第28話 祇園
伏見稲荷大社を堪能した俺達は、京都駅にいったん戻ってから、バスで一路祇園へ。
「京都ってめちゃくちゃバス多いんだな……。205系統とか201系統とか覚えきれないぞ」
京都駅で苦労して、祇園行きのバスを探しだした俺たちだが、本当にややこしい。
「それに、人がすっごいよね……。こんなにギュウギュウなんて」
憂鬱そうなため息をもらす古織。じっさい、バスの中は、人で満杯。急ブレーキをかけたときなんかは、倒れそうになるくらいだ。
「もうちょっとしたら着くはずだから、それまでの我慢だ」
と言い聞かせている俺自身、バスの混みっぷりは予想外だった。
「やっと着いたよー!」
満員バスから解放されて、伸びをする古織。解放感でいっぱいと言った風だ。
「いや、ほんとにな。ここまで人多いのは予想外だった」
同じく、俺も伸びをする。しかし-
「祇園もやっぱ人が多いなあ」
バスの中と違って身動きが取れない程ではない。しかし、注意深く歩かないと人にぶつかってしまいそうだ。
「有名だから仕方ないよ。それより、お昼ご飯たべよっ?」
「だな。だいぶ腹も減ったし」
これから行く先は、祇園でも人気の会席ランチを安く提供しているお店。念のため予約もしてある。
そして、目的の会席ランチの店に着いた俺たちは、予約していた事を告げると素早く店内に案内される。
「しっかし。さすがに雰囲気あるよなあ。床も畳だし、内装も古めかしいし」
「歴史を感じるよね……」
などと、店内の雰囲気を楽しみながら、注文した料理が運ばれてくるのを待つ。
そして、注文してから約10分程して、頼んだミニ会席セットが運ばれてきた。
「おお!本格的だな。お吸い物、焼き魚?、天ぷら、……」
ミニ会席セットはいくつものお皿に分かれていた。それぞれが見栄えもよくて、そして、食欲をそそる。
「お吸い物は京野菜を使ってるんだって。あとは、いかの天ぷら、
「西京焼き、って初めて聞いたな。それに、京野菜って何なんだ?」
「京都特産のお野菜のことだよ」
「それって何か特別なのか?京都で出来たってだけじゃなくて?」
「品種が違うみたいだよー。だから、京野菜ってお値段が高いんだって」
「へー。野菜は野菜って思ってたけど、そんなのもあるんだな」
感心しながら、まずは鰆の西京焼きとやらに箸をつける。
「へえ。味噌味なんだな。ご飯が進む味って奴だ」
西京焼きというのが何なのかは知らなかった俺だが、どうも味噌に漬け込んだのを焼くらしい。
「今度、私が作ってあげようか?西京焼き」
「そりゃ、作ってくれたら嬉しいけど。出来るのか?」
「前にレシピ調べたことあるけど、そんなに難しくないみたい」
「じゃあ、今度頼む」
続いて、お吸い物に口をつける。味は薄いけど、何か心がほっとするような気がする。
「お吸い物って普段食べないけど、たまに食べるのはいいもんだな」
「うん。それに、お野菜いっぱいでヘルシーじゃない?」
「だな」
そんな風にして、京風ミニ会席を堪能した俺たち。
お値段は一人辺り、1080円だ。
「これだけ豪華なのが1000円ちょっととか凄いよな。コスパがすげえ」
「もう、みーくん!?今日は新婚旅行なんだから、コスパとか無粋だよぅ」
口を尖らせて不満そうな表情の古織。
「そうだな。悪い、悪い」
節約根性が染み付いてしまったせいか、安くて美味しいものをと考えてしまう。
お昼を食べた俺たちは、少しの間周りの景色を堪能した後、お目当ての人力車へ。
「お二人さん、お若いですね。今日はデートで?」
人力車を引く、20台くらいのお兄さんが話を振ってくる。
しかし、デートか。間違ってはいないんだけど……。
「私たち、今日は新婚旅行で東京から来ているんです」
少し恥ずかしそうにしながらも、正直に言ってしまう古織。
「ほう。新婚旅行ですか。ひょっとして、学生結婚ですか?」
ああ、そうか。俺たちの見た目からして、どう見ても社会人には見えないか。
「え、ええ。まあ。大学に入ってから結婚しまして」
高校生で結婚したというとびっくりされそうだったので、とっさに嘘をつく。
(ちょっと、みーくん?なんで誤魔化すの?)
(いやだって、高校生でって言ったら、ちょっとびっくりされそうだろ?)
(それはそうなんだけどー)
古織はといえば、俺がごまかしたのが不満な様子。
「学生結婚とは、そりゃまたお熱い。私も、まだ大学院生でして、付き合っている人も居ますが、結婚とかまだまだ考えられませんよ」
お兄さんの声色はどこか羨ましそうだった。実感は湧かないが、そういうものだろうか?
「でも、いい眺めですね。私達、人力車って初めてなんですけど、すっごい贅沢な感じがします」
「だよな。なんか、この見下ろす感覚っていうのか……」
バスでも車でも味わえない、少し見下ろすようなアングルは、何か俺たちが偉い身分になったような特別感が味わえる。
「はは。そう言ってもらえて嬉しいですよ。バイトでやってるんですが、お二人さんのような、お熱い夫婦やカップルのお客さんも多いですよ」
バイト、か。考えてみれば、大学院生の人なんだから当然か。
(ねえねえ、みーくん。お熱い夫婦だって?)
嬉しそうに耳打ちしてくる。
(ま、まあ、俺たち新婚だしな)
内心、お世辞じゃないか?と思ったけど、それを言うのは無粋だろう。
なんて思っていたら、ぎゅっと肩にしがみつかれる。
(ちょ、ちょっと恥ずかしいんだが)
(いいでしょ?新婚旅行なんだから)
(まあ、そうなんだけどさ)
恥ずかしい気持ちも強いんだけど、隣の古織の嬉しそうな表情を見て何も言えなくなる。
そんな風にして、のんびり1時間程人力車を堪能した俺たち。
「あ、降りる前に記念撮影でもしますか?」
いちゃついていた様子を見ていたのか、お兄さんからのそんな申し出。
「じゃ、じゃあ、お願いします」
スマホを渡して、ぎゅうっと肩を寄せ合っているアングルで何枚か写真を撮ってもらう。
その間中、古織はずっと上機嫌だった。
「それじゃあ、ありがとうございました」
人力車を堪能し終えた俺たち。
「さっきからやけに上機嫌だな?」
「だって、新婚旅行なんだなーって思えて来たんだもん」
「まあ、そりゃ、新婚旅行だしな」
「ちっちっち。みーくんはわかっていないんだからー」
言いつつも、相変わらず上機嫌だ。
「何がわかってないんだよ?」
「お嫁さんの気持ち!」
「いや、嬉しいのはよくわかってるつもりだが?」
「そういうんじゃないの!もうー」
賑やかに言い合いながら、肩を寄せ合って祇園の町を練り歩く俺たち。上機嫌な古織を尻目に、
(くすぐったいけど、こういうのもいいもんだな)
そんな事を考えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます