第43話 転校、新たな学園



「こ、ここが俺らの通う学園ですか……」

「うむ、良いところだろう?」


 5月11日金曜日の朝。


 俺らは、龍崎早百合(りゅうさきさゆり)部長の案内で、都内のとある高校の前にいた。


 彼女は俺ら超能力者をまとめる、日本政府総務省異能部の部長だ。


 今日は俺ら超能力者のために新設された学園の入学式で、わざわざ案内を買って出てくれた。


 けれど、その高校の建物があまりに立派過ぎて、俺はやや圧倒されていた。


 学校というよりも、まるでコンベンションセンターだ。


 次々生徒たちが玄関へ向かう中、俺は校舎を大きく見上げながら、ぽかんと口を開けた。


「こんなトンデモない施設、どうやって用意したんですか?」

「廃校になった場所を安く買い上げたのだ。貴君らは運がいいなぁ!」


 早百合部長は長い黒髪をかきあげると、自慢げに胸を張った。桐葉すら超える爆乳が、タイトな黒スーツ越しに揺れて、俺は視線を逸らした。


「廃校って、生徒いなくなったの?」


 そう問いかけたのは、俺の彼女で同居人、針霧桐葉(はりきりきりは)だ。


 蜂の能力を再現できる超能力【ホーネット】の使い手で、その影響か日本人なのに亜麻色の髪とハチミツ色の瞳を持つ、絶世の美少女だ。


 上司の早百合部長にもタメ口を利くフランクな性格で、俺を性的にからかうのが趣味という困った奴だ。


「ライバル校に入学希望者を奪われ、昨年度末に吸収合併され、建物だけが残った。かつては日本中のエリートが通う超進学校だったのだがな。エリート階層が子供を学校へ通わせるのは学歴以上に人脈を作るためだ。ライバル校と生徒数に差ができれば、あとは坂を転げ落ちるように衰退したよ」


「盛者必衰って奴ですね」


 きちんと敬語を使っている上品な子は、内峰美稲。物質を分解再構築するリビルディングの使い手で、前の高校から一緒にいる友達であり学園のアイドルだ。


 今日も綺麗にヘアセットされた黒髪のハーフアップが美しく、街中を歩けばスカウトマンに声をかけられても違和感がない。


 ちなみに、三人そろって胸の発育が極めて良好なので、一緒に居るとどこぞの馬鹿がおかしな誤解をしそうだ。


「こんなにおっきな校舎で、生徒ちゃんは何人くらい集まるんすか?」


 アルビノで、ツインテールにまとめた純白の髪を指でもてあそびながら尋ねるのは、枝幸詩冴(えさししさえ)。


 動物を操るオペレーション能力者で、総務省では俺の相方的ポジションだ。


 彼女もかなりの美少女で、自他ともに認める巨乳ではあるものの、桐葉たちが恵体すぎて普通に見えてくる。


 24時間構ってちゃんで、おはようからおやすみまでメッセージが止まらないが、一緒に遊んでいると楽しいのであまり気にならない。


「一学年辺り300人強、三学年合わせて約1000人になる。だが、貴君らは同じクラスにしておいた」

「サユリちゃんグッジョブっす♪」


 そして、桐葉を越えるフランクガールでもある。


 ――にしても天下の官僚様をちゃん付けって……。


 詩冴は絶対OLにはなれない。そう思った俺だった。


「では、まずは講堂で入学式だ。ついて来るがよい」

「講堂がある時点で普通の高校じゃないですね」


 俺は辟易としたため息をついた。普通、そこは体育館だろうと。


 軽く、一か月分の走馬灯を見ながら、今でもこれは夢ではないのかと思う。


 俺は、つい先月まではボッチ野郎だった。


 なのに、テレポーターであることがわかってから、財政破綻した日本を救うプロジェクトの一員となり、総務省で働くことになり、タワマンで桐葉という恋人と同棲して、地下資源をテレポートで採掘することで月収6億円の身分になった。


