第34話 スクール下克上
「みんな、お金目当てで群がるのはみっともないよ。育雄君困っているじゃない」
学園のアイドルにしてスクールカーストトップの登場に、ケダモノたちはやや怯んだ。
「な、内峰さん……」
「別にいいじゃない。だって6億円だよ6億円。私ら全員に1000万円ずつ配っても3億円以上残るんだよ」
「そうそう。あたしならチョコレート6億枚持っていたらむしろ友達みんなに好きなだけ持って帰っていいよって言うよ」
「独り占めなんてずるいわよ」
――どういう例えだよ……頭だいじょうぶか?
「それ、貰う側が言うことじゃないよね? それに育雄君が育雄君の力で稼いだお金なのにどこがずるいの?」
「「「うっ」」」
女子ABCは撃沈した。
「ノブレスオブリージュって言うだろ。金持ちは庶民に施す義務があるんだよ!」
「それを体現したのが累進課税でしょ? 億単位で稼いでいる人はみんな、所得の半分以上を税金で持って行かれているんだよ。自分の才覚で稼いだお金なのに」
「へ?」
「他にも土地や建物を持っているだけで毎年かかる固定資産税、高額な遺産相続にかかる相続税、高額なプレゼントにかかる贈与税とかね」
「税金なら俺らだって払っているぜ」
男子の一人が、偉そうに胸を張った。
「みんなが払っているのはせいぜい消費税で月1000円かそこらでしょ? それじゃ国は運営できないよ。金持ちなんだから奢れっていうけど、みんなは現在進行形で高所得者に養われているんだよ。フリーライダー問題って知っている?」
「フリーライダー、なんだそれ?」
「払っている税金以上の公共サービスを受けている人のことだよ。日本て住みやすいよね。蛇口をひねるだけで清潔な水が飲めて、消防官や警察官がみんなのために24時間365日待機してくれて、困ったことがあったらいつでも電話一本で駆けつけてくれて、もしも外国が攻めてきたり災害に巻き込まれても自衛隊が守ってくれて、中学校まではタダで教育を受けさせてくれて。これだけ至れり尽くせりのサービスが、月1000円で賄えると思う?」
「ぐっ」
男子Aは撃沈した。
「アタシは警察も消防も呼んだことないわよ!」
「それは利用しなかっただけ。いつでも利用できる環境を整えて貰っていることが大事なんじゃない。それはスポーツジムに入会しておきながら今月は行っていないから月謝払わないっていうのと同じだよ」
「あぐっ」
女子Dは撃沈した。
「人聞きの悪い女だな。友達に奢るのなんて普通だろ?」
「育雄君、この人たちって友達なの?」
「いいや。連絡先知っている奴なんて一人もいないぞ」
「お前ふざけんなよ。同じクラスの仲間だろ!」
「クラスは学校側が振り分けたグループだよね? 友達って学校から与えられるものなのかな? 君みたいに都合のいい時だけ友達顔するのってよくないと思うよ」
「のぐっ」
男子Bは撃沈した。
「はんっ。とかなんとか言って、本当は自分がタカりたいだけじゃないのか?」
「言えてる。さっきから妙に奥井の肩持つし、オレらを踏み台にして自分が奥井とお近づきになりたいだけだろ? 内峰って意外に卑怯なんだな」
「それはないよ。だって私の特別超能力手当20億円だもん」
全男子女子が撃沈した。
みんな、目を剥いて、息を止めている。
「でも私もみんなに奢る余裕はないよ。私が平均寿命まで生きるのにかかる費用2億円を除いた18億円は、政府の難病研究機関に寄付したから。たった今ね」
美稲は、MR画面をみんなに見えるよう可視モードにして、ひっくり返した。
そこには、
【寄付をありがとうございます 政府機関一同 1・800・000・000円】
と、メッセージ付きの電子感謝状が表示されていた。
それでまた、みんなは息どころか心臓まで止めそうな顔で、愕然としてた。
俺も、これには脱帽した。
いくらあぶく銭でも、18億円という大金を、ポンとその場で寄付してしまう気風の良さは、尊敬を通り越して崇拝してしまいそうだった。
「それと、育雄君は桐葉さんとラブラブで18歳の誕生日に結婚する勢いなの。狙っても無駄だよ」
みんなを嗜めるように、美稲が語気を強めた。
女子たちは、美稲を挟んで俺のそばに立つ桐葉の亜麻色の髪、ハチミツの色の瞳、桜色のくちびる、そして、メロン大のバストに目配せをして、戦意を喪失した。
クラスメイト達は、それぞれ違った、けれど腹に一物抱えた表情で、散っていった。
「ありがとうな、美稲」
「ボクも、ハニーを助けてくれてありがと」
「大したことじゃないよ。ただの正論ですから。じゃあ、またお昼に」
「おう」
「うん」
謙遜しながら、美稲はクールに背を向け立ち去った。
――でも驚いたな。まさか美稲が、あんなことを言うなんて。
さっきの一件で、少なからず、みんなのヘイトを稼いでしまっただろう。
その場を丸く収めるのではなく、相手をやりこめるようなことを、しかも、自ら首を突っ込んで。
――いや、まだ知り合って一か月も経っていないし、元から隣のクラスで、前からそんなに知っているわけじゃないしな。
元から、彼女はああいう性格だったのかもしれない。
そう納得して、俺は桐葉と一緒に自分の席へ足を運んだ。
自然と、すぐ後ろの席に座る坂東が視界に入る。
坂東は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、デバイスの仮想画面をわざわざみんなに見えるMR画面にして、自分の顔を隠した。
こいつの存在が、やたらと小さく思えて、何も感じなかった。
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