第47話 綺麗なエロ
「じゃあボクのローヤルゼリーは?」
俺の隣に座る桐葉がきょとんと口を挟むと、早百合部長は不安げな顔をした。
「いけるのか?」
「頑張れば、1日2トン分はいけるよ。グラム1ドルで売れば1日20億円、年間7300億円稼げる。全然足りないけど、足しにしてよ」
「ありがとう、非常に助かる」
「シサエの鹿肉は輸出できないっすか?」
「国内消費分の肉を賄えなくなるし、鹿はアメリカにも多く生息している」
「うぅ、残念っす」
そこで、提案の流れは止まった。
誰もが口を閉ざし、頭を悩ませ、困っていた。
そんな中、静寂を破るようにして、意外な人物が立ち上がった。
「あたしら医療班が海外で高額治療とかってできないんですか? 健康に不安のある大富豪なんていくらでもいますよね?」
そう言ったのは、長い茶髪を頭の右側でサイドテールにまとめた、気の強そうな女子だった。
三又茉美(みつまたまつみ)。
毎日俺が送り迎えしている医療班の中でも、トップクラスのヒーリングの使い手だ。
彼女が触れれば、どんなケガでも、ものの数秒で完治してしまう。
「残念だが、ヒーラーそのものはアメリカにもいる。貴君らだけができる独占治療というものはないのだ」
現状、ヒーリングとは傷ついた細胞を癒す能力でしかない。そのため、ガンや腫瘍、ウィルス性の病気は治せないし、ケガの後遺症は治せない。
億単位の金と引き換えに治療を受ける人はいないだろう。
けれど、茉美の目元が、挑戦的に吊り上がった。
「……なら、あたしがもっと鍛えて、なくなった手足を生やしたり、不随になった機能を取り戻したり、ケガで崩れた顔を治せるようになったら?」
「それなら可能性はあるな。現状、米国のヒーラーたちも、ただ傷口を塞ぐだけだ」
「ぃよしっ! なら今日からガンガン行くわよ!」
気風よくガッツポーズを取りながら、茉美は講堂の階段から降りてきた。
「育雄、さっさとあたしを病院にテレポートさせなさい。ゴリっと経験値稼いでレベルアップして帰って来るわ!」
「なんでお前が言うと物騒に聞こえるかな」
俺は眉根を寄せながら、呆れた。
「じゃあテレポートさせるから、他の医療班の能力者も前に来てくれ」
実際、もう出勤時間を少し過ぎている。
俺の呼びかけに、階段席上部に腰を下ろしていた医療班、ヒーリングの使い手たちが立ち上がった。
「ていうか、育雄のアポートが人体に使えれば良かったんだけどね」
「ん? どういう意味だ?」
茉美はノリよく笑った。
「何ってそのままよ。あんたのアポートで体内のウィルスとか汚染物質とかがん細胞だけを体外にワープさせられれば楽じゃん? 大富豪の大半は高齢者だしがん患者って高齢者が多いんでしょ? 続けてあたしがヒーリングすれば切断面の心配もないし。汚染物質の中毒治療も、国とか企業が大金出してくれそうじゃない?」
「あのなぁ……それができたら……俺はいつでも他人の心臓を抜き取れることになるんだが?」
さらりと恐ろしいことを口走る茉美に、俺はへの字口を作った。
美稲も、ため息をついた。
「ハニー君のチートぶりにもターボがかかっちゃうね」
「でも特訓する価値はあるんじゃない? だって本当にできたらハニーの力で世界中のがん患者が救えるし、テレポートなら取り残しがないから転移や再発の心配もないでしょ?」
茉美の尻馬に乗る桐葉を、俺は全力で否定した。
「いやいやいや、ていうかそんなことできていいのか? 俺がそんなことできたら、今後、俺がお前と痴話喧嘩して一時の感情で『桐葉なんて死んじまえ』って感じで心臓取るかもしれないんだぞ?」
「いやいや、ハニーはそんなことしないでしょ。だってボクが死んだらもうボクのおっぱい揉めないんだから」
「おい待て、あたかも揉んだことがあるかのような口ぶりはやめろ!」
「えぇえええええええええ!? ハニーちゃんまだ揉んでないんすか!?」
詩冴が素っ頓狂な声を上げた。
「馬鹿な……奥井ハニー育雄……貴君は正気か……やはり激務で男性機能に支障が……」
「なんで俺が悪いみたいになってんだよ!? ていうか桐葉、お前はおっぱい目当てでいいのか!?」
「いいよ」
即答に、講堂が静寂に包まれた。
