第76話 イケメン転校生VS真理愛

 ●あらすじ1 1話~9話

 100人に1人の割合で超能力者が生まれる2040年の日本。

 総理のしくじりで財政破綻した日本は経済再生のために超能力者を招集。

 そんな中、ボッチの奥井育雄が実はテレポーターであることが判明。

 育雄は超能力者たちをそれぞれの仕事場へ送り届ける任務を与えられた。

 結果、学園のマドンナ美稲、アルビノ美少女詩冴、警察班の舞恋、真理愛、麻弥など多くの美少女超能力者たちと仲良くなり、リア充街道まっしぐら!

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 一秒後、タイミングよく教室のドアが開いて、お団子頭の女性教師が顔を出した。


 そのうしろには、とあるイケメンが立っている。男子にしては髪が長く、まるで少女漫画に出てくるイケメンキャラみたいだ。


「みなさんおはようございます。早速ですが、今日は転入生を紹介します」


 教壇越しに女性教師がキビキビと話を進めると、生徒たちはにわかにざわついた。

 夏休み一週間前に転入生と聞けば、当然だろう。

 俺も、なんでこんな時期に?と不思議に思う。


 ――ていうかアイツ、まだ転入してなかったんだな。


 その問いに答えるように、女性教師は眼鏡の位置を直してから口を開いた。


「彼は家の都合で前の学校を辞めるのが遅くなってしまいました。中途半端な時期ではあるけど、総務省には顔を出していたから、知っている人もおおいかしら。じゃあ伊集院君、自己紹介をお願い」

「はい」


 美声を返事に、伊集院と呼ばれた男子は、これ以上ないキメ顔で、教室の奥へと視線を飛ばした。

「白王学園から来ました。伊集院秀介(いじゅういんしゅうすけ)です」


 その一言で、教室の空気が変わった。

 白王学園と言えば、日本屈指のエリート高校だ。

 在校生は、政界、財界の御曹司たちばかりと聞いている。

 顔やルックスだけでなく、家柄までイイらしい。


 ――マンガのキャラみたいな奴だな。


「今までも総務省では働いていましたが、父が学校まで変える必要はないだろうと引き留められてしまいました。ですが、僕の強い希望で本日、転校することになりました。一週間ですぐに夏休みですが、その夏休みを共に過ごせる人を探すつもりです」

 と、またキメ顔で言った。


 ――いちいち鼻につくやつだな。


 一部の女子が頬を染めている。わかりやすい。

 茉美は青ざめ目が死んでいる。わかりやすい。

 詩冴は桐葉の胸元を見ていた。わかりたくない。

 真理愛は膝に麻弥を乗せている。いつのまに?


「能力は予知能力。24時間以内に起こる事故や事件、自分や知り合いに迫る危険なんかがわかります。ただし、危機とは関係ないこと、24時間以降のことについては精度が極端に落ちます。だから、ギャンブルには応用できないので期待しないでくださいね」


 伊集院が調子よく、朗々と自己紹介をする間にも、クラスは色めき立つ。


 ――そりゃ、予知能力なんてチート能力じゃ仕方ないよな。


 未来のことがわかるなんて、それこそ反則だ。

 実際、伊集院はその力で大活躍している。

 伊集院は真理愛たちと同じ警察班だ。

 だから、俺は毎日テレポートで伊集院を警察署に送っている。


 ちなみに、伊集院の予知は改変可能で、現在の的中率はおよそ90パーセントらしい。

 理由はいわらゆるバタフライ効果だ。

 予言を聞いた人が行動を変えることで、必然的に未来も変わる。時間干渉の能力ではなく、現状の世界の在り方からもっとも起こる可能性の高い未来がわかる、演算系の能力らしい。


「じゃあ伊集院君、空いている席に――」


 着席を促す女性教師の言葉を遮るように、伊集院は歩き出した。


 その足は迷うことなく俺らを目指し、真理愛の目の前で止まった。


 長身の伊集院は右手を真理愛の机に着いて、前のめりに彼女を見下ろしながら、顔を寄せた。



「真理愛。君が好きだ。僕の恋人になってくれないかい?」

「お断りします」



 まさかの告白に教室が騒然とするコンマ一秒前に真理愛が即答。教室は静寂に包まれた。


 伊集院の自信あふれるイケメンフェイスに、ヒビが入る音が聞こえた気がする。

 実際、伊集院は左頬をわずかに引き攣らせて、甘いマスクが硬くなっている。


 一方で、真理愛は完全無欠の無口無表情無感動フェイスを貫いている。動いているのは、うたた寝る麻弥の頬をつまむ両手だけだ。


「て、照れているのかな? それとも、追いかけられる恋がお好みかな?」

「付き合う理由がありません。恋愛は好きな人とするものです。初対面の人に交際を申し込まれ快諾する人がいるのですか? むしろ、何の勝算があって告白したのですか? 後学のためにお聞かせ下さい」


 ――ま、真理愛さぁあああああん!?

 なんて恐ろしい子だろう。

 この、街を歩けばすれ違った女子全員が振り返り、微笑まれれば赤面しそうなイケメンの誘いをここまで無慈悲に切り捨てるなんて。お前は本当に現代女子なのか?


「は、ははは、初対面だなんて。そりゃあ言葉を交わしたことはないけど、同じ警察班として何度も顔を合わせているじゃないか? ほら、奥井君のテレポートで一緒に出勤しているし」


 伊集院が俺の顔を一瞥すると、真理愛は俺の顔をジッと見つめてから、伊集院の顔へ視線を戻し、それからまた俺に視線を投げたまま硬直した。


 ――お、覚えてないぃいいいいい!? この子、完全に伊集院のことを忘れるどころか眼中になかったぁああああああ!


 俺は、恐る恐る伊集院の表情を盗み見た。

 案の定、伊集院は、通行人に「あんただれ?」と言われた国民的スターみたいな顔で小刻みに震えていた。


 無理もない。

 伊集院ぐらいのイケメンなら、きっと自分は知らなくても女子のほうは自分を知っているぐらいが通常運転だったに違いない。


 なのに、毎日顔を合わせている女子から、認識すらされていなかったのだ。


 俺がどっちをどうやってフォローしようか考えていると、不意に真理愛が伊集院に向かってくちびるを開いた。


「今のはおちゃめなジョークです。本当はちゃんと覚えていますよ……て、言ったほうがカドが立たないっすよ」

「最後の一行は読んじゃダメっす!」


 伊集院が振り返ると、背後では詩冴がMR画面にカンペを表示していた。


 伊集院の顔は、いよいよ口角を痙攣させ、笑顔と言うには無理のある表情になっていた。


「いいのか伊集院。こんなにポンコツなんだぞ?」


 俺の真面目なアドバイスを、伊集院は長い前髪をかきあげて一蹴した。


「関係ないさ。彼女の美しさは、この僕の隣でこそ輝くのだから」

「見た目が良ければ誰でもいいのかよ。まさかお前、桐葉まで狙っていないだろうな?」

 

 けど、伊集院は俺の心配を鼻で笑った。


「悪いけど、下品な女は趣味じゃないんだ。彼女、胸に何を詰めているんだい?」


 ――は?


 桐葉に興味がないのはいいけれど、桐葉を馬鹿にされて、俺はイラっときた。


 そして真理愛は不安そうに尋ねてきた。


「ハニーさん、やはり私は貧相なのでしょうか?」

「いや、十分だから!」


 Dカップバストを麻弥の後頭部に押し付ける真理愛に、俺は鋭くツッコんだ。

 そんなやりとりに、伊集院はあからさまに機嫌を損ねながら語気を強めた。


「とにかくだ、そういうことなら真理愛、僕とお友達から始めないか?」

「友達は頼まれてなるものではありませんし口説き落とすのを前提になるものでもないと思います。それとも貴方は私が誰かと結婚しても友達でい続けられるのですか?」


 ――正論過ぎる!


「じゃあ真理愛、僕はどうやったら君に振り向いてもらえるんだい?」

「あ、真理愛と呼ぶのやめてもらってもいいですか?」


 ――辛辣!?


「はは、ちょっと馴れ馴れしかったかな、じゃあ有馬さん、せめて連絡がつくよう、君たちのグループに招待してくれないか?」

「承りました。では警察班の皆で共有のグループを作りましょう」

「それでも構わないよ。ところで早速だけど、次の土曜日、僕と一緒に街へ行かないかい? 二人きりが嫌なら他の人も一緒でいいよ」

「今週の土曜日は麻弥さんと舞恋さんの三人で映画を見る予定です」

「へーいいね。じゃあ僕も一緒に行っていいかい?」

「それは、女子会に男である自分を混ぜて欲しいという意味でしょうか?」(退き)


 ――真理愛が止まらない!


「じゃあ日曜日でも」

「見ず知らずの貴方と遊ぶよりも麻弥さんと遊びたいです。麻弥さん、今週の日曜日は麻弥さんの家で一緒にダラダラして過ごしませんか」

「んう? いいのですよ?」

「だ、そうです」


――もうやめたげて! 心が痛いから!


「ふふ、追いかける恋も悪くないね。燃えるよ」


 無理のある笑みを浮かべ、余裕を取り繕いながら、伊集院は教室のうしろ、空いている席へ腰を下ろした。


 俺は、心の中でツッコミ疲れて精神的にかなり消耗してしまった。

 茉美がげんなりとした視線を送ってくる。


「あんた真理愛にどういう教育してんのよ?」

「俺の教育じゃねぇし!」

「大丈夫だよハニー、真理愛はボクが真人間に教育しておくから」

「嘘つけ!」


 俺が空手チョップのポーズを取ると、桐葉はおでこをチュッと突き出してきた。


「ゃん、ハニーに叩かれちゃった♪」


 ――ぐぅかわいい……。


 こんなに可愛い桐葉を下品とかいう伊集院は悪に違いない。俺は、そう伊集院のことを評価づけた。


 伊集院が席に着いたのを確認してから、先生は気を取り直すように咳ばらいをした。


「それと今日の連絡事項ですが、テレビ局が取材に来ます」


 教室がざわつくと、先生はみんなを落ち着かせるように言葉を継いだ。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー10165人 229万2701PV ♥31173 ★5044

 達成です。重ねてありがとうございます。

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