第33話 ワクワクの初任給
翌日。5月2日の水曜日。
俺と桐葉、美稲が登校すると、教室は騒然となった。
「おい奥井、今朝のテレビ見たぞ!」
「なんで今まで隠していたのよ水臭い」
「守秘義務ってやつか? でもオレらにぐらい教えてくれてもいいだろ?」
「そうだぜ。同じクラスの仲間じゃないか!」
男女問わず、みんな、目を輝かせながら迫り、扇状に俺を取り囲んだ。
「ちょっと冷静になれお前ら、今朝のニュースってなんの話だ?」
今朝は寝坊したので、俺はニュースを見ずに登校してきた。
ちなみに桐葉は、俺の寝顔を撮影すると言う理由で起こしてくれなかった。
「何って、これだよ」
男子生徒がMR画面でニュースサイトを開くと、一本の動画が再生された。
内容は、昨日、俺が受けたインタビューだった。
画面の右上や下には、【年間8兆円を稼ぐ高校生】【燃料問題を一人で解決する、スーパー超能力者に電撃インタビュー】と表示されている。
それで俺は、うへぇ、となった。
はっきり言って、俺にはスター願望も自覚も無い。
マスコミにバッシングを受ける芸能人のニュースを目や耳にするたび、有名税重すぎんだろ、と思ってきた。
それに、俺はただ能力を発動させているだけで、なんの苦労も払っていない。例えるなら、1キロのダンベルを持ち上げたら騒がれている感覚だ。
もちろん、自分の能力で燃料問題を解決したのは知っている。美稲や詩冴、桐葉と同列になれた達成感もある。
けど、周りから讃えられるのは、気が引ける。
なのに、みんなは好奇心と憧れに両目を輝かせ、愛想笑いを浮かべながら、俺とコミュニケーションを取ろうと躍起だった。
「おいお前ら、何騒いで、奥井!?」
「あ、坂東、退院したのか?」
振り返ると、また下水道に落ちて感染症を引き起こして、高熱と下痢と嘔吐が止まらず入院していた坂東だった。
三度目ということもあり、桐葉は早くも目つきを細め、敵意を向けた。
坂東も、眉間にしわを寄せて睨んでくるも、長続きはしなかった。
「けっ」
胸糞悪そうに吐き捨てて、俺らに背を向けると、坂東は反対側のドアから教室に入った。
その背中は丸く、席に着くと、ネットサーフィンを始めた。その顔は不機嫌の塊で、空中に展開したMR画面を睨むように目を細めている。
すると、俺を包囲する連中の一人が尋ねてきた。
「なぁ奥井ぃ、ぶっちゃけた話給料っていくらもらっているんだよぉ」
「は? なんでそんなこと教えなくちゃいけないんだよ?」
「いいだろ別に。教えてくれないとここ通さないぞ」
なんて鬱陶しい連中だと思いながら、俺は息をついた。
「基本給が20万。基本超能力手当が10万。あとは個々人の仕事内容で特別超能力手当てが付くけど、四月分はまだ計算中だからわからない」
合計月30万。
高校生の収入にしては、多すぎる。なんだか申し訳ない。
「歩合制みたいなものだからね。最初だから、総務省も適性額に悩んでいるんだよ」
と、桐葉は俺の顔を見ながら言った。
美稲たちのことは仲間と認識しているも、どうやらクラスメイトたちと言葉を交わす気はないらしい。
――まだ、ちょっとコミュ力が足りないな。
その一方で、桐葉にはこいつらと口を利いて欲しくない、という思いもある。
特に男子。
これが独占欲だろうか。
そこへ、視界の右下に、AR映像で封筒マークが浮かんだ。
――メッセージ? 早百合部長からか?
開いてみると、早百合部長の凛とした美声が流れた。
『奥井育雄、貴君の特別超能力手当が決まったぞ』
――へぇ、いくらだろ? 10万? 20万?
『政治家共もシブチンでな。メタンハイドレートは政府の財産で、貴君はただ運んだだけだから、掘削料と輸送費としての手当てになった』
――なら、5万円くらいかな? まぁ、30万円でも十分だからいいけど。俺は能力を行使しているだけだし。
『6億円になった』
「あーそうですか6億、6億ぅっ!!!!?????」
俺は、脊髄反射で叫んでしまった。
――なんだその報酬額!? ケタがインフレしているぞ! バトル漫画なら初期ボスってなんだったんだろうってファンがイジり始めるぞ!
「ハニーもメッセージ読んだんだ。ボクはローヤルゼリー作り始めたの最近だから今回は1000万円だけど、次回からは3億円くれるって。ちぇっ、ハニーをボクのヒモにしようと思ったのに、追い抜かれちゃった」
桐葉がチュッとくちびるを尖らせる一方で、クラスメイトたちは血を滴らせるシマウマを前にした、法悦のライオン顔だった。
「ろく、おく……」
「宝くじかよ……」
「それを毎月……」
「奥井! オレら友達だよな!」
「あたし実は前から奥井くんのこといいなって思っていたの!」
「奥井! みんなのセカンドハウスとしてタワマン1フロア買い切ろうぜ!」
「私来週誕生日なんだけど、プレゼントちょうだい! いいでしょ!」
「今日からお前放課後の払い役な! 6億もあるんだからいいだろ!」
怒涛のタカリ行為に圧され、俺は咄嗟に対応できなかった。
桐葉も、珍しく困惑していた。暴力を振るわれているわけではないので、どう対応すべきか悩んでいるのだろう。
でも、助け船は後ろからきた。
「はい、そこまでぇ」
背後から俺と桐葉の肩を抱いて、美稲は、優しい顔でみんなを見回した。
獣欲を剥き出しにしたクラスメイトたちに向けて、彼女は語り掛けた。
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