男女問わず、ぽかんと口を開けて固まっている。
「だっておっぱいもボクの一部だもん。顔も体も性格も超能力も、全部の要素が合わさってボクなんだから。ボクのおっぱいが好きなら、それはボクが好きってことでしょ? 女子の眼鏡の似合う男子が好きとかと同じだよ」
顔のすぐ横でピースサインをしながら、桐葉は可愛く笑った。
その綺麗なエロさに、俺は何も言えなくなった。
もちろん、桐葉も本当に体目当てでいいなんて思っていないだろう。あくまでも、俺が桐葉のことが好きなのを前提にした話だ。
それでも、女の子のほうからこんなことを言われたら、勝てるわけがない。
きっと、俺は生涯、桐葉と喧嘩なんてしないだろう。
そう予感している間、講堂中の男子は物欲しそうな顔で俺に注目してきた。
――やめろ。そんな目をしたって桐葉はあげないからな。
「わかった。でもその前に、俺のテレポートで可能か調べないと、徒労に終わる。舞恋、俺のことをサイコメトリーしてくれ。何かの一部だけを切断するようにテレポートさせられるのか知りたい」
近くに座っている舞恋に手を差し出すと、講堂内にどよめきが走った。
やっぱり、自らサイコメトリーされるのは珍しいらしい。
俺だって、他人にサイコメトリーされるなんてまっぴらだ。
けど、舞恋がいい奴なのは知っている。
だからこそ、俺は毎日彼女にサイコメトリーしてもらい、テレポートを悪用していない証明をしている。
俺が凄いのではなく、サイコメトリーされても良いと相手に思わせる、舞恋が凄いのだ。
「じゃ、じゃあ、おじゃましまぁす」
何故か、舞恋はサイコメトリーのたびにこのセリフを言う。
心にお邪魔します的な意味だろうか?
「……うん、物体の一部だけをテレポートするのは、できるみたいだよ」
俺の手を、ぎゅっと握りながら、舞恋は頷いた。
「ありがとな。じゃあ早百合部長、今日からちょっと特訓するんで、部分的なテレポートができるようになったら報告しますね」
「うむ、期待しているぞ」
早百合部長は、腕を組んで、満足げに笑った。
「ところで舞恋」
「どうしたの、ハニーくん」
舞恋は、きょとんとまばたきをした。
「手、そろそろ離してもらってもいいか?」
「ふゃっ!?」
ぽんと顔を赤くして、慌てて手を離す。
そして、何故か桐葉に向かって頭を下げた。
「ごめん桐葉。ハニーくんは桐葉の彼氏なのに」
「あはは、気にしなくていいよ。ボクはハニーを束縛する気ないし。それに、舞恋はボクの友達だろ? 友達と彼氏の仲は良くないと、ボクだって困るよ」
桐葉が優しく微笑むと、舞恋は安堵して、真理愛曰くGカップの大きな胸を撫でおろした。
邪心が芽生えてしまい、今、サイコメトリーしたらまずいなと思った。
「あんた、いま悪いこと考えたでしょ?」
耳元で囁く茉美の言葉に、戦慄が走った。
「お前はサイコメトラーか!?」
「いや、あんたが舞恋のおっぱい見ていれば誰でも思うわよ」
茉美の冷静な指摘に、俺は脱帽した。
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本作を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
フォロワ7896人 91万1000PV ♥15100 ★3156
達成です。重ねてありがとうございます。
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キャラクターと能力のまとめをして欲しいという要望があったので、まずは簡単なまとめです。
奥井育雄(おくいいくお) :テレポート
内峰美稲(ないみねみいな):リビルディング(物質の分解と再構築)
恋舞舞恋(こいまいまいこ):サイコメトリー
枝幸詩冴(えさししさえ) :オペレーティング(人以外の動物を操る)
針霧桐葉(はりきりきりは):ホーネット(蜂の能力を蜂以上に使える)
有馬真理愛(ありままりあ):念写
山見麻弥(やまみまや) :探知(指定したものの場所がわかる)
三又茉美(みつまたまつみ):ヒーリング
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