第30話 鬼哭 その2

「そしてもう1本、正宗という刀はまだどこかにあるというのか。そしてお主はそれを探す旅に出るつもりなのだな?」


「仰せの通りでございます。他国にあるのかあるいはダンジョンの奥で眠っているのか。いずれにしましても私はそれを探す使命をアマミの人々と白狼様から受けております」


「なるほど。簡単ではないがやるが良い。余はお主の様に大きな目的を持って人生を生きる奴が大好きだ」


 そう言うと、周囲の側近たちに、


「お前たちの中で刀の噂を聞いたことがある物はおるか?」


 側近たちはお互いに顔を見合わせる。そうしていると一人の側近が、


「おそれながら、王国内の貴族で刀を持っておる者は聞いたことがありませぬ」


 国王はその言葉に頷き、


「んむ。刀自体珍しいからの。となると他国かあるいはカイの言う通りどこかのダンジョンの奥にあるか」


 そうしてカイを見て、


「カイ。お主の旅は厳しく、そして険しいものになるだろう。余も応援しようではないか。旅の途中で困ったことがあったらいつでもこの城に余を訪ねてくるがよい」


 そう言うと服の中から1枚のコインを取り出し側近に渡す。側近がカイにそのコインを渡しカイが手に持ってみると見それはカイが見たことがない大きさの金の硬貨だ。大きさは普通の金貨の約3倍。表と裏に王家の紋章が彫られている。ずっしりと重いその金貨を見ているカイ。


 一方で国王が渡すコインを見て周囲の側近がざわつく。


「今渡したのは王家のコインだ。これを見せるとお主はいつでも余の城に来て、余に直接会うことができる」


 城にフリーパスで入れていつでも国王と会える。そんなコインならその価値は測りしれない。周囲の側近がざわつくもの当然だ。


 王国の貴族の中には何とか国王に会おうと日々画策している者もいる中でたかが冒険者のカイにそのコインを渡すとは。


 周囲の側近たちは国王がいかにカイを高く評価しているのかを知らしめられた。


 カイは手に持ったコインを見て逆に困惑している。


「私の様な一介の冒険者がこの様な貴重なものをいただいてもよろしいのでしょうか?」


 カイの言葉に国王は笑いながら、


「構わん。先ほども言ったが余は大きな目的に向かって生きる奴は応援したくなる。カイはそのコインを持つ資格があると余が判断した。遠慮なく受け取れ」


「かしこまりました。ありがたき幸せ」


 頭を深く下げるカイに


「受け取るだけじゃなく、ちゃんとここに顔を出すんだぞ」


 そう言うと、カイの背後でずっと首を垂れていたイレーヌに、


「イレーヌ、この度は残念であった。とはいえこれまでの3年間勝ち続けたその力と精神力は見事だ。しかも3年間お主は一度も王家の宝物を所望しておらぬ。今年はこのカイに敗れたとはいえ、今までの功績を考え、ここでお主の欲する武器を1つやろう」


「それでは片手剣を1つ所望したく存じます」

 

 国王はイレーヌの言葉に驚いた表情をし


「お主の武器は大剣ではなかったのか?」


「はい。ただ今回大剣でカイ殿に負けました。その後カイ殿と話をしまして、カイ殿から片手剣の二刀流の方が強くなれると聞きましたので」


 そこまで言うと、


「なるほど。剣を合わせた者同士でないと分からない話だな。よかろう。好きなのを1本持っていくがよい」


 そうして側近が持ってきた片手剣の入ってる木箱から取り出された剣を見ていて、


「これを頂きたく」


 イレーヌが手に取った片手剣を見てカイは、流石だ。イレーヌが選んだ片手剣は俺が見ても良い剣だとわかる。とイレーヌの慧眼に感心していた


 そうしてイレーヌも剣を手にすることができた。


 国王との謁見が終わり、椅子から立ち上がった国王は最後にカイを見て、


「カイ、余との約束忘れるでないぞ。余は待っておるからな」


 そう言うと皆が首を垂れている中、謁見の間から出ていく。


 国王が部屋からいなくなると側近の一人がカイに


「国王陛下があそこまで気にかけられるのはめったにない。王家のコインまでいただいておる。厳しい旅になると思うがいつでも来られるがよかろう」


 その言葉を聞いて礼をするカイ。


 そうしてイレーヌと二人で謁見の間から廊下にでる。いつの間にかクズハは肩に乗っていて、そうして二人で廊下を歩きながら、


「すっかり国王に気に入られた様だな」


「なぜだろうな」


「カイが一途だからだろう。国王は元騎士で戦士。血が騒いだのかもしれんな」


「なるほど」


 そして城から外に出る門まで来たところで、


「私はこれから守備隊としてこの城で勤務せねばならぬ。カイとはここまでだ」


「なるほど、世話になった。良い片手剣が手に入ってよかったな」


「ああ。これから片手剣二刀流の訓練をせねば。カイはこれからどうするのだ?」

 

 イレーヌの問いには、


「幻の名刀2本のうち1本が手に入ったので一度アマミに戻るつもりだ。奉納せねばならん」


「なるほど」


 そう言ってから、


「また王都に来るだろう?その時は必ず声を掛けてくれ。それまでに二刀流に慣れておくので手合わせをお願いしたい」


「そう言うことならこちらも是非お願いしたい。また王都にきたらイレーヌに連絡する」


「待っているぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る