第68話 試験結果
試験二日目。
7月24日の火曜日。
ついに、全ての試験が終わった。
一応、全ての問題を解きはした。
でも、尋常ではない問題の数に、答えが正しいかの再確認ができない問題がいくつかあった。
強い不安が頭にのしかかり、俺は重たいため息をついた。
他の生徒たちの口からも、次々ため息が漏れた。
俺と違って、安堵のため息が多い。
けれど、緊張の糸が緩むのは数秒だけ。
昔と違って、今の生徒たちは、定期テストが終わったからと言って、解放感を感じる暇はない。
何故なら、採点は機械が一瞬で自動採点してしまうため、結果はすぐ出るのだ。
教室に、担任の女性教師が入ってくると、すぐさま俺ら全員の前に、画面が開いた。
自分にしか見えない、不可視モードのMR画面に、テスト10科目の名前が表示された。
「この三か月、よく頑張りましたね。では早速ですが、テストの結果を発表します」
空中に展開された、MR画面の各科目の横に、次々得点と平均点が表示されていく。
現代文、古文、数学、化学、生物、物理は平均点以上を取れた。
でも俺が目指すのは特進コース。これぐらいは当然で、安心はできない。
続けて、地理、歴史、公民、英語も平均点を越えた。
「一年生は全員で306人。成績が102位以上で特進コース、204位以上で進学コース、205位以下は総合コースになります。では、順位を発表します」
緊張で、胸に手を当てなくても、心臓の鼓動が聞こえてくる。
俺が手に汗を握り、息を呑むと、画面に順位が表示された。
58位
まぶたが持ち上がって固まった。
見間違いではないかと思って、つい、何度も見直してしまう。
間違いない。
画面には58位、余裕で特進コースに入れていた。
よしっ、とばかりに、俺は右手でガッツポーズを取った。
気づけば、桐葉たちみんなの視線が俺に集まっていた。
そして、俺のガッツポーズから、俺の特進コース入りを察してくれたらしい。
みんな、笑顔で祝福してくれた。
そこへ、一部の生徒が声を上げた。
「はぁつ!? オレが110位!?」
「ぐっ、先生、このテストは不公平です。中学2年生レベルの授業なんてわかって当然じゃないですか。けど、問題数が多くてそもそも解く時間がありませんでした!」
「そうですよ。これじゃ知識はあっても問題文を読むのが遅い奴は不利です!」
三人の生徒が抗議をすると、女性教師はやや厳格な視線を向けた。
「君たちは、確か宿題の提出期限を何度も破っていましたね」
その指摘に一瞬怯むも、生徒たちは言い返した。
「だからなんなんですか? あんな量やってたら、放課後何もできないじゃないですか!」
「そうですよ。だいたい解けて当然のことをやってなんの意味があるんですか? あんな宿題無駄ですよ!」
「じゃあ先生は1桁の足し算問題100万問の宿題を出されたらやるんですか?」
女性教師は、眼鏡の位置を直して言った。
「そんなことを言っているから、頭の回転が遅いのです」
冷たい言葉に、三人の生徒は言葉を失った。
「成果が同じなら、より短時間で行った人のほうが優秀なのは当然です。この三か月、どうして小学生レベルの授業をやっていたのか。それは基礎力をつけるため、頭の回転を速くするため、勉強の習慣をつけるためです」
先生の言う通りだ。
それは、俺自身が強く実感している。
「高校数学に足し算の問題なんて出ませんが、数式を解くには四則演算は使います。だから、頭の回転を速くすることはすなわち、高校レベルの勉強につながります」
先生の視線はさらに鋭く、声には重みがました。
「なのに、君たちはそれを疎かにした。そのせいで頭の回転が鍛えられず、この程度の問題レベルと数に、時間が足りなくなるのです。事実、全学試では君たちよりもずっと順位が低いのに、今回の試験では特進コースに入った生徒は何人もいますよ」
寒烈な言葉の数々に、三人の生徒は何も言えず、席でうつむいた。
それから、先生は声と表情を優しく緩めた。
「では皆さん、二学期は新しいクラスに分かれ、中学三年レベルの勉強で準備体操をしつつ、それが終わり次第、それぞれのコースに合った高校レベルの勉強をします。三か月お疲れさまでした。来週からの夏休みは心と体をリフレッシュしつつ、二学期に備えてくださいね。宿題はきちんとありますから」
最後に浮かべた笑顔に、生徒たちは重たいため息をついた。
みんな、宿題地獄から解放されると、期待していたらしい。
俺も、桐葉のことを思うと、ちょっと残念だった。
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また、本作、スクール下克上・ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました、は現在第6回カクヨムWeb小説コンテストの、現代ファンタジー部門に参加中です。
みなさま、どうぞよろしくお願い致します。
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