第86話 ランクSの実力

 そう言ってギルドの執務室を出て受付に戻ってくると、そこでたむろしていた冒険者たちがカイを見て、その中から一人の大柄な男が前に出てきた。両脇に斧を持っている。斧の二刀流の戦士だ。


「ランクSのシノビだよな? 俺はルーク。この街で冒険者をしている戦士だ。ランクはAだ」


 差し出された手を握り返し、


「ハスリアから来たカイ。シノビだ。ランクはS」


「ああ、さっきリックから聞いたよ」


 そう言うと一旦言葉を切って、


「キングストンに来て早々で悪いが俺と模擬戦をしてくれないか?ランクS、しかもシノビってのは初めてなんでな。腕試しってことで」


 そう言いながらルークが目の前のシノビを高く評価していないのが丸わかりだった。カイはルークの意図を見抜きながらも、


「こっちは構わない。場所は鍛錬場かな?」


「そうしよう」


 そう言って二人がギルドの鍛錬場に移動すると他の冒険者達も同じ様に移動し、鍛錬場の周囲に多くの冒険者が集まってきた。


「ランクSのシノビがルークと模擬戦するらしいぜ」


「キングストンでも上位3人に入る腕前のルークにどこまでやれるかだな」


「ルークの斧の二刀流は半端ないからな」


 口々に話している中、カイはクズハを肩から下ろし強化装備を外すとアイテムボックスから木刀を2本取り出す。


「俺は斧の模擬刀を使うが、そっちはその木刀でいいのか?」


「構わない」


「そうかい、模擬戦とは言え手加減はしないぜ」


「ああ。よろしく頼む」


 鍛錬場の周囲で模擬戦を見ようと集まってきた冒険者達の中にギルマスのスタンレー の姿もあった。


(ルークはこの街でも上位に入る腕前だ。その男相手にシノビってのがどんな戦いをするか、ランクSの実力はどれくらいなのか)


 スタンレーが腕を組んで鍛錬場を見ている中で冒険者の掛け声と共に模擬戦が始まった。ルークは2本の斧を持った腕を振り回してカイに突っかかろうとしているが、


(これがランクA? 隙だらけだな)


 その動きを完全に見切っているカイ、両手に持っている木刀はまだ腕を垂らせたままで端からみるとただ突っ立っている様に見える。


(これがランクS?嘘だろう?殺気が全くないじゃないかよ、悪いが直ぐに決着をつけさせてもらうぜ)


 両手に持っている斧を振り回してルークが突っ込んできた。カイは両手の動きを完全に見切って身体を最小限動かして2本の斧を避けると同時に目にも止まらぬ速さで両手が動いたかと思うとルークの持っている斧がはじき飛ばされて鍛錬場の端に飛んでいった。


 シーンとして声も出ない冒険者達。彼らの目にはカイの動きは全く見えていなかった。

ギルマスのスタンレー だけが、


(想像以上の強さだな。ルークが全く相手にならない)


「一体何が起こったんだ?」


「わからない。気がついたらルークの斧が弾き飛ばされてたぜ」


 当のルークは突っかかって行ったと思ったら2本の斧を弾き飛ばされた時の衝撃で手首を押さえていて、同じ様に


「何が起こったんだ?」


 自分でもわからないと口に出す。


「お前が斧で切りつけてきたのをこの木刀で弾き飛ばしただけだよ」


「嘘だろ?」


「嘘だと思うならもう一度やってもいいぜ」


 プライドを傷つけられたのか、飛んで行った斧を拾い上げると


「今度はこっちも本気でいくぜ」


 そう言って再び二刀流でカイに突っかかっていくが、今度も2本の斧を弾き飛ばされたと思った次の瞬間に木刀の先端がルークの喉元に突きつけられていた。


「本気武器ならこれで死んでるな」


 その場でがっくりと腰を落とすルーク。


「なんて強さなんだよ」


「木刀の動きが全く見えない」


「あのルークが赤子の手をひねる様にやられるなんて初めてみたぜ」


 口々に言う冒険者達。そこに、


「流石にランクSだ。見事だ」


 そう言ってギルマスのスタンレー が鍛錬場に入ってきた。そして周囲の冒険者達に向かって、


「殆どの冒険者が見えてないだろう。カイはルークの斧を木刀で同時に2本弾き飛ばしてそのままの動きで木刀の先を喉元に突きつけた。俺も目で追うのがやっとの速さだ。ランクSの実力は本当だ」


