始めた。
きっとVRで観戦している人たちは、今のうちにトイレに行ったり飲み物を取りに行っているのだろう。
「桐葉、俺らも一度テレポートで家に帰るか?」
首を回しても、そこに桐葉はいなかった。
俺の隣には、無口無表情無感動の真理愛が、クールに立っていた。
――そういや、今インタビューでいないんだっけ?
照れ隠しにほおをかきつつ、自分の依存度愛を再確認する。
「悪い真理愛。いつものクセで、別に真理愛を桐葉と間違えたわけじゃないぞ」
まるで、デート中に別の女子の名前を呼んだ浮気彼氏みたいな言い訳をする俺に、真理愛は気遣うように優しい言葉をくれた。
「いえ、お気になさらず。そういう意味ではないのはわかります。それにしても、桐葉さんと美稲さんは遅いですね」
まるで俺をフォローするように話題を変えてくれる。なんていい子だろう。
とはいえ、真理愛に尋ねられて、俺はそういえばと思い出した。
「えーっと、桐葉と美稲の試合は一時間40分後か」
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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