第16話 節約映画デート

 昼食が終わったところで午後の授業に入る。

 だが、俺は違うことを考えていた。

 放課後の映画デートのことだ。

 前回は高校生の普通料金で1000円だったが、安くする方法を調査してたのだ。

 定額サブスクサービスに加入することで、一律500円安くする方法。

 これは、毎週映画に行くのなら元が取れるかもしれないが、却下。

 そもそも学割が効いているのでこれ以上安くなりそうにない。


「みーくん、どうしたの?黄昏れてたそがれて。授業終わったよ」


 気がつけば古織こおりがそばに。

 もう授業が終わっていたらしい。


「映画料金節約できないかなと考えてたんだ」


 と先ほど調べた情報を話す。


「みーくんも、節約に執念燃やすね……」

「デート代は交際費だろ?少しでも安くできればと思ったんだ」

「頑張ってくれるのは嬉しいけど……少しだけ微妙な気分」


 古織は苦笑いだ。


「そうだな。デートであんま節約しようってのは無粋だった」

「いいよ。デートだって繰り返しだとお金かかるもんね」


 続けて、


「とりあえず、行こう?」


 と手を繋いで歩き始めた古織。

 市ヶ谷駅から映画館のある駅に移動する最中のこと。


「ここだと通学定期が効くけど……交通費も意外と馬鹿にならないね」


 一緒に座って、俺に腕を絡めながらそんな事を言ってくる。

 周りからは仲睦まじいカップルに見えてるんだろうな。

 ちなみに、学校への通学定期代はお義父さん持ちだ。

 1ヶ月の通学定期代入れると7万円とかぜって−無理だしな。


「人のこと微妙だと言っといて、同じこと考えてるじゃねーか」

「交通費だけで200円とか300円とか考えると気になるよぅ」

「節約考えるのはいいけど、考え過ぎてストレス溜めないようにな」


 脇から手を回して身体をぐっと寄せる。

 案じている気持ちが伝わるようにと。


「うぅ。これだと、バカップルみたい……」

「今更だろ。さんざん学校で見せつけといて」

「電車の中だとちょっと違う気分なの!」

「ま、まあ。それは俺もだな」


 ちらほらと視線が突き刺さる。

 しかし、こうして見られるのは意外と気分がいい。


 そして、映画館に到着。


「映画館のジュースって高いよね」

「そこは仕方がない。どうする?」

「……今日は我慢する」


 ちらちらと映画館限定のドリンクを見ながら言う。

 ここまで我慢させちゃうと本末転倒だよな。


「ちょっと待っといて」

「う、うん……?」


 スタスタと歩いて、限定タピオカドリンクを買う。


「ほい、これは俺の奢りな」


 タピオカドリンクを渡された古織は目を丸くしている。


「いいの?600円もするけど」

「お小遣いはそんな使わないし。共用のじゃなきゃいいだろ?」


 ちょっと格好をつけてそんなことを言ってみた。


「みーくん、ありがと。こういう時は優しいね」


 真っ直ぐ目を見つめてそんなことを言われる。


「こういうとき、は余計だっての」


 ちなみに、俺は一番安い300円のドリンク。

 合わせてお小遣いから900円の出費だけど、たまにはいいか。


 そして、いつものように映画を鑑賞する。

 俺も古織も映画は雑食だけど、今回は恋愛ものだった。

 幸い、微妙にマイナーだったので席は割と空いていた。


◇◇◇◇◇


「んー。結構微妙だったね……ドリンクは美味しかったけど」

「同感。ちょっとご都合主義過ぎるよな」


 映画館の帰り道で、手を繋いで感想を語り合う。

 喫茶店でお茶しながら感想を、なんてのはナシだ。


「ご都合主義はいいんだけど……」


 こめかみに人差し指を当てて思案した様子。


「ということは、違うところが駄目だったのか?」

「ヒロインが二股かける理由がぜんぜん共感できないの!」

「遠恋だといっても、簡単に浮気しすぎだよな」


 見た映画はドロドロ系恋愛もの。

 そういうのは二股だったり浮気が題材なことが多い。

 今回は、ヒロインが遠恋に耐えきれず……みたいな内容だった。


「説得力がほしいよな。相手の男が連絡よこさなくなったとかさ」

「それでも、気持ちを確かめずに暴走したのは、嫌だったな」


 古織はそういう身勝手な暴走が嫌いなタイプだからなあ。


「まあ、古織的にはそうだろうなあ」

「ところで、みーくんは、私と離れて暮らしたらどうする?」


 何気ない問い。


「ずっと一緒だったから、考えたこともないな。でも……」


 想像してみる。古織の居ない風景を。


「いや、やっぱお前の居ない風景は考えられないな」


 ほんと、ずっと一緒に過ごしてきたから。


「も、もう。嬉しいことを言ってくれちゃうんだから」


 言うなり、古織はこてんと俺に肩を寄せてきた。


「節約しながらでも、結構イチャイチャできるもんだな」


 隣の古織が可愛くて、でも照れくさくて。

 そんなことを言う。


「うん。節約しながらでもいっぱい楽しめそう」


 楽しそうにつぶやく彼女。

 満たされた気持ちになりながら、夕暮れの中を二人帰ったのだった。


 本日のデート料金:2000円。

 俺のお小遣い:-900円。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る