 言いながらギルマスのスタンレー は汗一つかいていないカイを見ながら、


(ランクS、いやそれ以上の実力だな。強化装備を外した生身でこの動き)


 その言葉にざわつく冒険者達


「カイ、その木刀を見せてくれるか?」


 ギルマスの言葉に頷くと2本の日本刀の木刀を差し出すカイ。それを受け取ったスタンレー の表情が変わる。


「なんて重さだ。この重さの木刀を2本持ってあのスピードを出してたのか?」


 カイは涼しい顔で、


「俺が使っている刀の3倍の重さがある。訓練用だからな」


 (訂正だ。こいつはランクSS、いやSSSクラスの化け物の戦士だ)


 ショックから立ち直ったルークがカイに近寄ると、


「いや完敗だ。ランクSは伊達じゃない。全く木刀の動きが見えなかったよ」


 手を差し出してきたルークと握手をするカイ。冒険者の高ランク者は相手の実力を正当に評価するのはどの国でも同じだ。


「俺もこの街じゃそれなりの実力者と言われてるんだが、全く歯が立たなかったぜ。見事なものだ」


 脱帽して話すルークに、


「斧の二刀流の戦士とは過去にも相手をしたことがあるが、その時の相手もそうだった。ルークも腕力に頼りすぎている。それじゃあ格上に勝てない」


 そう言ってその場で二刀流の構え方や手首、身体の使い方を教えていく。なるほどこうかと言いながら素直に聞いているルークとそれを見ている周囲の冒険者達。


「ランクSって言うから偉そうにしてるかと思ったらルークにちゃんと指導するなんて、いい奴じゃないか」


「あのルークも素直に従っているしな」


 そうしていくつかポイントを教えてから再度模擬戦となった。カイはわざと受けに回ってることもあったがルークの動きが”様”になってきた。


「いい感じだ」


「カイに言われたポイントを修正したら自分でも動きが良くなったのがわかるぜ」


 そうして模擬戦を終えると、ルークに誘われてギルド併設の酒場に移動してそこで他の冒険者らと一緒に盛り上がった。


 期せずしてキングストンの街についていきなり模擬戦をして実力の違いを見せつけることが出来たカイ。周囲の冒険者もランクSのカイの実力を目の当たりにしたのでカイに絡むこともなく話に聞き耳を立てていた。クズハはいつも通りカイの腹の上、定位置でゴロンと横になっている。


「なるほど。幻の刀か。刀なんてこのローデシアのダンジョンから出たっていう話は聞いたことがないな」


「なので未クリアダンジョンを片っ端から攻略してるのさ。ところでこの街の周辺にある未クリアのダンジョン3箇所だが、どの程度の難易度かわかってるのか?」


 カイが逆に質問をするとルークではなく別のランクAの冒険者が声を出した。


「10層を超えた辺りからランクAが出てくる。15層になるとランクAの複数体だ。残念だが俺達じゃランクAの複数体を相手にするのはきつい。そういう訳でその3つはいずれも14層までしかクリアできてないんだ」


「ダンジョンは洞窟タイプかい?」


 カイのその問いには別のランクAの女性冒険者が答える。


「低層は皆そうね。10層から下はダンジョンによって異なるけど、私達が見たのでは森になっているフロアや川が流れているフロアもあったわ」


「ありがとう。参考になるよ」


 その後は今までのカイのダンジョン攻略やハスリアの北の山でのNM討伐などの話を聞かれるままにするカイ。聞いていた冒険者達は


「ランクSSが2体をソロで倒すとか尋常じゃないぜ」


「ダンジョンボスも初見だろう?ソロで初見で倒しまくってるなんてすごいな」

 滅多に見ない、いやほとんどの冒険者にとって初めて見るシノビ、しかもランクS。この男の凄さを皆実感して酒場での飲み会は終わった。


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