第54話 夏のお家デート

 夏休み2日目の7月24日金曜日。俺たちはといえば、


「あづいー。今日、一体何度なんだよ……」

「もう少ししたら、寝室のエアコン効いてくるから」


 リビングの床で溶けていた。


「最高気温38℃って。外出たら死ぬな」

「ニュースでも、熱中症に注意、だって」


 こんなことなら、電気代をケチって寝る時にエアコン消すんじゃなかった。

 そう悔やんでいる内に寝室のエアコンから徐々に冷気が入り込んでくる。

 少しずつ少しずつ、身体が復活してくる。


「思うんだけどさ。昼とか、エアコン無かったら、人死ぬ気がしないか?」

「熱中症で、救急車とか人が何人亡くなったとかは最近よく見るよね」

「それもあるんだけどさ。昔の人はどうしてたんだろうって思わないか?」


 いやほんと、100年とか200年前の人はどうしてたんだろう、一体。


「でも、ドラマとか映画で出てくる田舎のお家って涼しそうじゃない?」

「風通しは良さそうだよな。今は、コンクリだから蒸し焼きになるのかね」


 それだけじゃないと思うんだけどなあ、と内心で思う。


「アマプラで何か見るか?今日は外でデートとか死にそうだし」


 結局、Amazon Prime Videoは会員を継続することにした。

 映画館に何度も行くより安く済むだろうという判断あってのことだ。


「何か、夏らしい作品でも見ようよ」

「夏らしい、ねえ。そういえば、シュタゲだったか。見たこと無かったな」

「何年か前に結構話題になったよね。見てみよっか」


 一応、夏の秋葉原が舞台ということで、夏らしいと言えばそうだろう。


 リモコンを操作してアマプラの画面を見ると、全24話らしい。

 さらに、続編やら劇場版もあるとか、ハリウッド実写化とか。

 本当に大人気作品なんだな。


 というわけで、早速視聴を開始すると、出てきたのはとってもリアルな秋葉原。

 総武線通いの俺達にとっては、身近な駅でもある。


「わあー。ほんとうに、秋葉原が舞台なんだねー。ちょっと感動」

「普段通る駅だもんな。なんか、変な感覚になるな。にしても……」

「?」

「主人公が何だかイタい感じがするな。中二病っていうんだったか?」

「私もよく知らないけど、お約束みたいに出てくるよね。「中二病」って」


 ぼーっと視聴を続けてると、1話からガンガン意味深なシーンが連続。


「この叫び声とか、絶対、後の伏線だよねー」


 SF好きな古織としては、早くもワクワクする展開の連続らしく、

 楽しそうにそんな事を言う。


「伏線っていうのは俺もわかるけどな。どう展開するのやら」

「きっと、この女の子、本来は死んでるんだよー」

「そうかー?さすがに、突飛過ぎると思うけどな」

「SFの定番だよ。いかにもパラレルワールドっぽいし」


 物語談義をしながらも、視聴を続けていると、あっという間に5話まで終了。


「そろそろ、お昼にしよっか?」

「いつも助かる。で、何にするんだ?」

「せっかくだから、お素麺にするつもり」

「じゃあ、頼んだ」


 と、いそいそと鍋に水を注いで準備をする古織をぼんやりと見る。

 こうやって、いつも、ご飯を作ってくれてるんだよな。

 そうこうしてる間に、気がついたら素麺が出来ていた。


「はい。召し上がれ」

「おお。夏はやっぱり素麺だよな」

「美味しい?」

「そりゃ、美味いって。でも、素麺なんて買ってたっけ?」

「実は、お母さんが送ってくれたの。結構いいのなんだよ」

「やけに美味しいと思った。でも、ちょっと申し訳ないな」


 お金の援助だと俺が遠慮するだろうと、現物で送ってくれたんだろう。

 そんなところで気を遣わせてしまうのが少し情けない。


「そういう時は、お礼言ってあげてよ。みーくんの気持ちはわかるけど」

「だな。アニメ見終わったらお礼の電話かけるか」

「すっかり、夫婦してるよね。私達」

「お義母さんに贈り物のお礼を言うのが?」

「そうそう。定番って感じしない?」

「親戚同士の付き合いって感じはするよな」


 花恵さん、いや、お義母さん、は、育ての親でもあるけど。

 そんなやり取りをしながら、お素麺を食べた俺たちは、アニメ視聴を再開。


 と、ふと、俺の膝の上にごろんと古織が寝っ転がる。


「なんだよ、急に」

「膝枕。駄目?」

「駄目じゃないけど。でも、あんまして来ないだろ」

「だって、いきなりは私も恥ずかしいよ」

「今は恥ずかしくないのかよ」

「だらーっとしてたら自然じゃない?」

「まあいいけどな」


 こうして甘えてくれるのは嬉しい。

 だから、ご褒美に頭を優しく撫でてやる。


「もっと、撫でて、撫でてー」

「はいはい」


 今日はそういう日なんだろう。

 ゆっくり髪を梳いたり撫でたりしながら、視聴を続ける。


「あ、そろそろ夕食の支度しないと!」


 話も後半戦となる17話辺りで、古織が声を上げる。


「いっそのこと、今日は夕食なしでいいんじゃないか?」

「駄目だよ。食べないのは夏バテの原因!」


 さっきまで甘えてたのが嘘のように、さっと立ち上がる。

 昼間のように手際よく、夕食の準備を始める古織。

 その様子を眺めながら、


(暑い日はこんなデートもいいか)


 なんて思ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る