第62話 港町フェス その1
自分の話しで盛り上がっているとは知らないカイ。宿でゆっくり休むと翌朝からダンジョンの23層に飛んだ。
ここは22層と同じ荒野だが徘徊している魔獣はランクSSになっている。そしてこの23層は常時強風が吹いていた。普通なら風の音にかき消され魔獣が近づく音が聞こえないが、カイに取ってはなんてことはないフロアだ。風が強くても気配までは消せない。ランクSの魔獣を倒しながら進みほとんど止まる事なく24層に降りていった。
24層は23層を広くしランクSSが複数体出てくるフロアだったが装備が充実しているカイに取っては今やランクSSですら普通に倒せる魔獣に成り下がっていた。刀の腕はもちろん、魔術の威力も上がっているカイ。広いのでやや時間はかかったものの24層のランクSSのゾーンも無傷でクリアして25層に降りるとそこはボス部屋だった。
扉の前で立ち止まるカイとクズハ。しばらく大きな扉を見てから横にあるレバーを引くと扉がゆっくりと左右に開いていった。
中に入るなり強化魔法を掛けてくるクズハ。その間に背後で扉が閉まる音がする。
「アダマンタス…だったかな」
部屋に入った時からカイは広場の中央を見ていた。そこには巨大な亀がいた。高さは2メートル程で出ている首から尾までは6、7メートルはある亀だ。甲羅から首を出してカイをじっと見ていたかと思うと口から氷のブレスを吐き出してきた。
カイはアダマンタスの口が開いた瞬間にはその場から移動していて誰もいないボス部屋の壁にブレスが当たるとその場所が氷つく。
逃げたカイを追おうとその巨体からは想像もつかない素早さで身体の向きを変えてカイの方を向くがカイはそれ以上のスピードでボス部屋の周囲を移動しながらアダマンタスの顔に火遁の術をぶつける。
火遁の術をまともに顔に食らったNMは首を反らせるがすぐに氷のブレスを連続で打ってくる。カイもそれを避けながら火遁の術を連打する。
(想像以上に素早いな。やっぱりボスはこうでなくっちゃな)
強い敵を相手にしてカイのアドレナリンがどんどん増えていきそれに合わせて体の動きもさらに素早くなっていく。
しばらくお互いに氷のブレスと火遁の術という遠隔攻撃の応酬で戦闘の序盤が過ぎていくがカイはわざと近づかずに離れたところから術を撃ち続けている。
(甲羅に攻撃しても意味がない。弱点はあそこただ1箇所。それを狙って一発で倒す)
膨大な魔力量を持っているカイは術を連発しても何ら問題がなく、NMを苛立たせる様に執拗に顔を狙って術をぶつける。
アダマンタスは何とかカイを捉えようと広場の中央でグルグルと廻るがカイを捉えることができない。氷のブレスは常に少し前までカイがいた場所に当たり、カイには全くダメージを与えることができずにいた。
そうしてNMの周囲を移動しながら顔に何度も火遁の術をぶつけていたカイ。グルグル回っていたアダマンタスの動きが疲れてきたのか遅くなったその瞬間に背後から甲羅にジャンプするとそのままアダマンタスの首、甲羅から伸びている首に刀で切りつけた。
綺麗に首を切られたアダマンタスはそのまま甲羅ごとズドンと床に落ちるとしばらくして光の粒になって消えていき、代わりに宝箱が現れた。
中を開けると魔石、甲羅、金貨、腕輪が入っていたが刀はなかった。いつの間にか肩に乗っていたクズハがカイの顔に身体を擦り付けてきている
「わかってるって。そう簡単には見つからないよな。さてダンジョンクリアしたし地上に戻ろう」
NMを倒して現れる部屋の隅の転送の魔法陣に乗って一気に地上に戻っていく。
ダンジョンの入り口にいた衛兵にダンジョンボスを倒してきたと報告し日が暮れていたのでその日はダンジョンの宿に戻っていった。
部屋で刀の手入れをしていると隣のクズハはいつもの刀身ではなくカイをじっと見ている。その視線と意味に気づいたカイは刀の手入れを止めてクズハを腹に乗せると、
「お前の言いたいことは分かる。このドラゴンの鱗で作ったこの防具があれば魔法は無視できて攻撃し放題なのに何故そうしなかったのかって聞いているんだろ?」
その通りだと大きく尻尾を振るクズハ、その背中を撫でながら、
「確かにそうしたら楽に勝てただろう。でもそれじゃあ俺の鍛錬にならないじゃないか。相手はダンジョンのNM。それにどこまで通じるか自分の力を試したかったんだよ。どの相手にどれくらい通用するか、自分のレベルは知っておかないとな」
カイの説明で理解したのかもう一度大きく尻尾を振るとカイから飛び降りていつもの通り刀の刀身をじっと見始めた。
翌朝ダンジョンの宿を出たカイは港町フェスを目指して歩いていく。そうしてその日の夕刻にフェスの街に着いたカイ。城門をくぐって街の中に入ると港町らしく街全体に潮の匂いがしている。
フェスの街はキアナよりもやや大きく港に停泊している多くの漁船や大きな船も停泊しているのが見えた。恐らく貨物と人を運ぶ船だろう
港を横目に見ながらギルドのマークを見つけたカイは扉を開けて中に入っていった。
夕刻で多くの冒険者がクエストから戻ってギルドの受付横の酒場にたむろしていたが、扉を開けて入ってきたシノビ姿の冒険者を見て皆会話を止めてカイを見る。そして、
「シノビだ、あれがカイか」
「ランクSのシノビ。思ったよりの華奢に見えるよな」
「肩に乗ってるのはカーバンクル、間違いないなキアナのランクSのカイだ」
そんな囁きが漏れる中、カイは真っ直ぐにカウンターに向かうとそこに座っていた受付嬢に手紙とギルドカードを渡し、
「盗賊を捕まえた証明書だ。それとダンジョンをクリアしたので報告に来た」
受付嬢はカイのギルドカードを見るとすぐに立ち上がって
「しばらくお待ちください」
と奥に引っ込んでいった。そしてすぐに戻ってくると、
「ここのギルドマスターがお会いになりますのでこちらにどうぞ」
案内されるままに奥のギルドマスターの執務室に入ると、1人の男が執務机から立ち上がって近づいてきた。手を伸ばしてカイと握手しながら
「よく来てくれた、このフェスの街のギルドマスターをしているロンだ。よろしく」
「アマミ出身、キアナ所属のカイです。よろしく」
挨拶を済ませてソファに向かい合って座ると
「20数年ぶりのランクS。大陸中の冒険者が知っている有名人だな」
カイはどう答えて良いか分からずに黙っていると
「フェス郊外のダンジョンをクリアしたんだって?」
ギルマスが話題を振ってくれたのでアイテムボックスからボスを倒した時の戦利品をテーブルの上に置いていくカイ。クズハはカイの腹の上だ。
テーブルに置かれた魔石、甲羅、腕輪を見て、
「ダンジョンボスは亀だったのか」
「アダマンタスだった」
「なるほど」
そう言うと職員を呼んで魔石と甲羅、腕輪を渡して査定する様に指示する。
職員が出ていくと、
「ギルド同士は横の連絡を密にしている。カイは幻の刀を探しているのだと聞いている」
ギルマスの言葉に頷くカイ。
「1本は見つかったが、もう1本を探している。色々と調べたところ難易度の高いダンジョンのボスが持っている可能性があるので国内の難易度の高いと言われているダンジョンを片っ端から攻略しているところだ」
「なるほど。刀が出たというのは聞いたことがないな。カイの言う通りまだ見つかっていない可能性が高いな」
冒険者は基本相手に関係なくタメ口だ。ギルマスもわかっているのでカイの口調には何も気にせずにお互いにタメ口で話しをする。
「それと、フェスにくる途中の山道で盗賊を捕まえて近くの村に引き渡している」
「この手紙だな。確かに盗賊20名を捕まえたのがカイだと書いてある。この代金はあとでまとめて払おう。それにしても20名の盗賊を1人で捕まえたのか」
「冒険者でいえばせいぜいランクC程度の雑魚の集団だ。数がいくらいても関係ないな」
あっさりと言うカイの言葉を聞きながらギルマスのロンは
(ギルドのレポートにあった通りのシノビだな。桁違いに強く常に冷静だと。こうして見ていても隙がないのが分かる。さすがにランクSだ、いやレポートだとSSクラスの実力があると書いてあったか)
ギルマスのロンは会話をしながらカイを観察していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます