第27話 伏見稲荷大社

 新幹線の中で、着いたらあれしよう、これしようと話し合ったりしながら過ごすこと約2時間。俺たちは京都に到着。


「やっぱり、京都駅ビル、綺麗だよねー」

「ああ。ほんと。でも、面白い作りしてるよな」


 駅ビルの美しさに感嘆する俺たち。現在地は、京都駅の北側から改札口を出たところ。駅ビルの天井を覆う格子が不思議な雰囲気を醸し出している。


「でも、京都駅からなのに、奈良線って不思議だよね。なんで京都線じゃないのかなー」

「京都線は、大阪~京都間の路線の名前なんだとさ。Wikipedia知識だけど」


 なんてどうでもいいことを話しながら、伏見稲荷大社の最寄り駅である稲荷駅まで移動。


「着いたー。でも、入り口は割と普通なんだな」


 神社の入り口には、でん、と大きな鳥居が立っている。ただ、それだけなら、東京にだって大きな鳥居はあるのだ。


「あの、鳥居がずらーって並んでるところが、千本鳥居って言うみたい」

「まず、本殿……?ってところで、お参りしていこうぜ」


 手を繋ぎながら本殿を目指す俺たちだけど、まだ朝早くなせいか人はまばらだ。


「朝早く来て正解だったよな」

「うんうん。ちょっと贅沢な気分♪」


 時間が経てば、観光客であふれるらしいと聞いているけど、いい景色を独占出来た気がする。


 そして、本殿にて。五円玉をちゃりんと賽銭箱に入れて、お祈りをする。

 少しだけ目を開けて、ちらりと隣の古織を見ると、予想外に真剣な表情でお祈りをしている。


「で、古織は何をお祈りしたんだ?」

「うーん。秘密?」

「なんでだよ。別に言ったって減るものじゃないだろ」

「じゃあ、みーくんは何をお祈りしたの?」

「べ、べつにいいだろ。それくらい」

「じゃあ、私も秘密」


 譲る気はないらしい。仕方ない。


「わ、わかったよ。古織とずっと一緒にいられますようにって願ったんだよ」


 こういう場で改まっていうのはどうにも少し恥ずかしい。


「そ、そうなんだ。ありがとう」

「ど。どういたしまして」


 と謎のお辞儀をし合う俺たち。他に観光客が居たら、奇異に写っていただろう。


「で、俺が白状したんだから、古織も言ってくれよ」

「お、同じだよぅ」

「同じって。ちゃんと言ってくれよ」

「うぅ。その、みーくんと幸せな家庭が築けますようにって。あと……」

「?」

「いずれ、子どもが出来ますようにって」


 頬をうっすら染めて言う古織だが、それは。


「ちょ、ちょっと気が早くないか?」

「だって、夫婦なんだし、いずれは……って思うよ。みーくんは違うの?」

「そりゃ、俺だって同じだよ。でも、まだ先の話だろ」

「わからないよ?大学生の時に子ども出来るかもしれないし」

「そりゃその時は育てるけどさ」

「じゃあ、お願いしてもいいでしょ?」

「ま、まあそうだな」


 なんとなくうなずかされてしまったが、どうにも気恥ずかしい。


 それからしばらく歩いて、千本鳥居に到着。


「生でみるとすっごいねー」

「だな」


 鳥居が延々と続く幻想的な光景をしばし堪能。


「なんかさあ。RPGのダンジョンでこういうのありそうじゃないか?」


 鳥居を歩いていた時に、ふと思いついたこと。


「わかる!わかるよ!この後に、ボスが待ち構えてそう!」

「長い道が延々続いてる感じが、いかにもって雰囲気だよな」

「それじゃあ、みーくんがボスになってよー」

「え?いやいや、俺にボスっぽい風格ないだろ。古織の方がいいって」

「えー?私はボスよりもヒロインの方がいいなー」


 馬鹿話をしながら、鳥居が続く道を練り歩く。


「うーん。ボスはいなかったね。残念……」

「ボスはおいといて、この辺で記念撮影してこうぜ」


 言いながら、古織を抱き寄せる。

 鳥居を背景にしてのツーショットだ。


「こ、こうやってくっつくの照れるね……」


 緊張したような、照れた様子の声色の古織。

 カメラを構えながらの自撮りだから、フレームに収まるためにかなり密着する必要がある。


「もうちょっっと。もうちょっと寄ってくれないか?」


 言っている俺も、こうやって顔を寄せ合うのに照れていたりする。

 こんな体勢で密着することはあんまりないから、仕方ない。


「う、うん……」


 あと少しでほっぺとほっぺがくっつきそうなところまでひっついて、まずは一枚。

 続いて、二枚、三枚と撮る。何枚も撮って、写りが良いのを残せばいいという戦法だ。


「みーくん、見せて、見せて?」

「お、おう」


 先程撮った写真を二人で見る。


「これ、なんかバカップルぽくないか?」

「みーくん、バカップルって今更だよう」

「つってもな。自分でみるとこんななのかって、ビビる」


 スマホのプレビュー画面に写っているのは、照れくさそうに笑う俺たちの姿。

 しかし、古織が照れてるのはいいけど、俺が照れてるのは少し不気味だ。


「可愛くて撮れてるよー」

「いやいや、古織は可愛く写ってるけど、俺は不気味だろ」

「そんなことない。可愛いってー」

「つーか、俺に可愛いって。そこはカッコいい、だろ?」

「でも、これはカッコいいっていうより可愛いだって」

「うーん……そうかねえ」


 納得が行きかねるが、こんなことで言い争っても仕方がない。


「あ、みーくん。写真、ラインで送って?」

「ああ。ちょい待ち」


 スマホの画面をタップして、先程撮った写真数枚を転送する。


「はい。アルバム作ってみたよー」

「お。ラインってこんな機能もあるんだな」


 俺の画面には、「京都新婚旅行記念」という題名でアルバムが表示されていた。


「私も最近知ったの。こうしておけば、後で忘れにくいでしょ?」


 古織は何やら得意げだ。


「これ、撮った写真どんどん追記していけばいいのか?」

「うん。思い出写真、どんどん入れていこ?」


 その後も、しばらく朝の伏見稲荷を散策して、のんびり過ごしたのだった。

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