第43話 読書少女の申し出

「は、はい。たちばな、です。工藤さんたち、いえ、道久みちひさ君と古織こおりちゃんが話をしているのを見て、楽しそうだなと思っていたんですけど。仲間に入れてもらえないでしょうか?」


 橘さんのそんな申し出に、俺達は一瞬言葉を失った。

 しばし、辺りがしーんとなる。


 さりげなく、興味がある風に話題に加わってくるならともかく。

 いきなり仲間に入れて欲しいという申し出だ。

 別に俺たち4人は気が合うからつるんでるだけで、仲間に入れるとかそういう話でもないし。

 返答に困る。

 それに、なんで急に髪型や髪の色を変えて、眼鏡をコンタクトにしたのだろうか。


(なあ、古織、これ、どうすればいい?)


 助け舟を求めて、古織にパスをする。


(私もちょっと反応に困るよ。あ、でも)

(何かわかったか?)

(高校デビューじゃないけど、休み明けデビューって奴じゃないかな?)

(ああ、なるほど)


 俺が見る限り、これまでの彼女は物静かで、あまり深い交流をしないイメージだった。

 それが、派手なイメチェンをした上でのこの申し出。

 言われてみると納得が行く話だ。それなら。


「ええと、橘さん?」

「は、はい」

 

 どことなく、少しおどおどした様子だ。


「別に仲間……ていうか、つるむのはいいんだけど、どうして、俺達へ?」


 同じクラスには他にもいくつかグループがある。

 主にアニメやラノベを中心とした話題で盛り上がるヲタグループ。

 芸能、ファッション、などなどの話題で盛り上がるいわゆるリア充グループ。

 昔からの縁でなんとなくつるんでいるグループなどなど。

 上下関係は無いけど、それぞれの島があるのがクラスの特徴だろうか。

 俺たちはといえば、基本的に昔からの縁でつるんでいるグループだ。

 ある意味、後から割り込みにくい典型的なグループといっても良い。


「……前から、道久君と古織ちゃんの関係が素敵だなって思っていて。それで、憧れていたんです」

「そ、そうか。ありがとな」

「う、うん」


 どことなくきまりが悪い気持ちになった俺達は曖昧にうなずく。

 橘さん、おどおどした所はあるけど、ストレートな物言いの人だな。

 

(ま、いいか。悪い人じゃなさそうだし)

(そうだね。うん)

(でも、ちょっと予想外よね)

(まあ、いいことじゃないかな?)


 などとこそこそと話し合った末に、


「じゃあ、これからよろしく。橘さん……でいい?」

「ええと、はい。でも、「さん」は要らないです」

「わかった。でさ、いきなりな質問なんだけど……その格好って?」


 休み明けに急にイメチェンした彼女。その理由が知りたかった。


(ちょっと、みーくん)


 と思ったら、急に耳を引っ張られる。


(どうしたんだよ?)

(いきなりその質問は失礼だってば)

(あ、確かにそうだな)


 深い付き合いが無い相手にする質問じゃなかったかもしれない。

 

「あ、急に言われても困るよな。そこはナシってことで」


 と流そうとしたのだけど。


「その……本当にちょっとした理由なんですけど」

「え?」

「心機一転して、休み明けからは、積極的に関わって行くって決心したんです!色々本とかも読んで……」

「そうか。うん。見違えたと思うぞ。なんか元気な感じのイメージってか」

「その髪ってどこの美容院で切ってもらったの?ふわふわで可愛いよね」

「あ、はい!実は、家の近くの美容院なんですけど……」


 と、なんとか話題をつなぐことに成功したのだった。


「ところで、橘。俺と古織の関係が羨ましいって言ってたけど。そんなにか?」


 そもそも発端が俺たち4人ではなく、俺と古織の関係が素敵だと言う。

 どんな風に見えているのか、気になった。


「ええ、私、恋愛ものの漫画とか小説が大好きなんですが、そういうのに出てくる仲睦まじいカップルという感じで、それはもう!」


 凄まじい早口である。輪に入れたと思ったら、地が出るタイプ?


「ま、まあ。高校生で結婚とか、昔から付き合いがあるとか、あんまないよな」

「そう、そうなんです!そんな関係ってお話の中だけだと思っていたので、凄いなーって」

「それほどでないと思う……よ?」


 目を見合わせて俺たちは苦笑い。


「いやいや、あんたたちみたいなのって、天然記念物ものでしょ」

「絶滅危惧種だね」


 と思ったら、雪華や幸太郎に茶化される。


「特殊なのは認めるけど。そんな大した……普通に仲良くやってるよ」


 大した関係じゃない、という言葉は飲み込んだ。

 考えてみると、小学校の頃に借金関係で両親を失い、友達の家に引き取られたとか、

 相当特殊だし、ある意味ドラマチックだ。


 キーンコーンカーンコーン。そんな事を言っている間に、予冷が鳴った。


「あ、もう授業だわ」

「それじゃ、また後でね」


 といつものように二人が去っていく。残されたのは、俺と古織、そして、橘の二人。


「あの。授業の前に一つお願いがあるんですが」

「?」

「私、実は、ライトノベル……今は素人でネット小説書いてるだけなんですけど」

「ああ、「小説家やろうぜ!」とか「カキヨム」とかか。同い年なのに、すげーな」


 小説投稿サイトというので、書いているクチだろう。

 うちのクラスでも休み時間や昼休みなどの隙間時間に読んでいる奴はちらほら居る。


「いえ。私なんか底辺をようやく脱したところですし。それで、もしよければなんですが……」


 何が言いたいんだろう。私の小説を読んでくださいとか?ありそうだ。


「道久君と古織ちゃんを登場人物のモデルにさせて欲しいんです!」

「「ええーーーー?!」」


 俺と古織の声が綺麗にハモった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る