第21話 指名クエスト
「指名クエスト?」
ハンスと模擬戦をしてから数日後、カイがギルドに顔を出すと、受付のスーザンがカイに話しかけてくる。
「ええ。東の港町のフェスからこのキアナに続く街道の森の中で以前は見られなかった魔獣が度々現れて行商人と護衛の冒険者を襲って来ているという報告が複数あったんです」
「それで?」
「ただ、報告してくる内容が皆バラバラで、本当に増えているのかたまたまなのかがまだはっきりしないので、カイさんに調査をお願いしようと思って」
指名クエストというのは受ける冒険者を指名して行うクエストで、通常よりも報酬が高く、また指名されるというステータスもあり、冒険者には人気のあるクエストだ。
「事情はわかったが、なんで俺に?」
「この指名クエストはここキアナのギルドとフェスのギルドの共同指名になっているんです。ところがフェスには今ランクAの冒険者がいないので必然的にここキアナの冒険者が対象になるんですけど今はランクAのほとんどの冒険者が北のダンジョン、カイさんがクリアしたダンジョンに篭っていてフリーになってるのがカイさんしかいないんです。ギルマスからカイさんに頼んでくれと言われたので」
話を聞きながらカイは自分に取っては悪い話じゃないと思っていた。知らない街に行くことは情報収集の観点から必要だったし、途中で魔獣が増えているのはひょっとしたらNMが湧いている可能性もある。
「調査って事だが、もし魔獣が増えている原因が分かればその対処をしても構わないんだよな?」
「もちろんです。その場合には調査依頼に討伐費用がクエストの報酬としてギルドから支給されます」
「じゃあ決まりだ。その依頼を受けよう」
クエストを受けた翌日の朝、カイはキアナの城門を出ると東のフェスに続く街道を歩き出した。肩にはカーバンクルのクズハがここは俺の定位置だと言わんばかりにちょこんと座って存在を誇示している。
「魔獣が出るって場所まで10日程らしい。途中の村で休みを取りながら行くからな」
カイの言葉に尻尾を振って応えるクズハ。
途中の村々で宿をとり、東を目指して進んでいく2人
キアナを出て2週間目、目の前に森が見えてきた。
「これから森の中の道だ。この森がどうやら魔獣が出る森みたいだ」
そう言うもののカイは抜刀もせずに普通の道を歩く様に森の中に入っていく、クズハもカイの肩に乗ったままで、側から見ると全く緊張していない様に見る1人と1匹。
森の中に入っていってもしばらくは何もなかったが歩いていると魔獣の気配がしてきた。
「ランクCクラスだよな、これ」
森の中で感じる気配は強い魔獣のそれではなくせいぜいランクCクラスのもので、この程度なら護衛の冒険者で何なく対処できるだろうと無造作に気配の感じる方に近づいていくと木々の間にランクCのオークが2体固まっていた舞の魔法で倒してから周囲を探る。
肩の上でクズハも耳を立てているがどうやらカイと同じ様に気配は感じ取れないない様だ。
道から外れて森の奥に進んでいく。途中で出会うのはせいぜいランクBまでで2人の脅威になる様な気配は感じられなかった。
さらに奥に入っていくとだんだんと魔物の気配が濃くなってきたのがわかる
「近いな」
カイがそう呟くとその場で強化魔法をかける。カーバンクルのクズハ。その頭をポンポンと叩いて謝意を示すと気配のする方向に進んでいった。
「なるほど、これが元凶か」
カイとクズハの視線の先には森の中で開けた広場の中央で地面から1メートルの高さに浮いている黒くてモヤモヤとしている物体を見つけた。
見ていると、そこから魔獣がランダムに現れては森の中に歩いていく。
「あれが何かはわからないが、あいつを倒せば良いというのはわかる」
そう言うと広場に出て黒のモヤモヤに向かって火遁の術を唱えた。
派手な炎に包まれた黒い物体は形を歪に変えてカイに向かってくる。もう一度火遁の術を唱えると、その物体を村雨で斬りつけた。
火力のある火遁の術を2度受け、村雨で斬りつけられた物体はその姿を大きくさせたり小さくさせたりしながら徐々にその姿を小さくしていく。
カイは止めとばかりにもう1度火遁の術と日本刀で斬りつけるとモヤモヤの動きが泊まり地面に落ちて消えていった。
そうしてその消えた後には大きな魔石が1つ現れた。
「今倒したモンスターの魔石か」
地面に落ちた魔石はかなり大きく、それをアイテムボックスにしまうと、魔物を倒しながら森を歩いて港町フェスとキアナとを結ぶ街道に出てきた。
行ったことがないフェスに顔を出そうかとも思ったが結局クエストの報告を先にしようと、きた道をキアナに戻り、キアナに着くとそのままギルドに顔を出す。
「これがその魔物の魔石か?」
受付のスーザンに案内された部屋で待っているとすぐにギルマスのシンプソンが入ってきて、カイがテーブルに置いた魔石を手に取る。
カイが討伐の経緯を説明すると、
「黒いモヤモヤ?」
「ああ。実態がある様な無い様な感じだったが魔法は通ったし、刀で切る時も切っているという感触はあった」
「なるほど。それでそのもやからいろんな魔獣が現れてたってことだな」
「その通り。ランクはせいぜいランクBクラスだが事前に聞いていた様に種類が多く、ランダムに出現していた様だ」
カイの報告を聞いていたギルマスは、
「わかった。聞いている限り今回の騒動の原因はその黒い物体だろう。クエスト終了としよう」
そして続けて、
「この魔石だが」
そこまで言うとカイが
「受けたのは調査依頼だから、魔石についてはギルドに差し上げる」
「いいのか? 助かる」
そうしてギルドカードを更新してカイはクエストを終えて定宿に引き上げていった。
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