第14話 スクールカースト談義

 GW明けの5月7日木曜日。ほどほどに暖かい、私立南條高校なんじょうこうこうの朝の教室。


 朝のホームルームまでまだ20分程。

 生徒はそれぞれ思い思いのグループに属して会話を楽しんでいたり。

 あるいは、一人で淡々と勉強を、読書を、ゲームをしている。

 ゲームをしている奴、成績大丈夫か?と思う奴もいるだろうが、そういう奴が意外と勉強せずに授業だけで好成績を取れる猛者だったりするから油断ならない。


 それはともかく、俺にはふと疑問に思ったことがあった。


「スクールカーストってなんだろうな」


 俺たちは、古織こおり幸太郎こうたろう雪華せっかを含めた4人のグループで行動することが多い。今日も、俺の席の周りでだべっていた。古織は「みーくんの机だから」というよくわからない理由で、俺の机を椅子にしたがるのが困りものだが、それはおいておこう。


「みーくん、どうしたの急に?」


 はてなという顔の古織。


「いやさ、ラノベでもネット小説でも、最近スクールカーストが出てくるじゃん」

「確かに、よく見る話だけど……」

「カースト最下位の僕がカースト最上位の美人に惚れられた!とかさ」

「現実の学校でもスクールカーストがあるから、フィクションにもそれが出てくるだけじゃないかな」


 冷静に返すのは幸太郎。幸太郎は読書が趣味なだけあって博学なところがある。


「そこまではググったら出てくるんだけどさ。このクラスってカースト、あるか?」


 そこが根本的な疑問だった。


「ややこしいこと言い出すわね、道久は」


 ため息をつく雪華。


「いやだってさ、このクラス、別に序列ってない気がするんだよ。グループはあるけどさ」


 3年生になって1ヶ月クラスを観察して得られた結論がそれだった。


「人気者はいるんじゃない?君とか、古織ちゃんとか、雪華もかな」

「そこに私が入れられるのは少し遺憾ね……。ついでに、さらっと自分を外すんじゃないわよ」


 苦い顔をする雪華。

 常識人を自負する彼女は、突拍子もない行動をする俺たちと一緒にされるのが嫌なのだろう。


「雪華はツッコミ役ってことで。軌道修正するやつが一人はいないと」


 この面子はどちらかというと皆ボケ寄りの芸風だ。

 一人は常識人枠が居ないと会話が延々と脱線しかねない。


「じゃあ、お言葉に甘えて軌道修正させてもらうけどね」


 と右手を顎に置いて続けた。彼女が考えるときの定番のポーズ。


「そもそも、私達のグループが上位カーストなんじゃないかしら」

「全員彼氏彼女持ちだしね。フィクションで言えば上位カーストのように見えるかもしれない」


 その言葉には異論がある。なぜなら。


「私達は夫婦だよー!」

「だよな!」

 

 彼氏彼女の関係と嫁と旦那の関係は違うと強く言いたい。


「だー!だから、話を脱線させまくるんじゃないわよ!」


 雪華がキレた。


「そういう枝葉末節はおいといて、単に私たちが上位カーストだから気づいてないだけじゃないの?」


 恵まれたものには、恵まれてないものの気持ちはわからないという論法か。


「しかし、俺は言わずと知れた変人枠。古織も、容姿とか仕草が可愛いから人気あるけど、俺とセットで扱われてる感じで、「あー、この二人ね」って感じじゃないか?上位と言われると違うんだよな」

「わかるわかる!私達は別枠みたいな扱いだよね」


 うんうんとお互い頷きあう。さすがに相方。よくわかってる。


「あんたらが自己紹介でふざけたことするからだと思うわよ」


 そして、雪華の冷たい視線。


「でも、道久の言ってることはあたってると思うよ。スクールカーストと言っても実態は千差万別。たとえば、スクールカースト研究の書籍を読むと、運動系部活がカースト上位、文化系部活が下位、みたいな事が書いてあるけど、うちだとむしろ逆じゃないかな」

「だよな。どっちかというと、文化系、特に理系の部活ってうちだと実績挙げてることが多いから上位って感じで、ゴリゴリ体育会系の方がちょっとダサいみたいな風潮があるし」


 私立南條高校は、県内でも有数の進学校だ。それ故か、どちらかというと運動ができる奴よりは勉強が、それもガリ勉ではなく自然体でサラッと好成績を取れる奴の方がちやほやされる風潮がある。


「でも、やっぱり独り身の生徒は君たちみたいなのを内心羨んでるのも多いと思うよ」

「それを言われると弱いな……。古織が一緒が普通だったから、彼女持ちが羨ましいって感覚がわからん」

「私も。ちょっと変だけど優しい旦那がいて羨ましいね、なんて言われるけど……」


 二人揃って首を捻る俺たちである。


「ってちょっと待て。いい旦那がいて羨ましいね、じゃなくて、ちょっと変がつくのかよ!」

「仲良い子からはだいたいそんな風に言われるよ?あ、もちろん、私はカッコいいと思ってるよ!」

「取ってつけたような慰めが心に突き刺さるんだが」


 自覚はあるが、だいたいそれだって、古織に巻き込まれた部分だって大きいのだ。


「あんたら見てて思ったんだけど、道久も古織も、ずっとそんな感じで「特別枠」だったから、スクールカーストって枠組みの外に居た気がするのよね。上とか下じゃなくて、最初から特別枠」

「僕もその意見には賛成だね。最初から枠の外だったから、ピンと来ないんじゃないかな?」

「そう言われると否定しづらいな。俺たちは身分制度の外にいる存在ってことか」


 それはそれで納得行く結論ではある。


「スクールカーストって奴も難しいもんだな」

「道久たちはそのままでいいと思うよ。わからない人はわからない問題だろうし」

「私も賛成。幸太郎も似たようなものだと思うけどね」


 そんな風に結論付けられてしまった俺たちはお互い目を合わせて、微妙な表情になった。

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