 そして先週、幼い頃から俺をいじめてきた坂東と対決して勝利を納め、袂を分かつことに成功した。


 そして今度は、超能力者だけが通う学園へ入学。


 まるで誰かが脚本を書いているような、出来過ぎたシナリオだと思う。そう言えば、主人公の人生が全てラスボスに操作されていたってオチの漫画があったな、と思う。


 ただし、残念と言うか幸いと言うか、この世界には超能力はあっても悪の組織、なんてものはない。


 超能力は、超軟体体質とか、完全記憶能力とかと同じ、特異体質の一種として、日常に浸透している。


 特別感を見出すのは、中二病めいた、坂東のような馬鹿だけだ。


「何しているのハニー? ほら、早く行こ」


 考え事をしていた俺が顔を上げると、桐葉が無邪気に笑いながら、手を差し出してきた。


 言葉がけだけでいいのに、相変わらず、スキンシップが好きな子だ。


 おかげで、ドキドキさせられっぱなしだ。


「おう」


 何にせよ、上辺しか見ないクラスメイトたちと別れ、彼女たちと学園生活を送れるのだから、こんなに幸せなことはない。


 桐葉の手を取り、俺は校門をくぐった。


   ◆


 講堂で入学式を終えた俺らは、1年1組の教室へ集まった。


 窓際の俺の席を中心に、桐葉、美稲、詩冴、舞恋、麻弥、真理愛の六人が集まる。


「しっかし二か月連続で入学式をするとはな」


 俺の感想に、栗毛のワンサイドアップが可愛い、恋舞舞恋(こいまいまいこ)が苦笑いを浮かべた。


「あはは……まぁみんな、先月に元の高校でも入学式しているからね……」

「そういやみんなはこんな簡単に転校してよかったのか? 俺は単純に地元の高校受けただけだし、愛着ないけど」

「私は形だけの友達に誘われて入学しただけだから」

「前の高校にシサエの友達はゼロっす」

「サイコメトラーだからっていじめられていたしちょうどよかったよ」

「私は指示された通りに動くだけです」

「そもそもボクはハニーの監視任務で元から転校済みだし、前の前の学校ではハチの能力で避けられていたし」

「え? なんなの? 能力者ってみんな闇深いの? 俺も能力者だからボッチだったの?」


 美稲、詩冴、舞恋、真理愛、桐葉のバックボーンに、俺は肩が重くなった。


「て、そういう麻弥は?」


 合法ロリのちっちゃ可愛いみんなのマスコット、むしろゆるキャラでサンリオのキャラに混じっていても違和感が無い山見麻弥のツーサイドアップ頭を探した。


 すると、愛らしいペタンコぼでぃは桐葉と美稲の豊乳を下から頭突き、両腕で担ぐようにしていた。


「ここはもちもち天国なのです。前の学校はスカスカ地獄だったのです」

「ぃやん、ちょっと麻弥さんッ」

「あはは、麻弥ってばほんとにおっきなおっぱい大好きだよね。ハニーのいい対抗馬だよ」

「だから俺の私生活が疑われるようなこと言うなよ!」

「そうっすよ。ハニーちゃんがキリハちゃんのバインバインに溺れないよう、シサエがおはようからおやすみまでお邪魔メッセージを送りつけているんすから!」

「そういう目的で送っていたのか!?」

「ぐふふ、これもハニーちゃんのためっすよ。別にシサエが構って欲しいとかじゃないっすよ♪」

「てめっ、本当はそっちが目的だろ!?」

「怒っちゃだめっす~、怒っちゃいやっす~♪」

「つうか水着の画像送るのやめろ! 昨日も桐葉に見られて勘違いされたんだからな!」


 詩冴の顔が邪悪に歪んだ。


「おやおや破局の危機っすかぁ?」

「ボクのほうがセクシーだもんとか言って下着姿で迫られたんだよ、壁際に!」

「ちっ、逆効果でやんしたか」

「お前いい加減、下水道にテレポートさせるぞ」


 俺のテレポートは、任意のモノを任意の場所にワープさせられる。


 宇宙空間に放り出さないだけ、マシだと思って欲しい。


「へへん、テレポートを悪用したらマイコちゃんのサイコメトリーを証拠に一発でムショ行きっすよん♪」

「きゃっ」


 舞恋の背後に回り込んで抱きしめながら、詩冴は声を弾ませた。


 舞恋は恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 桐葉はこういう顔を時々しか見せてくれないので、女子の赤面にはレアリティを感じた。


「つまり、ハニーちゃんは詩冴に手を出すことは……ん? マイコちゃん、初めて会った時よりもおっぱいおっきくなってませんか?」

「ふゃっ!? な、なってないもん!」

「マリアちゃん、マイコちゃんのブラのサイズを念写するっす!」

「承りました」

「承るな!」


 俺が寸止め空手チョップを真理愛の脳天に叩き込むと、彼女はクールにまばたきをした。


「ですが望まれましたので」

「望まれたからって何でもやるな! お前の命令権にアカウントねーのかよ!?」

「他人に望まれれば可能な限り聞いてあげるのが私のモットーですので」

「人間国宝並の素直さか!」


 もはや奇跡に近い純真さである。麻弥とは、また別ベクトルの無垢さだ。


 いま世界に足りないのはこういう子だろう。


 でも、その純真さが人を傷つける。


 真理愛は無表情無感動のクールフェイスで俺を見つめ、眉ひとつ動かさないまま、瞳の奥から疑問のオーラを出してくる。


 麻弥はお人形さんのように可愛いけど、真理愛はお人形さんのように整った顔と髪が特徴で、宝石のような瞳で見つめられると、怒る気力がなくなってしまう。


 なんというか、何を言っても通じない、そんな気になってくる。


「とにかく、他人の個人情報を他人に教えちゃダメだぞ」

「わかりました、それと」


 真理愛は、ノーモーションでふっと距離を詰めてくると、俺の耳元で囁いた。


「舞恋さんはGカップです」

「だから教えるなよ! 俺の望みは聞かないのかよ!?」

「えっ、いまハニーくん、わたしのほう見たよね? いまわたしの何を聞いたの?」

「な、なんでもないぞ舞恋」

「目を逸らさないで教えて、ねぇ、何を聞いたのねぇ?」


 舞恋に追求されて、俺が困っていると、担任らしき女性が入室してきた。


「さぁ先生が来たぞ、みんな席に座ろうか」

「むぅ、あとで絶対に聞かせてよねっ」


 内気な性格の舞恋にはめずらしく、ちょっとすねた顔で、なかなか食い下がってきた。


 いや、もしかすると、初対面の緊張がなくなって、気兼ねがなくなってきただけかもしれない。


 だとしたら、結構嬉しい。


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 本作を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー7484人 79万7000PV ♥13100 ★2922

 達成です。

 重ねてありがとうございました。

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