第88話 みんな大好き下水道シュート!

 ●あらすじ7 45話~54話

 育雄が試験対策で勉強していると、日銀総裁が国債を反日国家に売ると言い出した。育雄たちは一か月以内に2000兆円を稼がなくてはいけなくなる。

 試験と2000兆円問題を抱える育雄たちに、だがさらなる問題が。

 麻弥の元同級生たちがネット上で彼女の悪口を書き込み、麻弥が落ち込んでしまう。

 しかし、そこは桐葉が慰め解決。育雄たちは再び試験と2000兆円問題と向き合う。

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 桐葉たちの水着を買ってから、俺らはあてもなく、デパートの中をぞろぞろとブラついた。


 いくら土曜日とはいえ、店内は経済破綻した国とは思えない程に人が多い。

 これも、俺らが日本経済を立て直したおかげかと思うと、ちょっと誇らしい。


「これからどうする?」


 缶ジュース片手に質問を投げると、みんなも考えるように缶ジュースを傾けた。


「人の少ない場所は駄目なんすよね? カラオケはアウトっすね。いや、伊集院ちゃんの予知だと24時間は安全なんでしたっけ?」

「でも予知を聞いてから行動を変えたら外れるかもしれないだろ? だから映画みたいに周りが暗いのもアウトだな」

「ゲーセンもダメよねぇ」


 茉美が低く唸った。


「8人で遊べるゲームなんて無いし、絶対に散らばって遊ぶわよ?」

「周りに大勢の人がいる遊び場か、と」


 缶ジュースが空になり、俺はゴミ箱を探した。

 それだけで、俺の意図を察した真理愛が手を差し出してくれた。


「まとめて捨ててきます」

 彼女の左手は、すでに三本の空き缶を指と指の間にキープしていた。


「おう、悪いな」


 真理愛は俺の空き缶を右手で受け取ると、俺らから離れて、エスカレーター横のゴミ箱へと向かった。

 その背中を見送ってから、俺は桐葉たちに向き直った。


「とりあえずどこかの喫茶店で甘いモノでも食べるか? おい、真理愛は――」


 ふと視線を真理愛に戻すと、知らない女性が、鬼の形相で真理愛目掛けて全力疾走をしていた。


 その手には、ギラリと光る刃物が握られている。

 真理愛も狙われていたのか?

 でも暗殺じゃなくての拉致じゃないのか?

 計画変更?

 いや、あの女はどう見ても通り魔。OUとは無関係か?


 色々な考えが頭の中を飛び交いながら、俺はその全てを振り払って、真理愛を俺らの元にテレポートさせた。


 ――間に合え!


 けれど、テレポートが発動する直前、通り魔が悲鳴を上げて倒れた。


「ぎぃぁあああああああああああああああああ!?」


 包丁が真理愛に触れるすんでのところでテレポートは成功し、真理愛は俺の隣に現れた。


 その後も、通り魔女は真理愛の立っていた場所で激しく痙攣してから、やがて動かなくなった。


 彼女の体から、二本のコードが伸びている。

 それを視線で辿っていくと、息を乱した伊集院が立っていた。

 その手には、黄色い銃のようなものが握られている。

 確か、テーザー銃とかいう遠距離スタンガンだったかな?


「ふぅー、間一髪だったね。有馬さん、怪我はないかい?」


 大きく息を吐いてから、伊集院はテーザー銃の針を抜いて、こちらに歩み寄って来る。


「私にケガはありません。伊集院さんはどうしてここに?」

「有馬さんが襲われるって予知が起こったんだよ。あ、これは護身用に持ち歩いていたテーザー銃。僕の能力は戦闘向きじゃないから」


 コードを銃身の中に折りたたみながら、伊集院は手際よくボイスコマンドで警察に通報。


 あらためて、通り魔女の様子をうかがった。


 うつぶせに倒れが通り魔女は、わずかにけいれんしたまま泡を吹いて、起き上がる様子はない。


「見たところ一般人のようだ。OUからの刺客ではないと思うんだけど、彼女が有馬さんを狙った理由が知りたいな。恋舞さん、サイコメトリーをお願いできるかな?」

「う、うん」


 舞恋は恐る恐る歩み寄ると、彼女に触れた。

 すると、舞恋はくちごもり、言いにくそうに口を開いた。


「逆恨み、なのかな? 真理愛の念写で逮捕されて解散したバンドグループの熱狂的なファンみたい」


 伊集院は鋭い顔であごをなでてから、低く唸った。


「OUの刺客じゃないのは良かったけど、一般人からの逆恨みか。警察や検察、裁判官が犯罪者の身内から恨まれるなんて話はあるけど、僕らが同じ目にあうとは思っていなかったよ」


 伊集院が眉根を寄せていると、真理愛が彼に、一歩近づいた。


「今回は助けていただき感謝いたします。それに、ハニーさんも」

「気にするなよ、俺はテレポートを使っただけだ」

「そうだよ有馬さん。僕も、ただ予知が降りてきただけだしね」


 伊集院は愛想よく笑いながら、テーザー銃を再度ポーチの中に片づけた。


「とかなんとか言って、本当は四六時中真理愛のことを予知していたんじゃないのか? 真理愛に危機が迫ったらすぐ対応できるように」


 俺がかまをかけると、伊集院は照れ笑いを浮かべた。


「それは、はは、実は言うとね。ほら、僕らが狙われるなら有馬さんもOUに狙われるかもしれないと思ってね」


 やっぱりか。

 ちょっとキザだけど、伊集院は伊集院なりにちゃんと真理愛のことが好きなんだと思うと、ちょっと微笑ましかった。


 好きな人のことが心配で何度も予知を……?


 そこで、俺は違和感を覚えた。


 ――何度も予知をした?


 真理愛と伊集院のあいだに、和やかな空気が流れ、茉美や詩冴たちも、伊集院のことを見直したような態度を取る。


 けれど、桐葉と美稲だけは訝しむように、伊集院の顔を注視していた。


 それで、俺の疑念は確信に変わった。


 ――桐葉と美稲も疑っている。なら、これは思い過ごしなんかじゃない。

 勘違いなら謝ろう。


 いざとなれば伊集院に土下座も辞さない覚悟で、俺は意を決した。


「なぁ伊集院。確かお前、24時間以内のことならはっきりわかるんだよな?」

「そうだよ。だけどまだ僕らの拉致については何もわからないから、安心してくれ」


 ちょっと得意げに背を逸らす伊集院に、語気を強めた尋ねた。


「なら、なんで今の今まで真理愛が襲われるって気づかなかったんだ? 四六時中真理愛のことを予知していたんじゃないのか?」

「っ、わかるって言っても常に予言が頭の中に響くわけじゃないからね。四六時中とは言ったけど、本当は今日、予言したのはさっきが初めてなんだよ。それで慌てて駆け付けたんだ」


 声が僅かに硬くなるのを、俺は聞き逃さなかった。


「そっか、でもさ伊集院、そういうことならお前が来るよりもまず連絡すればいいんじゃないのか? なんなら移動しながらでもボイスコマンドで連絡できたよな?」


 伊集院がどこにいたのかはわからないが、予知をしてから走ってここにくるよりは、そのほうが確実だろう。


「あー! そういえばそれもそうだね。気が動転していて気づかなかったよ。まったく、何のために連絡先を聞いたんだって話だよね。ごめんよ有馬さん」


 誤魔化すように、オーバーアクションで謝罪する伊集院。桐葉は両手の指、毒針を形成し始めている。

 俺は、伊集院にトドメの言葉を浴びせた。


「そうだな。あと伊集院、ちょっと舞恋のサイコメトリー受けてくれないか?」

「ッ、急に何の話だい? そんな必要ないだろ? それで僕の有馬さんへの想いを掘り起こそうと言うならプライバシーの侵害だよ」


 動揺しながら伊集院が一歩下がると、何かを察した舞恋が素早く手を伸ばした。

 けれど、それを予知していたように、伊集院は体をひねって避けると、その場から逃走した。


「おっと、100メートル12秒のあたしから逃げられないわよ!」


 すでに茉美が先回りしていた。

 進行方向に立ちふさがる茉美は、アメフト選手顔負けの瞬発力で、伊集院にタックルをかました。


 が、伊集院はそれすらも予知していたのか、茉美の肩に手をついて、跳び箱のように彼女の頭上を跳んだ。


「なぁっ!?」


 前回り受け身で着地してから茉美が振り返ると、伊集院はすでに下りのエスカレーターに跳び乗るところだった。


 だから俺は……伊集院を桐葉の前にアポートさせた。


「え?」

「ハニーナイス!」


 桐葉の毒針が、コンマ一秒前まで伊集院の頭があった空間を切り裂いた。


「ッ!?」

「さっきのは嘘。僕の能力は、超がつくほど戦闘向きなんだよ!」


 低い体勢で桐葉の攻撃を避けた伊集院は、勝ち誇った笑みを残して駆け去った。

 俺は悟った。伊集院には、どんな近接攻撃も当たらないと。

 だから、茉美たちが追いかけようとするのを腕で制した。


「何よ育雄、見逃す気!?」

「いや、しばらくやってなかったから忘れていたけど、こっちのが確実だ」


 俺が指を鳴らすと、伊集院の姿が消えた。

 美稲の顔が青ざめた。


「……ハニー君、まさか」


 俺は、伊集院ばりにキメ顔を作って言った。


「必殺、下水道シュート」

「ハニー君が相手だといつも敵に同情するよ」


 聖母のような美稲の瞳に、うっすらと憐れみの涙が浮かんだ。


「それと、テーザー銃はアポート済みだ。舞恋頼む」

「うん」


 本人でなくても、犯行に使われた道具からは、犯行直前の映像や本人の意思を読み取れる。


 だから舞恋は、毎日あらゆる犯罪の証拠品や現場の遺留品から犯人逮捕の情報を得られている。


「わかったよ。伊集院くんはネットで逮捕された芸能人のファンの人を煽って、真理愛を襲うように仕向けていたみたい。それで、予知でいつ襲われるか事前に調べてから、近くに潜んでいたの」

「自作自演で真理愛を自分に惚れさせようってことか。でもよくそこまでわかったな?」

「それが……十五分前に全部独り言で言っていて……」

「いかにもナルシストっぽいな……」


 俺と舞恋は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー10500人 248万1925PV ♥34103 ★5245

 達成です。重ねてありがとうございます。


12月16日 合法ハーレム           20時過ぎ更新

12月17日 オリエンタル・ユニオンの要求   21時過ぎ更新

12月18日 ダイヤモンド半導体がチート過ぎる 24時更新

12月19日 R18じゃなくてRハニー      23時更新

12月20日 妻と子と愛人のいる幸せな家庭?  22時更新

です。


 更新時間が違うのは、読者様によって検索時間が違うので、多くの読者様に本作の存在を気づいてもらう為です。

 24時間全部一回ずつ更新したら毎日決まった時間に更新する予定です。

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