第33話 再び旅に

 リンドウとアカネがカイの屋敷にやってきたのは奉納の儀が終わって2週間後の事だった。


「できたぞ、カイ。お前が持ってきてくれた素材を使って防具を作った。以前のよりずっと強くなっているのは間違いない」


 そう言ってリンドウが渡してくれた防具。


 忍上衣は黒に薄いオレンジの縁取りと見た目は変わっていないが、よく見ると布と布の間にミノタウルスの皮が挟んである。


 袴は以前の真っ黒から今度は黒を基調としているが裾の部分には忍上衣と同じ薄いオレンジの縁取りをつけてあり、これにもミノタウルスの皮が使われていた。


「佩楯にしようかと思ったが、それよりも足が全て隠れた方が黒で見つかり難いと思ってな。忍上衣も袴も以前のより数段防御力が上がって、そして軽くなっている。ミノタウルスの皮はうまく加工するとミスリルよりも強くなり、魔法と物理の両方のダメージを軽減してくれる様になるんだ」


 手に持った瞬間に軽いと思ったカイ


「確かに軽いな、動きやすそうだ。ありがとうリンドウ兄さん」


「流石に滅多に入らないランクS以上の素材だ。作っていて俺も楽しかったよ」


 そう言うリンドウの横でアカネが、


「リンドウはね、素材を見てはどうやったらカイの動きに邪魔にならないか、どうしたら強く軽くなるかってね、四六時中そればっかり考えてたのよ。私が寝なさいって言ってももうちょっとでいい考えが浮かびそうなんだよとかいって全然寝ないし」


 その言葉にクルスやユズも声を上げて笑う。カイもひとしきり笑ってからリンドウをみて頭を下げ、


「大事にするよ、リンドウ兄さん」


 その言葉に大きく頷き、


「ああ。俺の自信作だよ」




 正宗を探す旅に出る前の日、カイはキクと2人で山の祠に参拝をした。

 2人並んで旅の無事と正宗が見つかる様にと祈願して手を合わせて頭を下げた時、祠の奥が光り、そして2人の前に白狼のフェンリルが姿を現した。


 跪く2人の脳裏にフェンリルの声が響く。


『いよいよ出発か。政宗を探す旅は厳しいが期待しているぞ、カイ』


「わかりました」


『幻の名刀2本の内、鬼哭は無事我の下に帰ってきた。おかげで我の力も増えておる。カイ、お主が今持っている2本の刀をここに出すが良い』


 フェンリルが言うままに村雨と金糸雀を置くと2本の刀が光に包まれた。


『力が増えたのでこの刀にも我の新しい力を注いでおいた。今までより鋭く、強くなっておる。旅の手助けになるだろう』


「ありがとうございます」


 カイが深く頭を下げる。


『キク』


「はい」


『鬼哭が戻ってきたおかげで我の力も増えた。アマミの街は引き続き我がちゃんと見守っておるから安心して暮らせ』


「ありがたきお言葉。村の者も安心するでしょう」


『カイ。頼むぞ』


 最後にそう言うとフェンリルの姿が消えた。


 カイは2本の刀を両脇にさして立ち上がる。キクも立ち上がると


「本当にカイは白狼様に好かれておる。ありがたいことじゃ」


 そうして麓の街に戻り屋敷に帰ると両親に祠での出来事を説明する。


「白狼様も期待されておる。よろしく頼むぞ」


「身体に気をつけて、無理しちゃだめよ」


 育ての両親の言葉に頷くカイ。






 翌朝、大勢の人に見送られながらカイは再び名刀正宗を探す旅に出た。

 新しい防具はカイの体にぴったりとフィットし、駆ける様に街道をキアナの街を目指して進んでいく。


 旅の初日の夜、野営で夕食を食べ終えた頃、カイの前に魔法陣ができてカーバンクルのクズハが姿を現した。その場でくるっと回って結界を貼ると尻尾を大きく振ってカイの肩に乗ってくる。そのクズハの背中を撫でながら、


「ちゃんと白狼様に挨拶してきたか?」


 尻尾を大きく振って返事をするクズハ


「そうか。また旅に出るけどよろしく頼むぜ」


 途中でランクBクラスの魔獣を討伐しながらアマミを出て10日後、カイの目の前にキアナの街が見えてきた。


「よう、カイ。久しぶりだな」


 ランクSのカイはキアナではすっかり有名人だ。城門の衛兵にギルドカードを見せて言葉を交わしてから街の中に入る。


 クズハを肩に載せたままギルドの扉を開けて中に入って受付にいたスーザンを見つけると近づいていく。


「カイさん、お久しぶりです」


 カイを見つけて立ち上がって挨拶してくるスーザン。


「アマミから戻ってきた。またしばらく世話になるよ」


 そう言ってカウンターで挨拶を終えると受付に併設されている酒場から呼ばれる。


「久しぶりだな」


「刀の奉納は終わったのか?」


 酒場で顔馴染みになった冒険者達と話しするカイ。


 前からキアナで活動している冒険者達にとってはカイは同じ仲間であるが、カイがアマミの街に戻ってからこのキアナにやってきてこれまでカイと面識がなかった冒険者達にとってはカイはランクSのハスリア王国最高の冒険者という認識だ。


「あれがランクS、シノビのカイか」


「何十年か振りのランクS。外見からは威圧感は感じないけどな」


 などと少し離れた場所から仲間と話しているカイを見ている。


 酒場で談笑をしているとギルマスが奥の部屋から出てきた。カイが挨拶をするとその肩を叩いて、


「奉納は済んだのか?」


「無事に」


「そうか。それでこれからどうするんだ?」


 皆が聞きたがっていることをギルマスのシンプソンが直接聞いてくる。


「とりあえずキアナをベースに活動するつもりでいる。この近くのダンジョンでまだ潜っていないのもあるし」


 カイの言葉に頷くと、


「片っ端からダンジョンに挑戦するつもりなのか?」


「ああ。それが一番手っ取り早い。それとキアナはあちこちから冒険者がやってくるので日本刀に関する情報も集まりやすいだろうと思っている」

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