第90話 オリエンタル・ユニオンの要求

●あらすじ8 55話~69話

 桐葉と美稲の知略で2000兆円問題を解決し、真理愛の念写で日銀総裁を失脚させた育雄たち。残る問題は2000兆円問題のみ。

 しかしそこで、今度は舞恋が倒れてしまう。

 サイコメトリー能力で多くの事件を解決してきた舞恋だが、そのたびに被害者の気持ちを読み込んでいるため、精神に多大な負荷がかかっていた。

 育雄たちは彼女を気遣い、仕事をやめるようさとす。

 それでも舞恋は、みんなが頑張っているのに自分だけ休んでいられないと決断。

 仕事を続けることにする。

 やがて迎えた試験で育雄は見事上位クラスへ。ヒロインたちと同じクラスが決まり、一週間後の夏休みを楽しみに待つのだった。

 あらすじ終了。

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 他人をそそのかして殺人を誘発させた殺人教唆の罪で伊集院が警察に逮捕、の前に下水道の汚物を洗浄&健康診断のために病院へ搬送された後の午後三時。俺らは総務省に集まっていた。


 今は日本の危機なので、俺ら超能力者は、土日でも休まず短時間労働をしている。


 けれど、今日も仕事前にまた、早百合局長の部屋に呼ばれていた。


「伊集院のことは聞いた。まさか四天王の中から犯罪者が出るとは、私も痛恨の極みだが、貴君らも大変だったな。責任者として、謝罪させてくれ。すまなかった」


 席を立つと、早百合局長は目を閉じて、軽く頭を下げた。


「気にしないでください。早百合局長は何も悪くないじゃないですか」

「そうっすよ、むしろそのおかげでハニーちゃんは真理愛ちゃんを側室に迎えられたんすよ♪」

「何?」


 早百合局長の目が、無駄に凛々しく光った。


「詳細はあとでまとめてメッセージを送るっす、ふふふふふ」

「そうか、ついに、ふふふふふ」

「お前ら仲良すぎだろ……」

「ふっ、これでも私と枝幸詩冴は四捨五入すれば同じ20歳。つまりはタメだからな」

「こんな高校生がいたら犯罪ですよ……」


 桐葉すら超える、スイカ大の爆乳をチラ見してから、俺は苦々しい声を絞り出した。


「では世間話はこれぐらいにして、本題に移ろう」


 ――あ、ジョークじゃないんだ。世間話なんだ。


 同じ20歳、というくだりは否定して欲しかったな、と思いながら、俺は姿勢を正して傾聴した。


「先程、オリエントユニオン、通称OUから金塊による貿易とメタンハイドレート採掘をやめなければ、日本との貿易をとりやめると発表があった」


 早百合局長がMR画面を拡大して展開した。

 黒板の半分ぐらいのサイズのMR画面には、ネットニュースの見出しが表示されていた。



『OU 日本の金塊貿易とメタンハイドレート採掘を批判 貿易断交か?』



 画面をスクロールさせると、OUの大統領の会見動画が始まった。

 嘘だろと思いながら、注意深く字幕を読み進めた。

 だが、嘘でも勘違いでもなかった。

 連中の主張をまとめるとこうだ。



 この電子マネー全盛の時代に金塊で支払う貿易は時代錯誤も甚だしい。日本人の脳味噌は19世紀にまで退行した。


 日本の都市鉱山に眠る8000トンの黄金を市場に流せば、世界の金相場が下落し、経済を混乱させる。


 また、日本近海に眠る大量のメタンハイドレートの採掘は人類の共有財産である母なる海の生態系を著しく傷つけるモノであり、取り返しがつかない罪である。


 日本が自国ファーストで世界経済と地球を傷物にするのであれば、アジアの、ひいては世界の発展と平和を願う我らオリエンタルユニオンはいかなる制裁をも辞さない。


 今月中に日本の誠意ある解答が得られなければ、来月末にも日本との貿易を即時停止する。



「相変わらず無茶苦茶な国ですね……」

 俺が渋い顔をすると、桐葉も冷淡に追従した。


「世界で一番の独裁自国ファースト国家で利益の為なら環境破壊と人権弾圧し放題のくせに何を言っているんだか……」

「オマケで、海底にあらゆるレアメタルが数百年分ずつ眠る沖ノ鳥島と南鳥島の領有権を主張してきている」

「オマケで主張する規模じゃないですよね!?」


 俺が素っ頓狂な声をあげる一方で、早百合局長は、いたって冷静だった。


「うむ。実を言うと日本列島は地下資源が乏しいのだが、太平洋側の海にはほぼ全域にコバルトやマンガンなどレアメタルの鉱床が広がっているのだ。その量と種類は海底調査をすればするほど増える一方なのだ」


 そこへ桐葉も補足した。


「西側の第7鉱区って呼ばれている海域には、1000億バレルの石油と、世界最大の産油国サウジアラビアの10倍の天然ガスが眠っているしね。地下資源総額数百兆円だっけ?」

「私が【リビルディング】で都市鉱山を掘り尽くしても、それをハニー君がアポートしてくれたら日本は一生地下資源に困らないね」

「俺らの日本てチートじゃね?」

「いや、チートはハニーちゃんすよ」

 珍しく詩冴が締めた。


「それで早百合局長、日本政府はどうするんですか?」


 早百合局長は、胸の下で腕を組み、背筋を伸ばした。


「無論、OUの要求には屈しない! だが、そうするとOUとの貿易が止まってしまう。日本円の価値が暴落したことで元から輸入は止まっているが、このままでは輸出産業が打撃を受ける。OUは人口16億人の巨大市場だ。失うわけにはいかん」


 朗々とした説明のあとに、早百合局長はMR画面に日本の輸出品目を表示させた。


 OUへの主な輸出品目は、半導体を中心とした電子機器と、自動車が多くを占めていた。


「セオリーなら、OU以外の輸出先を開拓するか、国内需要を高めれば解決するのだが、貴君らはどう思う?」

「どう、と言われても……」


 俺、舞恋、茉美は互いの顔を見合わせながら、困ってしまった。


 俺らの能力で、どうこうできる問題ではないと思う。


 ちなみに麻弥は、桐葉の胸を枕に立ったまま寝ていた。寝るけど育たない子だ。


「一番いいのはOUが引き続き貿易をしてくれることなんだけどな」


 そこで、麻弥の頬をこねていた桐葉が、ふと声をあげた。


「そういえば美稲って二種類の原子は結合できなくても、単一の原子でできた物質なら生成できるんだよね?」

「え? うん」

「じゃあ炭素からダイヤモンド半導体のパーツって作れないかな?」


 謀略を巡らせるような怪しい口調に、美稲はハッとした。


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー10576人 251万4691PV ♥34552 ★5280

 達成です。重ねてありがとうございます。



 明日は24時更新です。

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